微笑みの国の路上犬 (5)犬がつなぐ人の輪

微笑みの国の路上犬 (5)犬がつなぐ人の輪
(事故で背骨を折った野良犬をひろって)

先週の日曜は忙しくてハナの見舞いにいく時間がなかった。
タリニーさんからリクエストのあった、『ハナの可愛い写真』も撮れないまま気にしていたら、彼女は自分で病院へ出向き、ハナの状態の確認をし、写真を撮ったらしい。すこし嬉しい驚きをにじませたコメントと共に写真をメールで送信してきた。
『Do you know that she can walk on Three legs ? This is a big improvement. I took some pictures for you. ・・・・・ The 4th leg doesn’t look that good but Dr. Tong said that it should improve if she is taken to swim more often. 』
そう、ハナの右後脚はまだ麻痺しているが、3本脚で歩くだけでなく、『走る動作』もできるようなのだ。あまりに落ち着きなく動きまわるので、いい写真が撮れなかった、とタリニーは嘆く。しかし、そのハナのやんちゃな性格が幸いして、自らリハビリを促進しているようだ。

その日残業を終え、自宅前に車を駐車する間にコンコンとガラスを叩く音がしたので左の車窓をみると、数週前に家の前で見かけた、車椅子の犬の世話をしている女性Tさんだった。『この前お話した障害犬の車椅子の購入先の病院、この名刺よ』とわざわざ病院まで行ってきてくださったようだ。名刺の住所をよくみるとスクンビットソイ26だった。以前、ソイ36と聞いたので、通りすがりに探したが見当たらないわけだ。
Tさんに『あの事故の犬、今リハビリ中でだいぶよくなったんですよ。自力で歩けるようになるかもしれません。』
というと、『それはよかったですね。』と、足元でうれしそうに見上げる車椅子の犬の頭をポンポンと叩く。
『この犬はね、実は交通事故ではないのよ。チェンマイ(タイの北の県)に住んでいた飼い主の家に、銃をもった強盗がはいり、この犬も撃たれてしまったの。それで声も失ってしまったのよ』と改めて事情を話してくれた。
家の中の犬は浸入者をみたら吠えるから、第一標的にされやすい。飼い主は助かるかもしれないが犬が被害を受けてしまったのか…怖かっただろうに。あらためて日本とは治安の事情が違うことを思い知らされる。
後日、車椅子のことを調べてくれたお礼に、Tさんの犬に、紙おむつのパックを買ってプレゼントした。

翌日、ハナの話を当WEBサイトでご覧になったバンコク在住の日本人女性(Kさん)から、ご寄付の申し出のお電話をいただいた。Kさんは偶然にもタリニーさんをご存知だったため、わざわざ調べて連絡をくださったのだ。彼女は在タイ10数年で、現在ご家族+3匹の犬達と暮らしている。1匹は今年の2月に路上犬を保護して家族にしたそうだ。Kさんは、ご近所で可愛がってた路上犬が、つぎつぎに毒殺されるというショックな事件を経験して、それがきっかで犬の里親探しなどの保護活動の団体SCAD(Soi Cats And Dogs)と出会いボランティアをなさっているとのこと。路上犬でも飼い犬でも命の重みは一緒、という彼女は、本当に心が純粋な素敵な女性だ。異国の限られた人との出会いの中で、ハナのおかげで、犬談義ができる心強い仲間と出会えたことに感謝している。
Kさんによると、10月23〜26日に、バンコクでも高級なエンポリアムデパートでペットのイベントがありSCADもブースを出すそうだ。この期間はペットも入場可能とのことで、特に25日はアダプションデーで里親探しの子犬たちと出会える日。是非、出かけてみたい。(SCADのURL http://www.scadbangkok.org/index.htm )

さて、当初からハナを応援してくださっていた、日本人のNさんから別の路上犬の件でメールをいただいた。いきつけのレストランの外にいつも寝ている犬がいて、昔外国人が飼ってたが帰国時に捨てられて数年そこに暮らしているらしいが、汚くてかわいそうなので洗ってワクチンなどをしてあげられないか?との提案だった。
早速、食事がてら、その犬を見に行った。とてもおとなしく、まわりのレストランから食事ももらえて、そのエリアには他の犬もいないので、それなりに快適に過ごしているようだ。しかし、皮膚病があるようで、白い毛の下の皮膚が赤く炎症を起こしているようなので、洗うだけでなく治療も必要かもしれない。一人では無理なので、人気の少ない日曜日に、他の方の協力も得て決行することにした。子犬の時から野良ならまだしも、人に飼われていた犬が捨てられるほど過酷なことはない。どこか具合が悪いのか、老衰のためか、その犬はだるそうな生気のない目をしていた。

先のSCADのKさんは怒りをこめて話していたが、駐在などで任期が終わればこの国を去る予定の人々も、犬や猫を購入して飼っているが、いざ帰国時には、家族と共に連れ帰るという考えがまったくない人々もいて、本当に悲しく愕然とする、ということだ。

平日に休みをとったので、Kさんのご寄付を病院にあずけるため、ハナのいるトン先生の動物病院へ出かけた。
タリニーの知らせの通り、ハナは元気に『走りまわって』いた。前脚の力で全身を支えているので、腰は下がっているがヒョコヒョコと走る、走る。そのひょうきんな姿は思わず笑いを誘う。先生に聞くと、ハナが動き回るようにできるだけケージから開放している、と話す。風邪をひいたとのことで咳をしていたが、問題なさそうだ。
ケージから出すと、あっちこっちへすべての犬や猫のケージに挨拶(というかちょっかい)をしに忙しい。ひとしきり遊ぶと受付のカウンターに回りこみ、すごい勢いで飛び出してきた。
『あ〜っ、ハナがウ○○をしちゃったぁ』トン先生がモップをもって走る。『腰を上げてきれいにトイレができるのよ。』受付にプレゼントされたハナのウ○○をみると、腸の消化状態も悪くないようだ。ハナはトン先生がPCに向かう仕事部屋に、2匹の看板犬と同様にお邪魔して頭をなでてもらう。トン先生は私に言った。『もうハナはピカン(身体障害)じゃないですよ。』
不自由でも自分で歩けるってすごいな、ありがたいな、と思う。そして早くハナの里親をみつけなくちゃ、と気が引き締まる思いだった。                  
(タイ N.Oさん) (続く)

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