フォスターファミリー体験記 – Beau (4)

フォスターファミリー体験記 – Beau (4) 

私は今、日本へ向かう飛行機の中でこれを書いています。Beauは今朝OFOSAの会長のCathy宅に預けてきました。
Beauをフォスターし始めて1ヶ月以上になりますが、10日ほど前にも一泊だけCathyに預けたことがありました。そのときは部屋の隅に隠れたままBeauはほとんど出てこなかったそうです。今回は10日と長いので、Cathyの家族や訪問者たちに少しでも慣れてくれればと祈っています。
Beauは我が家ではとても落ち着いて、日常的には不安を感じずに過ごせるようになってきています。それでも先週末、息子が帰ってきたときには、朝起きぬけで髪ボサボサの息子を見て、背中の毛を総立てにして神経質に吠えまくりました。私が脇でBeauを安心させながら、息子にゆっくりと近づいて膝まづいてもらうと、どうにか身体を硬くしながらも撫でさせてくれるまでにはなりましたが、私なしでは逃げ回ってしまい近づくことさえできないでしょう。
今朝出発前にBeauとNoahを散歩に連れて行ったとき、職人さんたちが屋根に上って修理をしている家の前を通りました。Beauはそれでなくても外で知らない人間に出会うと怯えてしまうのに、今日のこの光景はさほど怖かったのでしょう。リードをグイグイ引っ張って一刻も早く通り過ぎようとし、その後の散歩の残りも落ち着かずにビクビクしながら怯えていました。
また一週間ほど前のある週日、いつものように私が昼休みに会社から家に戻ってみると、玄関にあった皮革製のリードが齧られて、なんと中間が2フィートほどなくなっているのです。そして食卓の上にあった新聞やランチョンマットがバラバラと床に落ちて散らかっています。「いったい誰がこんなことを!」とっさに私はDaisyの仕業と思い込んでしまいました。案の定Daisyはソワソワと落ち着かず尻尾を巻いて部屋の隅に逃げ込んでいます。今までにもDaisyはいろいろなものを口にしてしまったことがありましたし、つい先日は何を思ったか私が近くにいるときに食卓に上っているところを目撃してしまったからです。短い昼休みに4匹を散歩し会社にとんぼ返りしなければならないという私自身の都合も手伝って、私はDaisyをかなり強く叱り、洗濯室に隔離してから午後の仕事に戻りました。
その翌日のランチタイムに帰宅したときにも誰かが食卓に上った形跡がありました。またしてもDaisyの仕業かと思いましたが、ふと見ると食卓に引っかき傷があり、その大きさと深さから、小さくて軽いDaisyではないような気がしてきました。あわてて食卓の上を手でこすり、ザラザラとした土埃とわずかな抜け毛を集めてみたところ、どうもBeauに毛のようです。まるで犯行現場の物証をする捜査官さながら、DaisyとBeauの毛を少しずつ抜いて照合(笑)してみましたが、やはりBeauであること間違いありませんでした。そしてピンクの皮革製のリードの行方も数日後のBeauのウンチの中から発見され、すべてはBeauの仕業だったこと、Daisyはとんだ濡れ衣を着せられてしまったことが判明。私はDaisyに本当にすまないことをしたと後悔し、ひたすら謝りました。急にやさしくなってハグハグしてくれるママにDaisyは戸惑っていたようですが、大喜びで甘えてくれました。
今回の事件でつくづく多頭飼いの難しさを実感しました。100%の確信がないかぎり誰のも責めてはいけないこと、そしてやはり問題行動は現場を抑えなければ叱ることはできないと思いました。それに加えBeauのように人間に不信感や恐怖心をいだいている仔たちの扱いかた、叱ってもよいタイミングについても考えさせられました。まずは私たち人間に心を開いてもらいたいけれど、それがために悪いことをしたときに叱ることを慎まなければならないのか?Beauは私が声を荒げただけでもビクビクと逃げ腰になってしまうからです。
それにしてもBeauは何故リードを食べたのでしょう。何故私の留守中にのみ食卓に上ってしまうのでしょう。どうしたらこの行動を矯正することができるのでしょうか。
Beauを含むあの26匹が暮らしていたレスキュー現場の写真が再び目に浮かんできました。
Beauはその点においては確かに今までのフォスタードッグとは異なっています。彼の置かれていた境遇を思い出せばそれも納得できるのですが、人間への不信感を乗り越えさせるのは、更に長い時間が必要でしょう。それを理解した上でBeauを受け入れて引き続き社会化の機会を与えてくれる家族が現れるでしょうか。
機内で“The Adoption Option (アダプションという選択肢)”という本を読み始めました。そこには、シェルターから犬を迎えるにあたりあらかじめ考慮すべきいつくかの問題点について書かれています。例えば、シェルターの犬たちはMix犬が多く、犬種特有の遺伝性疾患や気質などが分かりにくいこと(しかしこれは逆に考えれば犬種特有の問題点を避けることができるメリットとも考えられるのですが)そして何よりも過去の生活から引きずっている精神的肉体的傷跡の問題があります。
“Some have been abused, some have been neglected; All have been abandoned (ある仔は虐待を受け、ある仔はほったらかしにされてきた。しかし、共通して言えることは、どの仔も捨てられたということ)”。だから、すぐには人間を信じることができないかもしれないが、誰がそれを責めることができようか。
その一節を読んで私はつくづくBeauの精神的傷の深さを理解してあげなければ、焦りは禁物、と自分に言い聞かせました。さて日本から10日後に戻ったときBeauは私をどう受け入れてくれるのでしょう。(2009/6/16)

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