【犬と暮らす家(21)】くーの家〜撮影とオープンハウス

【犬と暮らす家(21)】くーの家〜撮影とオープンハウス

私たちの家は、短足で活発なひとり娘、ウェルッシュ・コーギー・ペンブロークのくーと住むための家です。くーと一緒に楽しく住むための家ですから、「くーの家」とも呼んでいました。そう、犬小屋と呼んでもいいのです。

建築家の米村さんは、自らの作品でもあるこの家のニックネームを「まわる家」と名付けました。作品の多くは、施主の同意を得た上で建築家がオープンハウスという呼び名で建築家や工務店の作品発表会のような場が設けられ、見学者を募る事が多いようです。

見学される対象は、次に米村さんに設計監理を頼みたい人や、施工した工務店の技術を確認したい人、建築業界、宣伝業界の方、単に家好きな人など、多岐にわたります。基本的にこの時点ではまだ私の家ではなく、建築家の現場監理の元で工務店の管理配下となりますが、どちらにしても施主と工務店の許可を得た上で、監理責任者の建築家が開催・参加を受け付けるという形になります。

また作品の記録として、建築家と工務店と施主が、建築写真としての撮影を行いますが、引き渡しが行われる直前の、完成しつつ家具など私物が入り込んでいない時が実施のタイミングとなります。同時に天候のよい日が理想なのですが、よほどスケジュールに余裕がない限りそれは運のようでした。

これまで見せて頂いた米村さんの完成品披露会でもあるオープンハウスは、「展望バルコニーのある家」、「吉祥寺の家」、「住宅地の中のコートハウス」、「めだかはうす(小川の流れる家)」、「田園風景を望むガレージハウス」などのニックネームを持つ5物件です。その時に事務所にいるスタッフ数にもよりますが、現場へパンフレットや建築写真のパネル、MacBookによる建築中のスライドショーなどが行われ、ちょっとした展示会のような雰囲気になる時もあれば、まだ工事中の中おじゃまするという感じの時もあります。

しかし現実はオープンハウスを企画・開催の案内をしてもなかなか人は集まらないようでした。不動産屋がオープンハウスと言えば、宣伝や売り込みです。実際私たちもそうですが、売り込まれるのではないだろうか、契約させられるのでは、という警戒感を持ってしまうものですが、建築家が開催するオープンハウスは、その建築家の技量や工務店の技術を体感できる、貴重なチャンスでもあるわけです。

いろいろな施主がいるとは思いますが、私たちの気持ちとしては引っ越して生活をはじめる前に、作品として色々な人に見てもらえたら嬉しい、と思うのでした。

オープンハウス開催の前の週末、私たちと米村さん、そして低座椅子を私たちのために作って納品しに来てくれた家具職人の友人が子連れでやってきました。そこではじまったのがワックスがけです。

今回それらの塗装は基本的にしていません。テーブルや棚、床、扉など全てが素地でサンドペーパーにより仕上げ処理がされていますが、あとは自分でワックスを塗り込み、塗装とする方式です。肌にも優しく環境や人間に対してローインパクトであり、くーが舐めしまっても安心で、かつ素足の風合いを感じつつある程度の防水処理ができます。

今回1Fの寝室はウォールナットとホホバオイルをブレンドして使用してみました。それ以外は基本的にフローリングも作り付けの棚や扉全て、蜜ロウワックスを塗り込んでいきます。狭い家とはいえ、結構しなければならない場所も多く、手分けして開始しました。

用意するように言われたチリトリにそれぞれワックスを適量取り、まずは床からスポンジで塗り込んでいきます。スポンジも安い100均のものよりも、カー用品店で買った固めのワックス用が塗りやすいものでした。手が油まみれにならないように、炊事用の薄いビニール手袋も用意しました。

這いつくばって、みんな一生懸命塗り込んでくれています。塗っていくと白っぽい無垢の木の色に深みが増し、いい感じになっていきました。キッチンやローボード、寝室やトイレやパウダーの扉なども塗っていきますが、結構ハードです。おまけに扉などは外さねばならない所もあり、傷をつけないかとても気をつかいました。

今回メインで使ったのは、「未晒し蜜ロウワックス」の1L缶です。またこれは粘度を選ぶ事ができ、Aタイプがバターのような固さ、Bタイプがヨーグルトのような柔らかさ、Cタイプがマーガリンという感じでしたが、ネットで最も安かったのがCタイプでした。量的には充分と言われ、まずは薄く延ばすように塗ります。

丁寧に塗り込んでいきますが、正直これではちょっと耐久性が低いのではないかと思っていました。しかし偶然手を洗った時にこぼした水がしっかり撥水しているのを見て、効果は充分にありそうです。ただくーが歩くにあたり、まだちょっと滑りやすいかなと感じました。できるだけ興奮しないで、フローリング上で遊ばないように気をつけなければなりません。犬と暮らす家とはいえ、犬の足にやさしいというレベルは、耐久性や衛生面などのバランスで、施主が考える事になるものでしょう。

同時に友人が納品してくれた低い座椅子にも蜜ロウワックスで仕上げ。いい感じに木目が深みを増していました。長くつきあっていけそうな素晴らしい椅子です。

きりん社

蜜ロウワックスの方はちょっと厚塗りしすぎた所は滑りやすくなってしまい、ウォールナットとホホバのほぼ液体のオイルを塗った所はざらつきも残り滑りにくい感じがしました。これはオイルの種類だけではなく、フローリングの表面によるのかもしれません。

半日かかって何とか塗り上げる事はできましたが、寝室の引き戸や棚の奥の方まではできませんでした。来週からオープンハウスです。とりあえず人が歩く床と、手を触れる場所は仕上げようと日暮れまでがんばりました。塗り残した所は、引っ越し後にゆっくりやればいよかと思っています。

オープンハウス開始前に、私たちの古い友人でもある須藤カメラマンが来てくれました。私がまたわがままをいい、完成したまわる家で、くーと一緒の家族写真を撮ってほしいとお願いした所、快諾してくれたのです。しかし色々と予定が行き違い、米村さんと工務店がいつも依頼する建築専門のカメラマン、後関さんもダブルブッキング。光の具合や時間によって場所や角度がぶつかり、思うように撮れなかったのではないかと思います。お2人に気を使わせてしまい、大変申し訳ない事をしてしまいました。

須藤英一 – Photographer

しかしそこはプロです。さすがと言える作品を沢山撮ってくれました。朝から日が暮れるまで撮影は続き、夜の撮影を終えてから、解散となりました。

須藤さんは旅や風景のプロ。特にツーリング写真や道路の写真分野では草分けです。それだけでなく、建築写真もやっているようです。後関さんは私たちのように北海道を自転車で旅していた過去もある、建築写真の専門家です。撮って頂いた写真は財産になりました。

そしてオープンハウス当日。開催はおよそ4日間。11月20〜21日と27〜28日の土日となり、ウェブサイトやイベント情報に掲載されました。基本的にその期間は朝から晩まで米村さんは現場におり、見学者に説明を行います。場合によっては工務店の栗原さんも同席されたり、交代で留守番をしたり。私たちもできるだけ現場に居るようにしました。

この土地やその前の土地の購入でお世話になった不動産屋の紙屋さん、その不動産屋の社長さんと店長さん、頂いたアドバイスがなければ推進は不可能だったと言えるファイナンシャルプランナーの平山さんなどに真っ先に訪問していただきました。他にも私や妻の旅の古い友人や、今住んでいる場所で知り合いになった犬友のご家族、ご近所の方や米村さんの知り合いのマスコミ関係の方、建築家のご友人、先輩施主ご家族に来て頂けました。

今まさに私たちと同じように家を建てている友人は、この個性的な家を楽しく見学してくれました。くーのために低く作った階段は、私たちが歳をとってからも何かと楽になるでしょう。動線は長くなってしまいますが、その分刺激の少ないやわらかな空間を体感していただけた事でしょう。

私たちは飲み物やお菓子を用意し、まだ家の中で飲み食いはできないので中庭にキャンプテーブルと椅子を出してお接待。まだ庭は土のままですが、家としてはほぼ完成しました。そして多くの来訪者が、この極めて偏ったコンセプトの家を、楽しく見てくださったのではと思います。

普通の戸建ては4LDKや5LDKなどの文字が飛び交いますが、この家は実質1LDK。夫婦と犬が住む家には充分な広さと感覚的な広さをいっぱいに感じられる空間にできあがりました。

写真撮影もオープンハウスも無事終り、楽しい時間でした。しかしこれが終わるといよいよ竣工。引き渡しになります。最後の融資手続きも実行しなければなりませんし、引越しの手配や転居の手続きやら、私たちがまだ引っ越す実感のないまま、慌ただしさの渦に巻き込まれていく事になります。

とはいえ地鎮祭から約8カ月、いろいろな経験をさせてもらいました。見学者が誰もいなくなって、しんと静まりかえった夜の「まわる家」のリビングで、私たちは感慨にふけっていました。

この家は、施主のライフスタイルや好みを米村さんに具現化して頂いたものです。その中にはいろいろなエッセンスが入っています。

1泊20ルピーでホットシャワーもでない宿に泊まったり、とても衛生面など考えてはいない屋台で食事をしたり、行き先不明の路線バスに片言の英単語や地名や地図で乗り込んだり、家財道具一切を積み込み自給自足で各地を旅した事のある人だけが分かる空気を感じられる事、そして犬と一緒に暮らして散歩が毎日の習慣となり、犬の気持ちを理解しようと思った事。

同じ時代を生き、同じ価値観を感じつつ、限られた予算やロケーションの中で造り上げた家です。オーダーメードというと陳腐になりますが、それ以上にいろんな味が混ざって、不思議なおいしさが感じられる多国籍料理に仕上がっていました。

カメラマンのお二人をはじめ、オープンハウスに足を運んでくださった方の感想は、とても嬉しいものばかり。旅と犬というキーワードから、私たちとこの「まわる家」を中心に皆が繋がっていったという相関図ができあがった事に、私たちは心から幸せに思うのでした。

サブコンテンツ

カテゴリー

このページの先頭へ