ある老犬との暮らし [16]まあだだよー

[16] まあだだよー (2000年7月)

タロにとって15度目の夏がやって来ました。最近の彼は、私共が心配していた前庭症候群の発症もなく、ヨロヨロながらも落ち着いた日々を過ごしております。その一日のほとんど90%は睡眠ばかり、残りの10%で、数回の小用と2回の食事をするという訳です。小用は、(人に助けてもらって)庭に出て、自分で出来ますが、大きい方は、それを催して来たことを私共が察知して急いで連れ出すのですが、どっこい間に合わずに、きまってその途中に2,3個のオミヤゲが転がることに相成る訳です。
幸い、最近のそれはかなり硬くて後始末は至極簡単ですが。この頃私共は、この事を叱るよりは誉めてやることにしています。毎日1回の通じがあることが好ましいからです。実は少し前まではかなりの便秘が続いていました。後脚が弱くて排便スタンスがうまくとれないからか、それとも腸の力が弱くなったからなのか、中々それが順調には行かず、貯まって来ると実に気分が悪そうで落ち着かず、ついには浣腸のお世話になる日々でした。小用の方は、時折外に連れ出されるのに合わせて必ずやれるのですが、大の方はそう思うようには出来なかったのでしょう。それが、たとえこういう形ででも、習慣的に出てくれるようになれば嬉しいのです。

そして、とても幸いなことに、以前はよく起こっていた、下痢がなくなりました。その理由は、一つは街路での散歩が無くなったので汚れた物を嗅いだり舐めたりしなくなったこと、もう一つは獣医さんの教えに従って脂っこいものなどを避ける(又は調理の段階で脂分を徹底的に除く)ことを心掛けているからだと思います。

さて、ほとんど寝てばかりとは言え、その様態は色々です。萎えてしまった筈の後脚を盛んに蹴って、昔の山野を駆け巡っているのであろうという様もよく見ます。眠りが浅くて、薄目を開けて、クロコダイルスタイルで、どうやら近くの人間の動きを辿っている風というのもよくあります。それに、特に夜半には、体に触れてもまったく反応が無く、泥のように・・・という状態が、最近増えて来ました。おまけにこんな時には、呼吸回数が非常に少なくなっているので、私共家族は「もしや・・・」と、目を凝らして、ついこちらも呼吸するのを忘れて、タロのお腹が再び盛り上がって来るのを待つことになるのです。

呼吸が大丈夫なのを確かめて、ほっと安心してから、その気持ちの反動で、あの黒澤監督作の最後の映画を思い出してしまいます。そして音にならない声で、「まあだだかい?」と聞いてしまうのです。そして彼が、寝姿のまま「まあだだよー。(あしたも生きるよー)」と応えているような気がして、やっとこちらも安らかな眠りに就けるという訳です。

(愛知県 T.Iさん Ext_linkTaro’s Home Page )

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