小林信美の英国情報 (11)愛犬と行くヨークシャーの旅(4)

小林信美の英国情報 – 愛犬と行くヨークシャーの旅(4)

今回は、愛犬と行くヨークシャーの旅シリーズの最終回である。リードなしで犬の散歩のできる公園に恵まれたロンドン。ところが、ここ数年の人口増加、また政治改革のあおりを受け、今まで愛犬OKだった郵便局等の公共施設から犬が閉め出されるという状況が目につくようになった。そこで事態を憂慮した筆者は、都市部以外での状況はいかにと、愛犬と共に一路ヨークシャーへと向かう。

過去二回の報告でも明らかであるが、のどかで過ごしやすいはずの「カントリーサイド」でも、実はそれなりの面倒な「きまり」があるということがおわかりになったと思う。今回の旅で特に困ったのが、オフリードで犬を散歩させられる公園などがほとんどないことだった。もちろん自宅が犬をオフリードで自由に散歩させられる森のある公園から徒歩1分という、愛犬家にとっては理想的な環境(であると今回の旅で痛感した)にあるため、犬を散歩させる場所選びにぜいたくになっているということをここで忘れてはならないが。

それでも田舎には違いないが、さすが「シティ」(*1)といわれるだけある。ヨークにはオフリードで犬を散歩させられる場所がところどころあるのだ。もちろん、ロンドンに比べその数や規模は劣るが、過去2日間リードでの散歩を強いられた私とマチルダには救いの神であった(写真1参照)。

(写真1 : Ouse 川にかけられたMillennium Bridge)

ヨークで特に気になったことといえば、ロンドンでは犬も歩けば式に出くわすスタッフォードシャー・ブルテリアの数が非常に少ないことだった。元闘犬であり、マスコミ報道の影響などからここ数年あまり評判のよくないこの犬種だが、ヨークでは特に人気がないようである。そのせいだろうか。愛犬連れの人たちに終始、避けられているような気がしてならなかった。

大聖堂、城壁などがあり、観光都市として有名なこの街 (写真2参照)。特に金曜の午後というだけあって城壁内は観光客と買い物客がごったがえし、川のほとりのパブでお昼でもと思っていたが、それどころではなかった。

(写真2 : ヨーク・ミンスターにて)

また、城壁内、至る所にあるベンチもすでに家族連れに占領されており、特に子供連れの家族は、マチルダを汚い物でも見るような顔つきでしっかりと避けて通る様子には、いささか閉口させられるのであった。

そういうわけで、2日間の田舎暮らし(?)で都会の喧噪に耐えられなくなった私たちは、ろくにお昼も食べずにタクシーで今晩の宿へと向かった。ここで驚いたのは、こちらのタクシー会社は犬連れOKなことである。もちろん、マチルダは助手席側の床に座らせなければならなかったが、ロンドンでのいざこざを思い起こすと、宗教の違いは大きい。運転手の態度が非常にリラックスしているのが大きな特徴だった(第一話参照)。

宿はここで紹介できるほどすばらしいところではないので詳細は割愛させていただくが、シェパード犬が2頭いるだけあって、犬は一応、歓迎のよう。少なくとも、Whitbyの時のように細かな決まりはなかった(第二話参照)。部屋はそれほど清潔ではないが、それだけに犬連れということを気遣わずに済み、気楽ではあった(写真3参照)。

(写真3 : 旅の疲れからB&Bのベッドで熟睡するマチルダ)

さて、出発の朝が来た。3泊4日という短い旅であったが、大学時代の3年間をこの地で過ごした私は、これでまたしばらくヨークシャーなまりを聞くこともなくなるのかと思うと、少しさびしい気がした。

割安の切符のため汽車の時間まで十分余裕があり、市内を散策しても良かったのだが、土曜日というだけあり、街中は昨日より混雑していた。そこで、駅の近くの公園でひなたぼっこをかねお昼寝することになった。こんなことだったら、もっと早い時間の汽車を予約すればよかったと思ったが、切符の交換には多額の料金がとられると聞いていたので、観光日和でもったいない気もしたが、ヨークシャーの旅の最後は、一家で時間つぶしの昼寝で終わることとなったのだった(写真4参照)。

(写真4 : 駅の近くの公園でお昼寝)

行きの汽車が混雑していたため、始発駅でないヨークから乗車し座席が容易に見つけられるか不安になったが、意外や意外。車内は空いているどころか空席もかなりあったため、都合のいい場所に適当に移ることができ、非常に快適な旅となったのである(写真5、6参照)。


(写真6 : 車椅子利用者専用座席を利用で快適な旅)

ゆったりとした席が見つかりほっとしたのもつかの間。途中、転てつ機などの故障などもなく(地下鉄では意外によくあることなのだが)、あっという間にキングスクロスの駅についた。あまりの荷物と疲労のため、費用はどうでもいいからと黒キャブに乗ることにした。この日は北ロンドンのエミレーツスタジアムでサッカーの試合があるため、それほど遅くなかったのだが道路は渋滞気味だった。というわけで、せっかく汽車の運賃を節約したのに、タクシー代だけで汽車賃の半分以上の出費を食らうはめに。しかし、高い運賃をはらっているだけあって、マチルダは問答なしにOKだった。以前、黒キャブを利用した時も大丈夫だったので、黒キャブは犬連れ歓迎だと思ってよいようである(写真7参照)。

(写真7 : 旅の疲れが明らかなマチルダ)

運転手は典型的なロンドンキャブの運転手らしく、ヨークシャーなまりに慣れた耳には懐かしいコックニーなまりの(?)おしゃべりなお兄さんだった。しかし、さすがロンドンキャブの運転手だ。ぺらぺらあることないことしゃべりまくりながらもうまい具合に裏道を選び、30分もしないうちに自宅に到着。荷物をおろして、マチルダを庭に出すと、これで彼女の散歩をどこにしようかと悩まなくても済む、とほっとした気持ちになった。

外国人の移民が増え、人口爆発がささやかれるロンドンでは、安らかな暮らしを求め「カントリーサイド」に引っ越すイギリス人が増えているようだ。しかし、今回の旅では、田舎には田舎のよさがあるが、北ロンドンにはそれなりのよさがある、まんざら捨てた物ではないということを再確認することができた。現在、金融危機に直面しているロンドンでは、90年代後半から10年ほど続いた好況により引き起こされた社会の変化を見直す時期に来ている。これを機会にロンドンのみならず、イギリス全体が愛犬家にとってもっと暮らしやすい場所になるとよいのだが。

参考資料 :

(*1) 英王室によって「都市」として認定された町。
http://www.ukcities.co.uk/definitions/

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