Barry Eatonの「聴覚障害犬のトレーニング」part4

Barry Eatonの「聴覚障害犬のトレーニング」part4 

前回までは、犬とのコミュニケーションの方法および、それをいつどのように使うかについて検討してきたので、今度はトレーニングについて考えてみましょう。トレーニングの原則は、好ましい行動は褒め、好ましくない行動は、あまりにも悪い場合にはその場で止めさせますが、そうでなければ無視することです。従って、犬は何かをよくできた場合にはご褒美がもらえ、うまくできないときはご褒美なしということになります。

私が使うトレーニング法は、ほとんどの場合犬に手を触れません。犬のお尻を下に押して座らせるという従来の方法では、片手で犬を押さえつけながら同時にハンドシグナルを出すということが難しいからです。前述のハンドシグナルのガイドラインさえ踏まえていれば、飼い主はどのようなハンドシグナルを使ってもかまいません。私が自分の聴覚障害犬Ladyに使っているハンドシグナルは、私にとっては使いやすく、Ladyも理解してくれていますが、だからと言ってその通りである必要はありません。

Sit (座れ)
犬にトリートを見せてから、それを開いた手のひらの上に乗せる。親指でトリートを押さえ、手のひらが下になるように手をひっくり返す。その手を犬の鼻の真上に持ってきてから、犬の頭上を少し後方に動かす。犬はトリートを見ようとして、上向きになり頭を後ろに動かすのでお尻が下がる。まさに座ったその瞬間トリートをあげ、微笑み、撫でてあげる。もしもトリートを持っているほうの手ばかり目で追うようなら、ハンドシグナルに使っていないほうの手にトリートを移し、ハンドシグナルだけをやってみる。犬が座ったらすぐにもう一方の手からトリートをあげ、微笑み、撫でる。この時点で犬は自分の動作とハンドシグナルを結びつけたことになる。

Down (伏せ)
犬を座らせた状態で、トリートを持った手を犬の前肢の中間あたりを前方の床に近づけるようにゆっくり下げてくる。犬はトリートを取ろうとして伏せの姿勢になる。伏せができたらすぐにトリートをあげ、微笑み、撫でる。犬は次第に床に手をつけたシグナルが伏せのシグナルであることを理解してくる。そうなったら、手を下げてくる位置を例えば床から5センチのところまでにして、犬が伏せをするのを待つ。これがいつもできるようになったら、今度は床から15センチ離れたところに、そして最終的には手の下げ幅をだんだん少なくして飼い主は立ったままで床を指差すだけで伏せのシグナルとなるようにする。

Heel (ヒールウォーク)
トレーニング中は、飼い主の右または左側のいずれか一方に決めて犬を歩かせなければならない。どちら側かは自由。リードは常に弛みをもたせておくことが重要である。なぜならリードが張っていると犬は張力に対して引っ張ってしまい、そのため犬に引っ張ることを習得させてしまうからである。例えば左側に犬を置く場合、飼い主は左手にトリートを持ち、その手を自分の左足の脇の犬の鼻の高さに下ろす。飼い主が歩くと犬はトリートを持つ手についてくる。2−3歩あるいたら止まり、犬にトリートをあげ、微笑み、撫でる。このプロセスを繰り返し、今度は4−5歩あるいてからトリートをあげる。犬がコンスタントにできるようになったら、トリートは右手に持ち替えるが、左手は相変わらずトリートがあるがごとく振舞う。3−4歩あるいたら立ち止まり、トリートをあげる。この時点で犬は「ヒールウォーク」のハンドシグナルと行動を結びつけていることになる。

犬が引っ張ったら、方向を変えるか今来たところを引き返し、「ヒールウォーク」のハンドシグナルを出して再び開始する。犬がまた前方に引っ張ったら、2歩前進し、方向転換、また2歩進んで、方向転換を繰り返す。こうすると犬はどちらの方向に行くのかが分からないので飼い主にしっかり注目しなければならないと気付き始める。犬が飛び上がったら、停止。この場合は犬を見たり触ったりせずに、落ち着くのを待ってから再び開始する。

このハンドシグナルは最終的には、指を開いた状態で左腕をまっすぐに下ろした形となる。

Stay (ステイ)
犬が飼い主を見ていることが重要であるため、飼い主は犬のまん前に立ち、裁判の時の宣誓のように片腕をあげる。この時点で、犬は座っていても、伏せていても、または立っている状態でも、その場所にとどまっているかぎりかまわない。のちに犬が座れや伏せのコマンドを習得し、かつ「ステイ」のハンドシグナルを理解したら、この二つのコマンドを合わせて「座って待て」や「伏せて待て」ができる。飼い主は一歩後ずさりして、すぐに犬のところに戻る。微笑み、褒美をあげる。犬がステイを上手にできるようになったら、少しずつ遠くに離れてみる。ハンドシグナルは飼い主が犬から遠ざかるに従い少しずつ変化し、腕がだんだん前に伸びてくるので、手は垂直に警察官が交通を止めるときのような形になる。この練習中に犬が歩き出したら、犬のそばに戻り、犬をもとにもどしてやり直す。犬が飼い主を見ていない場合は、中断し、犬の注目を確認してから飼い主は後ずさりする。犬がステイをしている間は、その行為を強化するために犬に微笑むことを忘れないこと。

Recall (呼び戻し)
呼び戻しはすべての飼い主が犬に習得して欲しいと望む、おそらく最も重要な訓練であろう。犬を飼い主のもとに戻って来させるという行為は次の2つの要素で構成されている。第一に犬は「呼び戻し」のハンドシグナルを理解しそれに従わなければならない。二つ目は犬が自発的に飼い主に注目することを仕込まれていなければならない。

呼び戻しのハンドシグナルは、大げさで明確でなければならない。家族全員トリートをもって庭に集まる。まず初めにトリートを囮に最初のメンバーがおびき寄せる。犬がそこまで来たら、逃げないように首輪をつかんでからトリートをあげる。次のメンバーが犬を“呼び”、犬がやって来たら首輪をつかみ、トリートをあげる。次第に犬は、家族の一人ひとりのところに行くと楽しくていいことがあることに気付き、そのうち“呼び戻し”のハンドシグナルと誰かのところへ行く行為とを結びつけるようになる。犬がよくできたときには微笑みを忘れないこと。また犬の首輪をつかむまでは、犬の上に屈まないことも覚えておくこと。

犬が家族のすべてのメンバーのところに確実に行けるようになったら、次に近所の人や友達の庭など、安全でしかし犬にとってはあまり慣れていないところで練習してみること。

次の段階は、犬に自発的の飼い主を見ることを教えることである。犬に長いロープを付け、トリートあるいは犬のお気に入りのおもちゃをもって庭の中を歩き回る。この際犬が行きたいほうに行かせるようにする。そのうち必ず犬は飼い主のほうを振り向く時がくる。そうしたら、呼び戻しのハンドシグナルを出し、犬がやって来たらトリートをあげたり、おもちゃで遊んであげる。犬が自発的に飼い主のほうを見ない場合は、飼い主は犬の視界に入る場所まで歩き、犬の注意を引いてから、呼び戻しのハンドシグナルを出す。犬が飼い主が何かいいものを持っていることに一旦気付けば、トリートがもらえたりおもちゃで遊んでもらえることを期待して飼い主のほうを見るようになる。

次の二つの点を留意すること。ここで使うロープはあくまでも犬がどこかに行ってしまうのを防ぐためであり、犬を引き寄せるためではない。次に褒美は犬が完全に飼い主のところまで戻ってきた時のみ与え、途中まで来たときには与えてはならない。

散歩の時は頻繁に方向転換をし、犬がどちらの方向に行くのかを分かりにくいようにする。どっちに行くのか分からないと、犬は飼い主をよく見るようになる。またおもちゃを取り出し少しの間遊んでから犬が飽きる前におもちゃをとりあげる。そしてしばらくしたら再び取り出して、また少し遊ぶ。こうすると犬はいったいいつ遊んでもらえるのかを常に期待するようになり、飼い主にいっそう注目するようになる。

これまで述べてきたトレーニングの方法は、行儀よく従順な聴覚障害犬を育てるための基本です。聴覚障害を持つ犬もこれまでに服従競技やアジリティー、フライボールなどで優秀な成績を修めてきました。聴覚障害犬に何ができるかということはむしろ人間側のイマジネーションと熱心さの限界で決められてしまっているのです。

Ladyはきっともっと多くを成し遂げることができたはずです。私がもっと想像力に富んでさえいたら!

最後に、聴覚障害パピーのトレーニングの見通しはそれでなくても気後れを招きそうなうえに、これから立ち向かわねばならないその困難さによって多くの人達を遠のかせてしまうことでしょう。パピーのトレーニングをうまく表現している言葉が数多くあります。ざっとあげてみても、根気、忍耐、全力投球、時間と献身。これらの言葉を何度も掛け合わせると、聴覚障害をもつパピーのトレーニングがどんなものか想像できるでしょう。短時間でできる、近道や魔法の解決策はありません。しかしながら、環境が揃っていて正しいトレーニング法を使えば聴覚障害パピーの訓練は可能です。あなたの努力はいずれ必ず報われ、あなたはパピーとの関係を心ゆくまで楽しむことができるでしょう。(2008/2/4)(Barry Eaton)

Barry Eaton’s WEB 

翻訳:MaxHolly&Noahのママ

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