神様からの贈り物「マーシー」

神様からの贈り物「マーシー」

ダルメシアンは先天的に聴覚障害を発症する犬がいます。ディズニー映画の「101匹わんちゃん」の主人公はダルメシアンですが、映画の最後のテロップに、「ダルメシアンは万人向けの犬ではありません、遺伝性疾患である聴覚障害、安易な繁殖をしないように」コメントが書かれていた?ことを思い出します。
日本は、そんな情報があるにも関わらず、ダルメシアンの繁殖は続けられ、障害犬が出ていますが、そのような仔犬は淘汰されることが多いようです。
またペットショップでは飼い主の元に行って、はじめて障害が判明し、飼い主から戻された犬は、保健所に持ち込まれ殺処分という運命が待っています。
Barry Eatonさんの聴覚障害犬のトレーニングの記事を掲載した後、Barryさんの記事を楽しみにしているというダルメシアンの飼い主さんからお便りがありました。
マーシーというチャーミングなダルメシアンの生い立ちを語って下さいました。
(2008/1/31)(LIVING WITH DOGS)


我家の愛犬マーシーは保健所からの保護犬でした。生まれてから我家に来るまでどういった経験をしてきたのかは判りません。
保護された当時のお話を保護団体のスタッフさんから伺いましたが、耳を覆いたくなるような壮絶な経験をしていたとのこと。それを裏付ける形跡が身体中に見て取れました。

そして、我家に迎えてすぐにその過去の経験から起きるであろう行動が沢山見え、しばらくの間はトラウマを取り除く、若しくは思い出させないよう”そのスイッチに触れない配慮をしました。そんなマーシーとの出逢いをお話ししましょう。

保健所に収容された動物を引き取り、里親探しをしている団体のボランティアをされているKさんからメールが入りました。

「今度うちで預かるコは、生後5ヶ月のダルメシアンの女の子だよ〜ん♪」

このメールを見た瞬間、「あ、その犬うちに来るな」と一瞬の直感がありました。「あ、その犬欲しい」ではなくて「来るな」というニュアンスです、そんな雰囲気が伝わるでしょうか。「今だから正直に言える」と思うのですが、もし次の子を迎えるならば、ダルメシアンの男の子で、国内のブリーダーさんを巡って、ショードッグを譲り受けるのも良いかもと考えていました。「理由はいろいろ」それを行動に起こすタイミングはまだまだ先で、でも、それほど遠くない未来と思っていました。

一時預かりのダルメシアンの女の子の情報が公開されました。

1.保健所から保護された犬。
2.思ったより痩せているが、コンディションは良さそう。
3.顔と体にいくつかのキズが見られ、耳から出血がある。
4.顔の表情は、あどけなくひょうひょうとした感じ。

身体にあるキズとその表情が結びつかない位可愛い。

「うちに来るな」と思った直感は、私の極々勝手な思いこみのようでした。この犬なら、早々に大切にしてくれる飼い主さんの元に迎えられるだろう。なんとなくほっとしたのと同時に、勝手に思い込んで我家に迎えるシュミレーションまでしていた自分が大いにおかしく思いました。

日々、新しい情報が公開されていくたびに、そのダルメシアンは犬本来が持つ個性を発揮して来ているようで、一時預かりのKさんのご家族の奮闘している姿も交えながら、その犬の成長ぶりを他人ゴトながらとても嬉しく思えました。

そのダルメシアンの女の子はKさんのお宅の環境に慣れ、すくすくと育っていました。

身体には傷があり痩せているとのことでしたが、精神的にはダメージが見られないそうで、ダルメシアンらしく元気いっぱいの様子がブログの文章から伝わってきました。

ブログを読みながら、いつも思うことは「なぜ、この犬は飼育放棄されたのか?」でした。たとえ、如何なる理由があったにしろ「殺してくれ」と保健所に持ち込む行為は許せるのもではありません。

そして、この子に聴覚障害があることが判明しました。「ああ〜!声にも溜息にもならない落胆」

私の幼なじみの家は、ダルメシアンとパグのブリーダーでした。30年以上も前ですが、子供の頃、その友人の家に入り浸っていた経験のおかげで、今の私があると言っても過言ではありません。その頃は「ブリーダー」と言っても何のことやら分からないし、犬を繁殖して生計を立てているといってもピンと来ない時代でした。
その友人の家で、聴覚障害があるダルメシアンと接したことがありました。いつもその友人と遊ぶ時はその子も一緒で、どこにでも付いて来ました。クルマも少なかったから、リードでつなぐこともほとんどなく、川原で走り回ったり、部屋の中で一緒に本を読んだり、何にでも興味を持ったし、とてもおっとりしていて優しい犬だったという記憶が今もあります。
その時の経験からダルメシアン=聴覚障害のイメージが私の頭の中から離れませんでした。
Kさんと何度か連絡を取り、そのダルメシアンの女の子の今後について保護団体側の話を含めて伺いました。

「犬は飼い主の元にその飼い主が生きて行くことに必要なメッセージを届けにやってくる。だから、犬が飼い主を選ぶのであって飼い主が犬を選ぶのではない。犬との別れがあるなら、それはその犬自身が運んだメッセージをすべて伝え終えた証で、その飼い主はすべてを学んだ証でもある。自分自身を内観する。どうしたいのか?」

Kさんに電話しました。

Kさんのお宅の近くにあるファミリーレストランの駐車場で待ち合わせました。しばらく待つと、大通りの横断歩道を渡るKさんが見えました。その横には、想像を超えた大きな犬がリードをグイグイと引きながら元気よく突進してきました。「え!?え〜!?」

それがその犬の第一印象。「生後5ヶ月ちょいのダルメシアンの女の子」

先住のパティが我家に来たのが丁度5ヶ月でしたから、そのイメージを持って待ち構えていました。パティは、骨格が細くしなやかで体つきもスタンダードのダルメシアンに比べるとかなり小さい目。その犬は、パティと正反対で骨太で骨格が大きく、顔の輪郭も大きくマズルも太くて短い。

最初に横断歩道を渡ってくるKさんの傍らの犬を見つけた時、その犬に何らかのハプニングがあって連れて来れない事情ができ、代わりにKさんの愛犬を連れてきてくれたのかと思いました。
今、思えば私はKさんと話しながら「いや〜、大きい大きい、しかし大きい、こりゃ大きい大きい」こんなことばかり口走っていたような気がします。
身体中に数箇所、毛の抜けた部分や顔のキズがあり痛々しかったですが、一時預かりが始まって、Kさんのお宅で1ヶ月間ケアしていただいていたおかげで皮膚のコンディションや体調もすこぶる良いことが見て取れました。
聴覚障害のある犬の特徴が頭の中にあり、その1つを早速目の当たりにしました。「大声でよく吠える」ことです。
しかし不思議と、吠える標的はボギーでパティが近くに寄っても吠える事はなく、一番懸念したのが先住犬との相性でしたが、吠える事はあっても戦闘的でなかったし、先住コンビもさほど敬遠するそぶりも見せなかったのでほっとしました。

落ち着くのを見て身体全体を触ってみましたが、初対面の私にも多少警戒しながらも触ることを許してくれました。耳の中も一応チェック、もしや、ティッシュとか耳垢が詰まっていて聞こえなかったのでは?なんて笑い話になりそうなハプニングを期待しながら。
残念でしたが、期待していたハプニングは起こりませんでした、耳の中は、耳垢ひとつ付着することなくキレイでした。
耳は前を向いたまま動かず、手を叩いても名前を呼んでも動きません。本当に、何も聞こえていないのです。
帰路、車中で、子供の頃、幼なじみの家にいた聴覚障害のあるダルメシアンの事を思い出しながら「きっとうまく行くだろう」「うまく行くまでチャレンジすればいいのだから、必ずうまくいく。」と反芻するように言っていました。

翌日、保護団体の代表者の方から電話がありました。

そのダルメシアンの女の子は、茨城県の保健所に収容されていて、保護団体のスタッフの方が引き取った際「座れ」、「待て」のコマンドになんの迷いもなく反応しました。
そのスタッフの方は、聴覚障害を持つダルメシアンが多く、放棄される理由の多くが聴覚障害が原因である事をご存じなかったとのこと。
もし、そういった知識があっても即座に声符でコマンドに従ったのなら何の疑いもなく健常とみなすのが当然でしょう。
聴覚障害があり、それにダルメシアンというキャラクターもあり、今後、想像を絶するようなハプニングもあるかもしれませんが、それも全部ひっくるめて任せていただく事になりました。避妊手術を受けてからの譲渡が必須条件でした。その犬は、まだ生後6ヶ月です。素人の私が感じる所、色々な思いからの団体の方針であるし、この犬の場合遺伝性と思われる障害があるわけだから当然のことですが繁殖する事は出来ません。
だから、避妊手術をする事に関しては致し方のないことと理解していましたが、しかし、まだ幼くて時期が早すぎはしないだろうかと心配でした。
そんな思いから、「こちらに迎え適切な時期に必ず当方が費用を負担し、手術を受けさせる事を約束しますから」と提案させていただきましたが、団体の方針として例外は許されませんでした。団体をサポートする獣医師の適切な判断に基づいての避妊手術の時期とのことでしたので同意いたしました。

そして、その犬を我家に迎える事が決定しました。

「この子は、生後6ヶ月で、保護されるまでの数ヶ月間、犬として一番大事な社会化の時期を最初の飼い主からブリーダーに戻され、保健所へとたらい回しにされた経験があり、その間に精神的にショックを受けトラウマとして残っていることもあるのでは?」
そんなことを漠然と思いめぐらしていました。Kさんのお宅では愛情一杯に育てていただき、人間に対しての恐怖心は全くなく、私達と環境に馴染むのにさほど時間がかかりませんでした。
我家の先住犬コンビは、普段家の中を好き勝手に行き来しています。どの部屋にもベッドや敷物があるので、夜に休む場所も決めていません。しかし、この子を迎えた時、精神的なことも考えて静かに充分に休める場所が必要だと思いましたので、クレートを購入しマットや敷物なども揃えて待っていました。
Kさんのお宅で過ごしていた時は、クレートの必要性がありましたのでトレーニングしていましたので、今でもクレートが大好きで、疲れた時には自分から入って休んでいます。

さて、耳の聞こえない世界はどのようなことなのでしょうか?

耳をふさいでみる。音が聞こえない。階下で犬達が吠えているかもしれない。宅急便屋さんが来て門を開けているかもしれない。電話が鳴っているかもしれない。
「かもしれない」と思うのは音を聞いた経験があるからで、音がしているのに反応できない自分に不安になる。耳に栓をして家の外を歩いてみる。生活に早く馴染んでもらえるように意思疎通を図るためのヒントが見つかるかもしれない。商店街やホームセンターで買い物をする。買い物をするだけなら音が聞こえないのは関係ない。
ただ、誰かが声をかけてくれてるのに反応できない。無視したとかイヤな奴!と思われはしないだろうか?
犬はそんな世間体は気にしないから、この心配はいらないか(爆)
音が聞こえないことで、危険を察知することと回避する事が遅れる。遅れることで命取りになる。それと、物との距離感がつかみにくい。目で見えていてもどのくらいの速さで近づいてくるのか想像つきにくい。こうやって歩いてみると色々なことに気づきました。

しかし、それらは私に音を聞いた経験があり、体感した経験があるからで、音を聞いた経験もなく、体感した経験もない犬の場合は、どう感じるのでしょう。

いよいよ今週末、その犬がやってきます。

近隣のみなさんに前もって、犬がもう1頭増えること、聴覚障害があること、人に慣れていないこと、吠え声が大きくて迷惑をかけるかもしれないこと、などなどお話をさせていただきました。

近隣には犬と暮らしてらっしゃる方が多いのですが、あまり迷惑だと感じるほどの吠え声は聞いたことがありません。

その犬と会って最初に感じたのは、吠え声が大きいことでした。自分が聞こえていないせいか?とにかく何の前触れもなくフルボリュームで吠えます。
我家の先住コンビはあまり吠えません、私自身も犬が吠えまくる環境に慣れていませんのでちょっと過敏になっていたのかもしれません。

迎える準備は整いました。明日の天気予報は大雨。

2006年12月9日、

保護団体の代表者の方とボランティアスタッフさんの乗る車を迎えに近所の県立公園に向いました。
直接自宅に来ていただくのではなくこの県立公園で待ち合わせた理由は、我家の先住犬達と先に会ってお互いを確認した後、我家の敷地に入った方がトラブルを防げるのでは?と提案させてもらってご理解頂いたからです。
しかし、生憎の雨、出発前に電話を頂いた際に「この天気ですので、直接来て頂いても結構です」と告げると「一応念のため、最良の方法を尽くしましょう」と代表者の方が配慮してくださり予定通り県立公園で待ち合わせました。約束の時間より少し早めにその車はやって来ました。

私達は簡単に挨拶を済ませ、トランクルームのクレートの中に目をやると、その中には、吐しゃ物と排泄物にまみれた茶色い犬が黒目をきょろきょろ動かしながら不安そうに座っていました。
代表者の方がクレートのゲートを開けると、その犬は恐る恐る周りの雰囲気を確認するようにゆっくりゆっくりと一歩づつ外に出てきました。
そして、全身が見えた瞬間、ブルブルブルっ!と全身を震わせ、付着していた汚物が車内、そして近くにいた私達の服や顔、メガネにべっとりと飛び散りました。
「高速道路に乗った途端、なんかイヤな予感がしたんだよね〜!!」ドライバー役を買って出てくれたボランティア・スタッフさんが苦笑い。「あなたは全く人騒がせね!ホントにウンのある仔だわ!」代表者の方が呆れながら話すと、木々に囲まれ静まり返った公園内に高らかで大らかな笑い声が響きわたりました。

自宅に到着後、すぐにその犬と先住コンビを庭に放すと、匂いを嗅いで確認作業もそこそこに3頭で猛烈に走り回りました。
ベランダの柱や曲がり角、その他ぶつかって怪我しそうな場所にエアキャップを施しカバーしておいたのが功を奏して、あちこちぶつかりながら走り回るマーシーは無傷でした。でも、ダイナミックに走り回るその姿に、120?あるフェンスも簡単に超えてしまう勢いですので、フェンス要所要所を補強し高くするよう注意を受けました。

マーシーが我家の建物の最初に入った場所は風呂場でした。吐しゃ物と排泄物と駆け回ってドロドロになった身体をキレイに洗い流しました。

代表者の方から、今後のマーシーの飼育上の注意や正式譲渡になるまでの説明を受け、書類にサインをしました。
なんだか、言葉に言い表わせないような気持ちの高ぶり。そして、ほんの少しの緊張。
不安はありません。もう、腹をくくったので。代表者の方とスタッフさんにお礼を言い、見送りました。
この日から、我家の構成員が1頭増えました。

黒目をきょろきょろして私達を眺めながら”会話を見る”クセは1年経った今も変わらりません。身体も二まわりくらい大きくなり、体重も増えました。顔と身体にあったキズは全て見えなくなり、毛の質も大分柔らかくなりました。あれから1年が過ぎたのです。「そうか、まだ1年なのだな」

我家に来た生後6ヶ月の時に、障害のあるマーシーを受け入れてくださるスクールを探し数軒問い合わせましたが、いずれも受け入れていただけませんでした。
この拒絶された事もポジティブに考え、私達家族との信頼関係を築き生活環境に慣れてもらう事の方が先決かも!?と解釈し、受け入れてくださるスクールにめぐり合えたのは、それから数ヶ月後のことでした。

今は、マーシーの穏やかな寝顔を見るたびに、過去の辛い経験がなければ、心に大きな傷を負う前に私と出会っていたなら、と思わずにいられません。
今は大分大らかになり、私達家族には心を許してくれていると思います。

マーシーを辛い目にあわせた人間達に対して、ほんの少しだけ感謝の気持ちがあるのは、障害があるマーシーに対して「お手」と「お座り」を根気強く教えてくれたことです。
それがマーシーが命を繋ぎ我家にやって来てくれることに繋がったのですから、そのことに付いてはありがたいと思います。
マーシーの命が繋がったという幸運の陰には、助け出されることがなく人間の身勝手で命を終えることになってしまった数え切れない程の命の存在があります。
そのたくさんの命のためにも、マーシーは自らの命を生き切らなければなりませんし、私達家族は全力でそれをサポートすることが責任をまっとうすることだと思っています。

マーシーという名は、私がPEANUTSの大ファンでして、先住のダルメシアンのパティ(ペパーミント・パティ)の妹分の”マーシー”からもらいました。
PEANUTSのマーシーは「MARCIE」なのですが、我家のマーシーは”神様からの恵み””慈愛”という意味の「MERCY」です。(2008/1/31)(神奈川県 Tさん)

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