微笑みの国の路上犬 (4)野良犬対策

微笑みの国の路上犬 (4)野良犬対策
(事故で背骨を折った野良犬をひろって)

ハナの背骨の手術から約1ヶ月経過した日曜日に、安価でリハビリの協力をしてくれるトン先生の小さな動物病院にハナを移した。
1週間後の9月の最終土曜に、トン先生を紹介してくれたタリニーさんに会いに出かけた。その日、彼女は、バンカピのTHE MALLというデパートのホールで開かれるイベントに自分の主催する動物保護団体のブースを開いていた。イベントの趣旨はバンコク都知事戦を10月初旬に控えたメインの候補者が、バンコクで施行された犬猫へのマイクロチップの装着登録義務制と路上犬の対策についてどう取り組むかの方針を披露する、というものであった。

会場にはタリニーの主催するPic-A-Pet4Homeほか、通称ソイDOGで知られるSCAD、DOG CHANCEなど4つの動物保護団体がブースを設けていた。人ごみの向こうに手を振る明るい顔のタリニーさんを見つけ、ハグをすると、私は思わず涙ぐみそうになった。たった1ヶ月ほどの間に何通のメールを交わして私を支えてくれたことか。ハナの命を救ったのは私ではなく、助言をし続けてくれたタリニーさんのような周りの存在なのだ、という思いで胸が一杯になってしまった。

メールでのやりとりのあと、実際に彼女にお会いして私はいっぺんにその人柄に魅了された。自宅でも100匹ほどの犬猫を保護中なのよ、と写真を見せてくれた。彼女の年代では珍しく英語が流暢なことからも、アカデミックで非常に行動的な女性であると感じた。

Pic-A-Pet4Homeでは、里親さがしの可愛いパピーやキティを連れてきていた。たくさんの中から真剣に1匹の子犬や子猫を選ぶ親子や学生さん。あまり見た目が良いとも言えない黒ブチの2匹の子犬は、白人の親子が里親になってくれたらしい。

『ボクね、猫も2匹いるの。でもパパが犬も飼っていいって。なんて名前にしようかなあ。』白人の男の子は流暢なタイ語を話した。その日、幸運な何匹かは里親がみつかったようだ。

ちょうど会場にはいると、TVでよく見かけるハンサムな前バンコク都知事氏が演説していた。タリニーは『実はね、彼は犬が嫌いなのよ、だけど今日はブースに挨拶にきてくれたわね。』と冗談めかして話す。もししゃべれる犬が聴衆として参加していたら、どの候補に都知事になってもらいたいのであろう。
意見・方針の大半は、マイクロチップによる犬猫の管理は飼い主のいるペットにのみ有効な方法であり、路上犬に対して実行することに懐疑性・困難さを表明するものであった。

C氏:マイクロチッププロジェクトはSCRAP(破棄)すべき、むしろ去勢手術の制度化を解決方法として導入すべき、との方針。

L女史:マイクロチップを‘A nonsense initiative’と揶揄していた。彼女は、飼い犬であっても人々を不安にさせる側面を指摘し、飼い犬が公共の場所を汚したり、人を攻撃したならば2,000バーツ(約6,400円相当)の罰金を支払うべきというような飼い主に対する厳しい法律の施行を提案。

T女史:バンコク都は路上犬に思いやりをもって、餌や医療を提供する予算を割くべきだ、と訴える。

P氏:『飼い犬を捨てる飼い主がいるから路上犬が増える』という事実を指摘した男性候補は、ペットを生涯ずっと責任をもって飼うことを、バンコクのような大都市におけるペット飼育者に奨励する啓蒙運動をしたい、との方針。当候補は、マイクロチップ制度の効果に懐疑的で、むしろ去勢と予防接種ワクチンの支援を訴え、問題への取り組みのためプライベートセクターの動物保護団体との協力体制を望んだ。

K氏:もっともタイらしい意見で、また積極的と感じた彼の方針は、バンコクの野良を含む犬猫に無料の去勢サービスを提供し、コミュニティ犬として地域の居住者に同意された路上犬を登録するような制度を設けたい、さらには、犬猫の亡骸のために火葬場の建設、路上の犬猫に対し残酷な処置を抑制するために動物保護促進センターを設立したい、と旨。

今回の選挙では前都知事氏が最有力候補と見られ、再当選の場合、近代的大都市バンコクの人間にとっていかに快適なバンコクにするかに手腕を発揮するはずで、CLEAN UPの中に路上犬が含まれないよう願うばかりだ。

日本の各大都市も30年ほど前は、今のバンコクと同じ過程をたどったことを忘れてはいけない。おおらかであった、人と路上犬との関係が保てなくなり、保健所は住民の訴えで野良犬を捕獲し続け、路上の犬を見かけることはなくなった。



翌日の日曜、愛犬をお風呂に入れて、掃除・洗濯と家事を大急ぎでやっつけたあと、紙おむつ・タオル・餌を車につんでハナの見舞いに遠出する。(以前は近所の病院だったので本当に遠く感じる)

トン先生の病院には、ゴールデンレトリバー(もどき)とシーズーの看板犬が待合室をドタバタと走りまわる。ハナをハウスから出すと、彼らの、ドタバタレースに加わろうと必死で前脚で移動する。

『え?』ハナをよくみると、後左脚を使って自力でよろよろと立って歩いているではないか!
以前は支えないと尻もちをついた状態になり、前脚で身体を引きずることしかできなかったのだ。

トン先生に聞くと『ワクチン後、プールでリハビリさせましたよ。』とのこと。毎日、筋力のリハビリマッサージをしてくれたに違いない。預けてわずか1週間でずいぶん筋力が回復しているようだ。ハウスにいれたままにせず、動くチャンスが多いからだろうか。やんちゃに吠えるし、元気一杯だ。先生が『ハウスにいれたスポンジマットを何枚もバリバリにかじってしまって。』と笑っていた。おむつもいやがってバリバリとかみ裂いてしまった。かなりのおてんば娘だ。

ハナの右後脚はまだ麻痺しているが、まず3本足でしっかり立てるようにすることが目標になった。朝から夜22時まで患畜をあずかる病院なので多忙なはずなのに、手間がかかるハナを引き受けてくださり、トン先生のボランティア精神には頭が下がるばかりだ。せめてリハビリ費用の心配をさせないよう、念のため2万円分のタイバーツをトン先生に預け、リハビリ継続をお願いして病院をあとにした。

家に帰り一息入れてメールを開くと、タリニーさんから『ハナの可愛い写真を送ってください。ハナが十分歩けるようになったら、里親探しのためにハナの写真を英字新聞に載せることができるかもしれません』というメールが入っていた。(タイ N.Oさん) (続く)

 

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