動物孤児院 (37)ホームレスの人たちと愛犬
動物孤児院 (37)ホームレスの人たちと愛犬
ヨーロッパでは、デパートや専門店が並ぶ歩行者天国の道に、ホームレスの人たちが犬と一緒に座っている光景を見ることがある。ドイツでもよく見かける。それも、たいていジャーマン・シェパードや、ミックスの大型犬だ。ときおり、通行人が立ち止まって、ホームレスの人に話しかけたり、前に置いてある空き瓶や、小箱に小銭を入れたりする。(犬連れだと同情を引きやすいのだそうだ。)大勢の人が行き交う道でも、犬は気持ちよさそうに寝ていたりして、「ご主人様」の境遇を悔やんでいるようすでもない。ドッグフードや水はちゃんと置いてある。
今日のドイツで、人間が街なかで野垂れ死にする可能性はゼロに近いだろうが、犬のほうは病気になったらどうするのかと気になっていた。しかし、そのことで人間のほうに話しかける勇気を持ち合わせていなかった。だから、ホームレスの人たちの愛犬も、毎年予防接種を受けさせることができ、駆虫の処理から病気の治療までしてもらえる機関があることを知って安心した。もちろん、すべて無料である。狂犬病や伝染病の予防接種をしたことが記載されている証明書(ドイツでは「犬のパスポート」と呼ぶ)も無料で発行してもらえる。(その証明書がないと、他の国に行くことができない。)
私の住む市でそれを実施しているのは、市にいくつもある、飼い主を失くしたペットたちの収容所「動物ホーム」の中でも最大のホーム(去年、邦貨約3億円をかけて改築されたばかり)である。そこには専任の獣医が勤務しており、年に一度、ホームレスの人たちは自分たちのペット(主に犬だが、猫、うさぎ、モルモットなどもいる)を連れてくることができるのだ。当日の待合室は座るところもないほどだそうだ。
「犬税」はどうする?
ホームレスの人たちの多くは「犬税」を払っていないことがばれたらどうしようと不安に思っている人が多いということだ。しかし、彼らが不払いを追求されることはないので、「心配しないで来てください」と専任の獣医は言う。
「犬税」はドイツで犬を飼っている人の義務で、支払額は市町村によって違うが、大都市ほど高く、田舎では安い。
ちなみに、私の住む町はフランクフルトから35キロほどに位置する中都市であるが(物価は他のドイツの都市と比べると、高いほう)、犬1頭の「犬税」は年に75.60ユーロ(約12000円)、2頭目からは151.20ユーロ(約24000円)だ。つまり、2頭目からは倍になるのである。「犬税」を払うと、首輪に付けるメダルがもらえる。もちろん、盲導犬、聴導犬、介助犬、それに「動物ホーム」の犬たちは対象外である。また、「動物ホーム」から犬を引き取った場合、一年は「犬税」が免除される。
ホームレスの人たちと「動物ホーム」
ときにはホームレスの人たちが愛犬を預けることもある。彼らが職業訓練を受けることになって、愛犬の面倒をしばらく見ることができない場合だ。
このように、「動物ホーム」は、捨てられたり、行き場を失ったりした動物の収容所として機能しているだけでない。ホームレスの人たちが愛犬と別れることなく、再出発するための訓練を安心して受けるための助けにもなっているのだ。