動物孤児院 (89)スペインの離れ島で考えたこと

動物孤児院 (89)スペインの離れ島で考えたこと

夏休み : 空港にも犬連れ客

ドイツのヘッセン州も1週間前から夏休みに入った。夏は普通、涼しいドイツの我が家で庭いじりをする私だが、今年は珍しく国外に出ることにした。このところ天気が悪く、寒くてジメジメした日が続いたので「本物の夏」を味わいたいと思ったからであるが。行き先はカナリー諸島のひとつ、ラ・パルマ島である。フランクフルトからアフリカ沖のラ・パルマ島まではちょうど東京から沖縄に行く感覚で、4時間ちょっとかかる。

空港の待合室で犬を見かけた。

ドイツ人が一度にとる休暇はだいたい1週間から数週間。年に4週間は有給休暇があるので、犬を飼う際には「休暇のときは犬をどうするのか?」とブリーダーやティア・ハイム(動物ホーム)から必ず訊かれる所以がそこにある。

待合室で真向かい側に腰をおろした犬連れ一家は島の友人ファミリーを訪問するのだと言った。専用バッグに入るサイズの小型犬だと気楽に国外にも連れて行くことができる。チェックイン・カウンターではグレイハウンド系の犬を大型ボックスに入れようと苦労している乗客もいた。横には猫の入った小型ケージもあった。島に別荘があるのかな。ちなみに料金は、機内サイズ(犬の入るバッグも含めて6キロ以内)は50ユーロ(約5千円)、専用ケージに入れて預ける場合は75ユーロかかる。

島の幸せな犬と、そうでない犬

いつもならコテージを借りて自炊するのだが今回は初めて食事付きのリゾートホテルに宿泊した。当然ながらそこには犬連れはいなくて、ホテルの敷地内で見た動物と言えば、侵入してきた野良猫が数匹。海を見下ろすテラスでの朝食テーブルでドイツ人やイギリス人の客からハムやチーズをもらっていた。

コテージに滞在すると、スペインの現実がもっとはっきり見えてくる。コテージや近所に住み着いている猫が子猫を数匹伴って滞在客におねだりに来る。コテージにはドイツ語で「猫が来たら餌を与えてください」とキッチンに書いてある。第1日目、自分たちの食料のほかにキャットフードも仕入れる。心の中で、本当は避妊去勢を施してからの餌やりなんだけどなあ、とつぶやきながら。

夜、近所や山のほうから何頭もの犬のキャンキャンとすさまじい鳴き声が聞こえてくる。これはどこにいても聞こえてくるので避けようがない。村を歩き回ってみればすぐわかるのだが、鶏小屋かと思って汚い檻を見ていると中にいるのは複数の猟犬だ。檻の中なのにつながれている犬もいて、ドイツだったらすぐに警察がすっとんでくるところだ。しかし島では当たり前の光景である。じっと見ていると飼い主が母屋から出てきて「オラー!」と挨拶をしたりする。人のよさそうな笑顔なのに、犬に対してはどうだろう。

小型の愛玩犬はずっとラッキーで、村をうろつく外国人ツーリストを見てはうるさく吠えるが、家族の人が出てきて、「こらっ、吠えるでないっ」と(当然スペイン語で)たしなめる。私が「屋根犬」とニックネームをつけている犬たちは文字通り家の屋根の平たくしてある部分(広いバルコニーと呼ぶべきか?)を走り回り、ツーリストを見下ろして、これもうるさく吠えたてる。狭苦しく不潔な小屋に閉じ込められている猟犬たちと屋根犬たちの待遇は雲泥の差である。

檻で飼われるポデンコという種類のこの猟犬は(2年前にもここに書いたことがあるが)、実は本当によい家庭犬になる素質があるのだ。(写真2)しかし、島では飼い主に愛されるわけでもなく、猟の後、不要になると山に置き去りにされたり殺されたり、と哀れな最後が待っている。今回も、あばら骨がくっきり見える野良ポデンコを山の中で見かけた。幸運な野良ポデンコだと、ドイツ人保護家によって捕獲され、ドイツに空輸される。ドイツに連れて来られたポデンコに何度か会ったが、家の中ではいるのかいないのかわからないくらい静かで、性格は繊細である。

ドイツの動物愛護法が改正されることに

ドイツに戻ってきて新聞を開けると、数ヶ月前から話題になっている動物愛護改正案のことが第一面に取り上げられていた。ふだんはドイツ人の悪口を言っている私だが、こういうときは「さすがドイツ」とほめまくる。

もともと動物愛護の先進国であるドイツがさらに法律化しようとしていることがいくつかある。たとえば子豚の去勢。麻酔なしに子豚を去勢してはならない、という法律化。

私たちの多くは豚肉を食べるときにそこまで考えない。おいしいか、まずいか、柔らかいか、硬いか、ということは考えても、豚は少し前まで生きていたのであり、堵殺されたのであり、オスであれば子豚のときに去勢されたのである、などということまで考えるだろうか? いや、知ろうとするだろうか?(島のホテルで、夕食に子豚の丸焼きが出た。産まれて3週間ほどだろうか。耳も鼻も目もついた小さな頭をイギリス人の子供が目を真ん丸にして見つめていた。)

あらゆる動物に、苦痛なく生きる権利がある

他にも、いろいろな法案がある。

○繁殖を通して動物を極端に小型化したり、無毛にしたりすることは禁止。
○毛皮をとる目的で動物を飼ってはならない。
○即売会展示場での爬虫類の取引は動物にストレスがかかりすぎるのでダメ。
○ロデオの禁止。

小型犬に関して言えば、小さければ小さいほど価値があがるとばかりに、さらに小型化した犬を売る側と、「小さいほどかわいい」と思って買う側、両方が理解して納得しなければならないのだが、それには高度の民度が不可欠だ。民度の向上を待っていたら、本当の動物愛護には気の遠くなるような年月がかかるのではないだろうか。

サブコンテンツ

カテゴリー

このページの先頭へ