動物孤児院 (106)ドイツ流「犬の引き取り方」その1

動物孤児院 (106)ドイツ流「犬の引き取り方」

南欧や東欧の犬が人気

ドイツ人レギナは三ヶ月前、愛犬を亡くしてからというもの、「犬のいない生活は耐えられない」と、毎日のようにインターネットでどの施設にどんな犬が保護されているかをチェックしている。彼女が新しく犬を引き取るのはもう時間の問題だ。ただ、あと一ヶ月待たねばならない。というのもフランスへ三泊の旅行の計画を立ててしまったからである。フランスへの犬連れ旅行は、宿泊も犬OKのホテルが多いし、ドイツと同じくレストランも犬連れでだいじょうぶなのだが、「迎え入れたばかりの犬をいきなり飛行機での旅行に連れて行くのも、誰かに預けるのも来たばかりの犬には大きなストレスだろう」と、犬の引き取りの時期を一ヶ月後に延期したのだ。

私は「ルーマニアの犬はどう?」と提案している。街中でゴミをあさって暮らしていた犬は普通、他の犬とケンカしないし、人の愛情を敏感に感じ取り、よくなつくそうだ。彼女が天国に送り出した犬のTIMMYも、スペイン南部で2年ほど野良犬だった。TIMMYの穏やかさときたら、「もしかして、かみつくことを全く知らない犬なのでは?」と思わせるほどだった。性格のよさは、スペインやポルトガルやギリシャなどから連れて来られた元野良犬たちの特徴らしい。

ルーマニアは新しい政治家を迎えて、動物愛護の点で少しは期待できるかもしれない。ドイツのあちこちでルーマニアの犬を救う団体ができたほど、ルーマニアの状況はひどかった。野犬撲殺OKという日が普通にあり、目を覆うような光景がインターネットや雑誌で紹介された。見かねたドイツ人がお金を集め、ルーマニアに保護施設をどんどん設立し、多くの犬がドイツに移送されている。
「フィア フォーテン」という保護団体もそのひとつだ。(ドイツ語で「四本脚」という意味) この団体はドイツ中にあるが、ルーマニアにもでき、ドイツ人が問い合わせに対応し、保護された犬はドイツのフォスターファミリーのもとに送られる。

飼い主候補者は心の準備を

先週、レギナはドイツのある施設に電話してみた。インターネットで見たスパニエル系ミックス犬SAMという犬が気になったから。「共同住宅に住んでいるから吠えない5歳ぐらいの小型犬を探している」と言うと、30分もいろいろ聞かれたそうだ。「お見合いの身元調査なみ」と笑う。希望者の年齢、経済状況、家族構成、住環境。何階か、借家ならば家主は同意しているか。公団アパートでは一様にペット可だが、個人のマンションだと家主次第)。

「旅行に行くときや、あなたが病気になったときは誰が犬の世話をするのですか」とも聞かれ、「友人が世話を引き受けてくれます。」と答えると、「じゃあ、犬を見に来るときはその友人を連れて来るように」と言われたそうだ。きっと全身じろじろ見られるだろうから、精一杯おめかしをして行かねば。夫も同行させようと計画中。(車は洗車して、夫はスーツにネクタイ!) ドイツでは、お金の余裕があることをアピールして、「お願いです、私はその犬を引き取る資格が十分にあります。」の態度で◎なのである。
日本で譲渡会を開いている友人にこういう話をすると、「いいなあ、日本も早くそうなってほしい」と言う。「番犬を探してたから」と犬を引き取って行く田舎の人たちがいるそうだ。「農家の玄関先につないで飼うのだろうけど、殺処分になるよりいいだろう、と思うことにしてる。でも、やるせない」と嘆く。ドイツだったら、冗談でも番犬がほしいなどと口走れば、それ以上の問答は無用、出口を指差されるにまちがいなし。

地元のティアハイムには年齢制限あり、人種差別(!)あり

信じがたいことだが私の住む街のティアハイムは年齢制限がある。何と60歳以上の人は犬を引き取ることができない! 66歳のレギナは怒っている。また、アメリカ人にも犬を渡さない。現在はどうかわからないが以前アメリカ人を連れて最寄りのティアハイムに行ったときにそう言われた。「ドイツを出て行くときに犬を置いていくアメリカ人が多いですから」ときっぱり言われた。この街には万単位の米軍ファミリーが駐留しているが、大型犬を置き去りにして国に帰るアメリカ人がいるという話は時々耳にする。

以前、隣人の20代共働きアメリカ人夫婦の飼っていたダックスフントが留守中吠え続けるので、本人たちに伝えたら、その日のうちにティアハイムに連れて行った。私は驚いてティアハイムに電話したら、即ドイツ人ファミリーが引き取ったそうだから、犬にとってはかえってよかったのだが。ドイツでは犬に留守番をさせてはいけないのである。“通勤している一人暮らしの人は帰宅して犬がいると癒やされる”などという話はまずありえない。一匹にさせるのはせいぜい3時間というところだろう。通勤している一人暮らしの人が犬を譲り受けるには、オフィスに毎日連れて行くという条件でならばOKである。“犬に留守番をさせてもわからないだろう”と思うのはマチガイ。近所の目が光っている!

引き取った後は本当に家族として迎えたか、検査員が見に来る。レギナのTIMMYのときは、検査員がTIMMYのはめていた真新しい高級首輪をひと目見るなり、満足そうにうなずき、「何も質問する必要がなさそうです」とすぐに立ち去ったそうだ。


ルーマニアから輸送されてくる犬

SAMはレギナが問い合わせた直後に新しいファミリーが見つかった。その次に見たのはまだルーマニアの施設にいるダックスフント風のミックス犬BERNYだ。BERNYの紹介文は次の通り。
「ここには犬を殺して回る人間たちがいるので、周辺の犬たちを保護している。外には出せない。冬の寒さが厳しいので、屋外の犬には大変な時期だ。我々はBERNYを安全なところ、つまりドイツのフォスターファミリーのもとに運送したいので寄付を募っている。輸送費として70ユーロ必要だが、これまでに40ユーロ寄付してくれた人がいるので、あと30ユーロが不足している。(実際は長文)」
私たちが不足分を送金すると、「近日中にBERNYをドイツのフォスターファミリーのもとに輸送することになりました」とメールが入った。フォスターファミリーの住まいはボンの郊外ということなので、ここから車で2時間弱。レギナは、「とにかく会ってみたい。縁だけじゃなくて相性もだいじだし」と言っている。話だけ聞いていると、まるで人間同士の「お見合い」である。<続く>


 

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