幸せになったリジェクト犬 : ブルーム(♀)4歳

幸せになったリジェクト犬 : ブルーム(♀)4歳

リジェクト犬とは盲導犬になれなかった犬のことです。プリズン・パートナーシップ・プログラムで育成されたある犬のお話です。

島根県にある「島根あさひ社会復帰促進センター」は、官民が協働して運営している刑務所です。受刑者の再犯防止を最優先にし、社会復帰するための様々なプログラムがあります。そのひとつに盲導犬パピー育成プログラムがあります。受刑者がパピーウォーカーとして寝食を共にしながら約10ヶ月間育てる社会貢献プログラムです。

センターは受刑者の職業訓練を主としてはいますが、刑務所ですので、外部には出られません。受刑者は月曜の朝から金曜の夕方まで、ウィークエンドパピーウォーカーが、金曜の夜から月曜の朝まで担当します。

盲導犬の育成で必要な事は、幼い頃にたくさんの人から愛情を受けることと、どんな時も平静を保てるように、様々な体験学習をさせながら育てます。

人混みや、デパート、工事現場の音、車の往来の激しい道路、車のクラクションなど大きな音は、刑務所の中では確かに体験できません。

さて、ブルームちゃんはどうして盲導犬になれなかったのでしょう。

2期生として、島根あさひ社会復帰促進センターで過ごしたブルームちゃんです。

ラブラドールとしてはちょっと小柄なブルームちゃん。10ヶ月のパピーウォーカーとの愛情深い暮らしを経て、訓練所に戻って盲導犬としての適正をはかられます。

盲導犬は左について歩かなければなりません。信号を見て止まらなければなりません。何があっても冷静でいなければなりません。そして怖じ気づいてはいけません。

ところが、ブルームちゃん、小さい犬が大好き、向こうから小さなわんちゃんが来るとびゅーんと引っ張ります。そして、磨りガラス越しに見える影におびえます。びびりやさんなんですね。これが盲導犬になれなかった大きな理由でしょう。と言うことで、キャリアチェンジです。リジェクト犬として、一般家庭犬へと家族を探していました。

手を挙げたのはSさん姉妹です。82歳のお母様も同居しているファミリーです。Sさん姉妹はお二人とも犬好きで、かつては大きなラブの男の子と暮らしていました。またラブラドールと暮らしたいと言う思いが募り、日本盲導犬協会にボランティア登録をしたそうです。

先代のラブの介護が大変だったことから、お母様が「もう大きな犬はやめようよ」と反対していました。妹さんは、家を出て独立してでも犬と暮らしたいとあきらめませんでした。ある日、お姉さんがお母さんを説得してくださって、やっと了解が得られたんだそうです。

ブルームちゃんが家にやって来ました。初めてのお散歩は、小型犬を見つけて急に引っ張り、指を捻挫してしまいました。夜になると、磨りガラスの向こうのお母さんを見て吠えます。おまけに先住犬のうんちを食べてしまいます。盲導犬センターに、今日やったブルームの仕業、どうしたら良いかを何度も相談しました。ブルームちゃんのために新しいリードやベッドも購入して、家族として受け入れようと努力していました。センターの担当訓練士さんは「でもお留守番は出来るんでしょ?だったら良い方ですよ」と冷ややかな返事でした。センター側もブルームが戻されるかも知れないと予測しているような感じでした。「おいおい、盲導犬の候補生だったはずなのに」と期待は大きく外れてしまいました。これまでも何頭も一緒に暮らしてた先住犬たちよりもたくさんの困った犬でした。

それはそうなんですね。盲導犬はあのハーネスを付けている時がお仕事ですから。ハーネスがない時は家庭犬と同じなんですね。ましてや頭の良いラインから生まれているんですものね。ブルームを返そうか真剣に悩んだ時期もありました。

とにかく、昼間のお留守番時は、83歳のお母様が、家の中で一緒に過ごしています。お母さんは、英語のコマンドを日本語で書いて壁に貼ってます。家の中の歩き方は、「アトへ」とお母さんの前には出ないようになりました。階段も絶対に前に出ません。お母さんに対しては、絶対にがおうはしません。姉妹が仕事から戻るまで、トイレを我慢しています。磨りガラスの影でおびえていたブルームちゃんでしたが、だいぶ克服しましたが、まだちょっとびびりは残っています。先日、小さなウサギを見ておびえてしまいました。

日本盲導犬協会ではボランティアが一同に会する時があります。ブルームちゃんを連れて参加しました。何人もの方から声をかけられました。「えっ!あの伝説のブルーム?」と。最後の家が決まるまで、何度かお試しで数軒のファミリーに預けられていたことが判明しました。「みんな手に余っていたんだあ。」確かに最初はどうしたら良いのか途方に暮れましたっけ。でも今はとっても良い子になりました。

「我が家に来てくれてありがとう!」と心の底から思っています。姉妹とお母さん、ミニチュアダックス。3人と2頭で楽しく暮らしています。

2008年に始まったこのプロジェクトでは、これまで87人の受刑者が22匹の子犬を育ててきました。そして2013年4月、受刑者が育てた犬が、初めて盲導犬として認定されました。第1号となったのは雄のラブラドルレトリバー。2014年の現在はもう1頭の盲導犬が稼働しています。

盲導犬を待っている視覚障害者は、たくさんいらっしゃいます。盲導犬への理解がまだまだ低く、お仕事中の盲導犬に悪質ないたずらをするような輩さえいます。それだけは絶対にしてはいけません。

(2014/08/28)リビングウィズドッグズ

 

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