コインロッカードッグ
コインロッカードッグ
晩御飯どきに、英会話で知り合ったすてきなお嬢さんからとてもショックなメールが入った。
渋谷駅で銀座線に乗り換えようと思って歩いていたところ、コインロッカーから悲痛な犬のカナキリ声が聞こえてきたのだという。
まさか、と思ったけれど回りに犬の姿は見えず、声に近づけば近づくほど、鍵のかかったコインロッカーの中からとしか思えない。
「あんなに悲しく助けを求める泣き声は我が家の愛犬が手術をしたときでも聞いたことがありません」とメールには書いてあった。
すぐにロッカーの管理会社に電話をしたがすでに他の人たちからも何件か通報が入っていたらしい。
「5分後、スペアキーであけられたロッカーの中から、まだ小さいミニチュアダックスが顔を出しました。」
わたしはすぐに彼女に電話を入れてみた。
そのダックスがどうなったのか心配だったからだ。
電話で話してわかったことは、そのロッカーの中には他にドッグフードの空き箱がいくつかと、履き古した靴が見えたのだそうだ。
そしてダックスは舌が長くたれ目はうつろであったという。
熱中症で脱水症状をおこしていないか、心配だ。
近くのお店の人が預かりましょうかと申し出ていたが、警察官と管理会社によると鍵をかけたロッカーに入れてあった物であり、所有者が取りに来るまで管理会社で預かるのが通常らしい。
取りに来たら動物愛護法違反で厳重に注意するとおまわりさんは言っていたそうだが・・・これは現行犯ではないのか?
またこのまま放棄するつもりで取りに来ない場合は犬は動管にまわされるだけなのではないか?
また預かるという管理会社はこの脱水症状をおこしているかもしれない犬を獣医師にみせてくれるのだろうか?
ただケージに入れて置いておいたのでは危険である。
疑問がたくさん頭をもたげてくる。
これにマスコミが食いついてくれれば「がけっぷち犬効果」で貰い手がひきもきらずに名乗りを上げるだろう。
そんなことを電話で彼女と話した。
裁判官を目指す彼女は「犬は器物なんですね」と悲しそうに言った。
「人間のエゴをこれほど醜いと思ったのは初めてです。とても悲しくなりました」とも。
わたしは思わず「あなたが法律を変えて」と叫んだ。
しばらくしたら動管のHPをチェックしよう。ブラックタンのミニチュアダックスだったそうだ。
そのご再び発見者のお友達からメール。
飼い主から連絡があった、と渋谷警察から電話があったそうだ。
犬も無事らしい。
飼い主の言い分は「連れてきたけど昼から遊びに行くのにちょっと邪魔だったから、ロッカーにいれておいただけ」だそうだ。
その時点でまだ遊んでいるようだったらしい。
彼女いわく”もし通報がなかったら、(あるいはあれほど犬が泣き叫ぶ力がなかったら)ダックスはロッカーの中に入れられ続けたということです。引き取りに来たときは厳重注意するように警察の方にお願いして置きました”
そしてわたしも彼女もそんな飼い主のもとに戻らなければならないダックスが幸せなのかどうか、考えざるをえなかった。動物愛護法のもと、虐待の定義づけと罰則の実効が確定していれば、この人には犬を飼う資格がないとして、取り上げられるのが妥当ではないのだろうか。(2007/7/3)(Sindyまま)