微笑みの国の路上犬 (3)ハナにとっての最適な選択は?

微笑みの国の路上犬 (3)ハナにとっての最適な選択は?
(事故で背骨を折った野良犬をひろって)

翌日、ハナの里親探しのアドバイスをいただている動物保護活動グループ(Pic-A-Pet4Home)の主催者タリニーさん(Ms.Tharienee)にメールをした。見学に行った施設は安価であり、他の施設とちがい障害犬の扱いに慣れているようなので、ハナを預ける申し込みをしたことを知らせた。
タリニーさんからすぐに回答がきた。
『Have you decided what to do with HANA?……. I would like to recommend that you chose the shelter for handicapped animals as your LAST choice. I would like you to consider giving HANA a second chance which I recommend.』
(ハナを施設に預けるのは最後の手段にするように勧めます。ハナにもう一度チャンスを与えるよう考えて欲しい。)

そのあと、ややきっぱりとした申し出のメールをいただく。
『 Can you postpone the delivering of HANA to the Handicapped Shelter?  Let me help you make decision.  I’ll get back to you soon.』(ハナを施設にあずけるのはちょっと延期できる?すぐに連絡するから私にあなたの決断の助言をさせて。)

まだ破産しないでがんばっているから大丈夫、待てますよ、と回答すると金曜になりメールをいただく。
『Let me talk to the veterinarian who operated on HANA. Please also consider sending HANA to my veterinarian who will charge you 150 baht per day and let her try for few weeks. The physical therapy cost will not so expensive much .
(チュラロンコン大学のハナの執刀獣医に話しをさせてください。また私の友人の獣医は150バーツ(日)で入院できて、理学療法を安価でしてくれますから預けるよう考えてみてください。)

9月20日土曜日。明日は施設にハナを移送する予定の日。ハナの病院へ出かける時、家の前で車椅子の犬が歩いているのを見かけた。ドキッとしてよく見ると、付き添って歩く女性がいる。車を止めて、面識のない方に失礼とは思いながらも、思わず声をかけてしまった。『この補助車はどこで入手なさったのでしょうか?』
女性によると、スクンビットの36番のソイ(枝道のこと)に、犬用の補助具、車椅子を作成販売している店があって4年前に購入したが、まだその店があるかは知らないとのこと。よく見ると、ぶこつなDIYのようなできの古い補助車だったが、それでも犬は快適そうに歩いている。その犬は、6歳で前に飼っていた飼い主から頼まれて世話を始めたがもう2年になるそうだ。オムツをして後両脚が完全に使えない障害の状態であった。とても楽しそうに散歩する姿を見て、自分も事故の犬を世話していて、施設にあずけるか迷っているのだと話した。その女性には『施設に入ると、こんな風に外をお散歩することもなく、かわいそうかもね』と言われた。その犬は事故で声も出ないので、吠えないし世話はさほど大変でない、という話だったが、実際の苦労はどうなのであろう。障害をもった不自由な犬に『命を保護する』こと以上の『自由』を与えることが、今の私に選択できるならば、と病院へ向かいながら考えた。
ハナは元気だったが、まだ脚はうごかない。その日の夜、私は障害犬の施設のサタポーンさんにお電話をし、『ハナの脚の調子がまだまだなので、治療を十分してみたいので明日預けるのは延期します』と伝えた。

9月21日日曜日。病院でハナとひとしきり遊んだあと、ビデオに歩行の様子を撮り、その足で先のメールでタリニーさんに勧められた友人の獣医師を尋ねた。とても遠く、バンナーからかなり北側に位置するパホヨティン通りのソイ62番にその小さな動物病院はあった。途中の渋滞がひどいので片道1時間半かかる。
電話を入れた私を待っていてくれたのは、30代とおぼしき女性のトン先生(Dr.Tong)。落ち着いたボーイッシュな方で信頼のおける印象を受けた。彼女は路上犬の避妊・去勢手術などの活動をタリニーさん達と共にしている。

ビデオを見せると『脚の筋肉がかなり弱っていますね。術後1ヶ月経過していますが、今ならまだ間に合います。あなたの予算も考慮したうえで、精一杯の理学療法をします。今の状態ですと、水の中のリハビリが腰に負担をかけずによいと思います。ただ、まだワクチンをしていないとのことなので、水に入れて菌に感染するといけないので、タイハーブ(サムンプライ)を使ったマッサージなどもしていきます。』とのコメント。
私はその場で、ハナを理学療法のためにトン先生に預けることに心を決めた。少額のデポジットを預け、『すでに19時ですが、バンナーに戻り、ハナをつれて戻ってきてもよいでしょうか?到着は22時を過ぎますが。』と聞くと、―どうぞお待ちしています―と快諾してくださった。

バンナーの動物病院にハナの退院の電話をいれ、トン先生から要請のあったレントゲン写真、カルテ、今飲ませている薬、などを用意していただくように連絡した。
もう一往復この距離を走ると思うと、ぞっとしたが、ハナのリハビリを1日も早く始めるため日曜日の夜に移動するのがベストだ、と自分を叱咤してハナを迎えに戻った。
あいにく今までお世話になったアン先生はお休みで、ハナも最後のご挨拶をできなかったが、急いで未払残額の清算をすませて、看護士さんにお礼を言ってバンナーを後にした。 リラックスするようパホヨティンまでお気に入りのボサノバを聴きながらハナとドライブをした。しかし私の運転がラフだったためか、ハナは酔って吐いてしまい、おまけになにか匂うな〜と思ったら、おなかがゆるくなったらしくもぞもぞしている。なんとも運のよいドライブであった。22時30分にトン先生の待つ動物病院へ到着。ハナのお尻を洗わせていただき、ハウスに寝かせて外にでると、しばらくハナの鳴き声が外にまで聞こえた。初めの夜だけは不安であろうが、人懐こいハナのことだ、すぐになれるであろう。

ハナの居場所を探して3千里(古い?)ならぬ、2往復8時間におよぶバンコク郊外小旅行は24時の帰宅をもって無事完了した。ややくたびれて拙宅のドアを開けると、ALEX&ダイちゃんは、例のごとく、床にしいてあるタオル地の足拭マットを口にくわえて我先にと私にプレゼントしようと押し付ける。ハナに会った日は、私の足元を普段の10倍嗅ぎまわり、どこに行ってきたの?ねえ誰の匂いなの?と質問攻めの瞳で見つめ、黒々と濡れた鼻を押し付けるのであった。
『今日はね、ハナにねぇ、新しい居場所がみつかったんだよ。いい先生でよかったよ…..。』2匹の首に手を回して背中を叩くと、じっと肩に頭をのせて私の独り言を聞いてくれたのであった。(2008/9/27)(タイ N.Oさん)            

[注釈情報]

動物保護活動家のタリニーさん

里親探しの情報を発信してもらっていましたが、今回ハナのレスキューを通し、メールで情報を提供し続けてくれる女性です。添付の資料にある Pic-A-Pet4Home という路上犬の去勢手術、ワクチンなどの活動を行う、動物保護団体の主催者でもあります。タリニーによれば、9月27日にイベントにて路上犬へのバンコク都議会の方針を聞くことができるとのことなので、時間があれば出かけて見たいと思います。またレポートできれば幸いです。

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