フォスターファミリー体験記 – Beau (5)

フォスターファミリー体験記 -Beau (5) 

BeauはCathyのうちで過ごした10日の間にも、とうとうご主人のBillにはなついてくれなかったそうです。
迎えにいった私を見ると大喜びで顔を舐め舐めしてくれました。どんな思いで暮らしていたのでしょう、きっともううちへは帰れないと思ったのでしょうか。

さて、以前の生活が始まりましたが、私が日本から帰って一週間ほど経ったある日、会社から帰宅してみるとリビングルームの床においてある大きなゼラニウムの鉢植えの葉っぱだけが一部分だけ枯れているのに気づきました。どうも不自然な枯れ方なのでよく見てみると、Beauがおしっこをひっかけたようです。案の定カーペットを触るとベトベトして、ペーパータオルが黄色くなりました。なんでまたよりにもよって家の中でマーキングするなんて!しかも現場を押さえていないのでBeauを叱ることもできません。片付けながら涙が出ました。

その晩、私が庭に出て、ふと家の中を振り返るとBeauが食卓の上で立っているのです!いままでにも上った形跡を見ましたが、目の前で見るのは初めてでした。あわててドアを開けて“Beau, get down (下りなさい)!”と大声で叫びました。Beauは飛び降りてすぐ洗濯室に逃げ込んでしまいました。
どうしてBeauは食卓の上に乗ってしまうのか考えてみました。食卓の上にあるパンくずや食べ物に興味があるわけではなく、彼はただ高いところに乗れば外にいる私がよく見えるので乗ってしまうだけなのです。彼にとっては食卓もソファーもカウンターも床も皆同じなのです。特に悲惨な多頭飼育の現場から来たBeauにとっては全くその違いが理解できていないのでしょう。
料理を乗せて食事をする食卓やカウンターに汚い足で乗っかって欲しくないと思うのは私達人間にだけ清潔観念があるからなのだと気づきました。うちの犬たちは乗りませんが、それは足が汚いからではなく、乗ると叱られると学習したからです。Beauにどうやってそれがいけないことなのかを教えたらよいのか。叱れば怖がって逃げて隠れてしまうし、ましてや現場を押さえていなければ叱って矯正することもできません。

とりあえず今できることから手をつけることにしました。まずは社会化の訓練です。PetcoやPetsMartなどのペット歓迎のストアはもちろんのこと、うちの仔たちの予防接種などのための獣医さん訪問にもBeauを同行させています。そして毎週末のPetcoでのアダプションに連れていき、一緒に3時間ほど店内で過ごしています。何度行っても、はじめは車から降りたがりません。そして一旦店内に入ると私のそばから離れないので、リードで脇に座らせて、ペットを探しにくる人たちや家族連れたちになるべく撫でてもらうようにしています。幸いにもBeauは恐怖から攻撃的になることは一切ありませんし、私がそばについていて、「大丈夫だよ。」と言ってあげると素直に撫でさせてくれます。子供たちには「頭の上から手を伸ばさずに、はじめは顎の下から耳の後ろを撫でてあげてね。」と教えます。彼にとっては緊張しっぱなしの3時間ですがBeauはがんばってます。家に着くとその晩はぐったりとしてすぐに横になってしまいます。

先週、先々週とPetcoのアダプションにやってきた二組の別々のカップル(ともに30台前半と思われる)が、Beauにとても興味を示してくれました。電話やメールで両方のカップルにBeauの問題点と以前はどんな状況で飼われていたのかを正直に伝えました。そしてそのうちの一組のカップルが是非是非Beauを家族として迎えたいと申し出てくれました。

昨夕会社から急いで帰った私は、Beauだけを車に乗せて16マイル離れたMattとLeandreaの家へと急ぎました。彼らはゴルフ場のすぐ近くの静かで芝生の美しいアパートの一階にブルーベリーという名の、これまたシェルターからアダプトした一歳の猫ちゃんと一緒に住んでいます。アパートの中はとてもシンプルで、自転車が2台壁に立てかけてあるところを見ると二人ともサイクリングやトライアスロンが好きなようです。塀で囲まれた庭がないのが難点ですが、リードをつけて一日に何度も散歩に連れ出してくれると約束してくれました。Beauに夕食を食べさせてから3人で辺りを散歩したところ、Beauはオシッコを2回してくれました。これはかなりリラックスしている証拠です!あまり人通りがなくのんびりしている環境がBeauにはぴったりだと思いました。そしてこの二人のBeauを見るときのとても穏やかでやさしい眼差しに私は「この二人とならBeauはきっと幸せになれる!」と感じました。家の中ではMattとLeandreaが“Beauおいで”と呼ぶとビクビクしながらも近づいて撫でさせてくれました。最初にしては上出来と思いました。とにかく強制せずに彼のほうから近づいてくるのを待って欲しいと頼みました。小一時間話をしてBeauを残して私は帰路につきました。少しでもBeauが安心できるようにとうちからもってきたフードと彼のフードボウル、ブランケットとクレートを置いて。

実はこの二人に私はある提案をしました。通常OFOSA(Oregon Friends of Shelter Animals) ではお試し期間というものを認めていませんが、Beauの場合飼い主にはこれからも引き続き社会化の訓練と彼の人間不信を直していくという大きな使命があります。でないと折角ここまで心を開いてくれたBeauはまた殻の中に閉じこもってしまいかねません。そして普通の犬を欲しがっている人たちにとって、こんな負担をわざわざ最初から背負わなくてももっともっとフレンドリーで世話の簡単な犬たちがほかにもたくさんいるのに、と私自身思ってしまうのです。ですから、私はOFOSAの会長の許可を得て、このカップルに“Foster to Adopt”(一時預かりをしてからアダプトする)というオプションを提案しました。これなら万が一自分達には荷が重過ぎると思った場合、Beauを私に返すことができます。その決断の期日を3日後の金曜日に決めました。3日間で彼らに完全に心を許すことはないでしょうが、ある程度の予想というか手ごたえは彼らにも分かると思います。Beauは今までにもCathy宅や他のフォスターファミリー宅に何日か預かってもらったことがあるので、もしこのケースがうまく行かなくても、またうちに戻ってくればいいのですから、Beauにとっても負担は少ないと思っています。二人はこの提案を感謝して受け入れてくれました。もし彼らがBeauを引き取る決心をしたら、今週末に正式にアダプションが成立し、私はしばらくはBeauに会うことはないでしょう。彼が新しい両親を今の私以上に慕う日が来るまでは。
無理と焦りは禁物。どちらに転んでも、最終的にはBeauのためによい方向に進んでいくと信じています。

アダプション成立後記:(土)にBeauは晴れてMattとLeandreaとBlueberryの家族として迎えられました。そして翌日には“We just  love him! ”(とにかくBeauのことが大好き!)と言って近況や写真を送ってきてくれました。Beauはドッグパークでは尻尾を振りながら走り回り、呼ばれなくてもときどき確認のために飼い主のいるところへ帰ってきてくれるそうです。また今日はBeauと暮し始めてまだ数日しかたっていないのに一緒にハイキングに行き、Beauは始終オフリードで二人のすぐ前を歩き、ときどき振り返っは付いてくるかを確認してくれていたそうです。素晴らしい写真を見てください。Beauがこんなにもリラックスしてしかも嬉しそうなのは、MattとLeandreaこそが生涯の家族だと分かっているからなような気さえします。

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