ある盲導犬リタイアウォーカー

ある盲導犬リタイアウォーカー

昨日、いつもプールで会う素敵な女性、Sさんのお宅にお邪魔してきました。昨年からどうしても伺ってみたかったのですが、なかなかチャンスもなく、特に私の20代に取って山梨に来てから運転をはじめた稚拙な運転技術ではとてもたどり着けないと諦めていました。同じプールでの友人のおかげで便乗出来、やっと実現しました。

その女性、何度かの会話の末に、盲導犬をリタイアした老犬のボランティアをされていることを知りました。リタイアウォーカーです。

盲導犬の育成は、盲導犬になった犬を多く排出している血統からの繁殖、その仔犬の性格は、まず人が大好きであること、そして我慢強さや、怖じけない、落ち着きがあること、その上に人を誘導する判断力を持っていること。
そんな盲導犬として適正と言われる性格を持っていても、その該当する仔犬が盲導犬になれるとは限りません。
そして生まれた子犬はパピーウォーカーの元で人と共に家族として育ちます。そして1歳のお誕生日の前に、訓練所に戻り盲導犬への適正を見ながら訓練が始まります。約半年間の訓練で、見事に盲導犬になれた犬たちは、各々視覚障害者の元に行きます。
そして24時間生活を共にしながら、ユーザーさんの目となります。8年〜12年ほど、ユーザーさんの元で暮らします。リタイアの年齢幅があるのは、個体毎の健康状態によって早め遅めとなるからです。
老犬となり、ユーザーさんとのパートナーシップが危ぶまれた頃、リタイアします。
そこで必要となるのが、リタイアウォーカーの存在なんですね。
唯一、北海道盲導犬協会ではリタイアした盲導犬の老犬ホームがあります。おおよその協会ではリタイアウォーカーに託されます。

Sさんご夫妻は、ご主人がリタイア後、山梨に移住しました。これまで犬と暮らしたことがなかったので、「頑張って人のために働いてきた盲導犬の最後を看取ってあげようよ」そんな思いで、ご夫妻はリタイアウォーカーのボランティアに手を挙げました。
お宅に到着して見上げると、テラス越しに白いラブラドール、アンドレ君の姿が見えます。遠目からも何とも愛らしい顔立ちです。ログハウス中は薪ストーブのほのかな火で、優しい温かさに包まれます。アンドレはつい先月、Sさんのお宅に来たばかりです。まだ11歳6ヶ月です。ちょっとリタイアには早いかなという若さです。アンドレは、現在膀胱炎の治療中で、おそらく仕事に支障をきたすようになって、早めのリタイアとなったのでしょう。Sさんご夫妻にとっては、膀胱炎が完治したら、アンドレとより長い間、共に楽しい暮らしが出来ることでしょう。

というのは、Sさんご夫妻にとって、実はリタイア盲導犬との暮らしは4頭目なんですね。
最初は、カポック(16歳9ヶ月)約5年間一緒に暮らしました。そしてフリッカー(13歳)も1年ほど。ドギー(14歳)引退後、他の家族と1年間暮らした後やってきて1年3ヶ月で逝きました。

3頭のリタイアドッグを見送ったSさんご夫妻、その度にどれだけつらかったことかと、私は、自分自身の愛犬との別れを何度も経験しているので、とても耐えられないと思っていたのですが、それが大きな間違いだと判りました。

ご夫妻は、この子達の仔犬の頃を知りません。
老犬と出会って、その余生を楽しく快適に過ごさせて上げる。それがご夫妻にとっての幸せなんですね。そして最後を看取ることを使命として迎えていたのですね。
カポックから始まってフリッカー、そしてドギーへと犬は異なりますが、「命」というバトンリレーをご夫妻がされているのです。

そして現在はアンドレという命を預かっています。アンドレ君、ママの姿をいつも目で追っています。ママがキッチンに立つと着いていきます。まだこの家に来て数日とは思えないほど、リラックスして甘えています。居心地の良い南向きの大きな窓の側にぬくぬくとしたベッド、外は開放的なテラスです。おしっこの近いアンドレの為に、テラスの横のスロープを降りるとそこにアンドレのトイレがあります。

紅葉まっただ中の森のログハウスには、12歳の先住猫、空ちゃんと花ちゃんがいます。空はちょっとシャイ、新しく来た老犬ワンにいつも一発お見舞いしてから家族と認めるようです。花ちゃんは、優しくと言うよりは、「関係ないわ〜」とお気に入りのソファーを独り占めです。
ご夫妻も、このボランティアを始めて8年目、もうこの子で最後かも知れないとつぶやいていました。

そうですね、まずはご夫婦が出来るところまででしょう。これまで虹の橋を渡った3頭は優しく笑ってお二人を見守っていることでしょう。そして「ありがとう!」と。

(2014/11/3)(LIVING WITH DOGS) 

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