小林信美の英国情報 (18)ロンドンで人気ナンバーワン犬種 スタッフォードシャー・ブルテリアの中流化?

ロンドンで人気ナンバーワン犬種、スタッフォードシャー・ブルテリアの中流化?

この欄で英動物福祉法制定とRSPCA(王立動物虐待防止協会)のCMについて紹介したのは、かれこれ7年も前のことになる。ここで、注目したのは、英国社会では、犬を虐待したり、容易に捨てたりするのは、いわゆる「労働者階級(注1)」に属する飼い主に多く見られると、幅広く認識されていることだった。さらに、その被害を被っているのは、大抵の場合、スタッフォードシャー・ブルテリア(以下STB)であるということにも焦点を当てた。

そんなあわれなSTBだが、英国では、違法である闘犬や、犯罪に使われたりするために「危険で柄の悪い犬」というレッテルを貼られ、世間で怖がられ、忌み嫌われている存在であることは、英国国外では あまり知られていないのではないだろうか。専門家によると、こうした偏見は、英国社会に深く根づいており、容易に変わるものではないという(注2)。

これほどまでにイメージの悪いSTBであるが、最近BBCが行った調査によれば、ロンドンで最も人気の高い犬種は、何を隠そう、STBなのだ(注3)。確かに、筆者の住む北ロンドンでも「犬も歩けば、STBにあたる」と言ってもおかしくないほど、一般的になっている。特に、最近のトレンドとしては、いわゆる「中流階級」の愛犬家が、STBをペットとして飼う割合が増えていることがあげられる。何故「柄の悪い労働者階級の犬」として知られるSTBが、中流の愛犬家にこれほどまでに人気があるのだろう?

この背景には、評判の悪さゆえに、労働者階級の白人の「不良青少年」の間で人気が高まった1990年代後半くらいから、レスキュー団体で保護される同犬種の数が増えたという実態がある。その主な原因には、STBの持つ「不良」のイメージが、ステータスシンボルとしてもてはやされるようになり、お金儲け目的でSTBを繁殖する人の数が増え、過剰供給をもたらしたことがあげられる。このため、ロンドンのバタシードッグス・アンド・キャッツホームなどの、捨て犬・猫の保護センターでは、現在、保護される8割以上の犬がSTBだといい、英国内のSTBの数が、人気ナンバーワンのラブラドール・レトリーバーより、はるかに上回る可能性が高いことを示している(注3)。

これに対処すべく、各保護センターで始めたのが、セレブ等を起用してのマーケッティング・キャンペーンだ。例えば、前述のバタシーでは、数年前から、世界的に有名なモデルのデービッド・ギャンディをセンターの大使として迎え、さまざまなチャリティ・イベントなどを通じ、寄付金を募ったりしている(注4)。これに加え、ことあるごとにSTBがマスコミの目に止まるようにと、さまざまな工夫を凝らしており、STBは、どこにでもいる「普通」の犬であるというイメージ作りに、多大な努力を払っているのである(以下写真参照)(注5)。

モデルのデービッド・ギャンディは、特に最近、スタッフォードと「パパラチ」される頻度が増えているよう(注4)。

従来、ギャンブル目当ての闘犬として改良されたSTBは、次から次へと人手に渡ることが繰り返されたため、誰にでもすぐ慣れ、人懐っこく、愛情深い性質を持つという。さらに、闘犬であるため、痛みに鈍感であることから、小さい子供などにしつこくされても、いやがるどころか、好んで子供の相手をするようなところがあるので、英ケンネルクラブからは「ナニー(乳母)・ドッグ」と認定される数少ない犬種でもある。そういうわけで、マスコミを使ってのキャンペーンにより、このようなSTBのよい面を、世の中に広く知ってもらうことは、ペットとしてのSTBの一般化に大きな役割を担っているようだ。

もちろん、犬の保護センターに収容される、STBの絶対数の多さから、レスキュー犬を好む中流階級の愛犬家に、好むと好まないに拘らず、STBが引き渡される割合が高いというのも、「STB人気」の大きな原因のひとつであることは、説明するまでもない。

北ロンドンの1DKのアパート住まいのケイティとジョニーも、偶然にしてSTBの飼い主となった中流階級の愛犬家カップルである。

この若い二人の元にオスのSTB、ポンゴが現れたのは、今から2年前。友人のフェイスブックで、ポンゴがロンドンから1時間ほど北の、ハイ・ウィッカムという町の保健所に収容され、1週間以内に処分されるということを知り、犬種も何もわからないまま、引き取る事を約束したのだという。ポンゴは、保護される前は、室内に長く閉じ込められており、見つかった時には、糞まみれで、非常に哀れな姿だったという。「ほんとうは、柴犬が欲しかったんだけど、ポンゴがあまりにもかわいそうだったので、すぐにレスキューすることに決めたの」とポンゴ保護の理由を語るのは、小学校で音楽を教えるケイティ(写真右)。

おトイレの訓練もばっちりで、お行儀のよいポンゴにすっかり魅了された二人は、8ヶ月後に、ポンゴの遊び友達にと、メスのSTBのレスキュー犬、アイビーを迎えることにしたが、現実は、それほど甘くはなかった。

「アイビーは、全くしつけされていなくて、室内でお漏らしばかりするので、カーペットを、3回も変えなくちゃならなくて...」と語るのは、ケイティのパートナーのジョニー(写真左)。そればかりでなく、引き取られて間もなくの頃、アイビーは、非常に神経質で、一晩中、眠らずに室内を徘徊するので、ケイティとジョニーは、極度の睡眠不足に陥るはめに。そのため、アイビーが訪れてから最初の1ヶ月の間、二人は、何度もアイビーを保護センターに返すことを話し合ったという。しかし、やさしい二人は、その度に、頑張ってしつけを続ければ、必ずいい子になる8ヶ月経った今、アイビーはポンゴと共に、ケイティとジョニーの大事な家族の一員となっている。

もちろん、STBに対し、皆が寛容になったわけではない。「この間、高級住宅街界隈の公園に行ったら、何でこんな変な犬を飼うんですかって、犬の散歩に来ていた人に、言われて」とジョニーは、残念がる。これは、STBが、中流家庭で幅広く受け入れられるようになった今でも「柄の悪い犬」というイメージが払拭されていないことを明らかにするものだ。しかし、この状況がこのまま続けば、いつの日かSTBが「普通」の犬として広く認識されるようになるのは、時間の問題ではないだろうか。

(注1)製造業の後退2008年4月28日付本欄の「動物福祉法制定とRSPCA(王立動物虐待防止協会)のCM」の注2を参照のこと

(注2) ‘Staffordshire bull terriers: A question of class?’ Lauren Potts BBC News (2015年1月24日付:http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-30902078)

(注3) ‘Dog map: Find the top pooch in your postcode’ Beth Rose & Andy Dangerfield BBC News (2015年1月18日付)http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-27690167

(注4) http://www.pets4homes.co.uk/pet-advice/why-are-dog-rehoming-centres-full-of-staffordshire-bull-terriers.html

(注5) The Daily Telegraph(2013月9月26日付) http://www.telegraph.co.uk/men/thinking-man/10261673/David-Gandy-why-Im-a-dog-man.html

(注6) http://www.battersea.org.uk/apex/webarticle?pageId=005-staffies-softerthanyouthink

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