動物孤児院 (51)犬が何となく存在する町 in 台北

犬が何となく存在する町 <in 台北>

バス停の前にあるコンビニ店で買い物をして店を出ると、黒に白の混じった中型犬と目が合った。ずんぐり体につぶらな瞳だ。首輪はしていないし、飼い犬だろうか。水はどこで飲んでいるのだろうか。明日にも保健所から捕獲に来るのでは? と、私は気が気でなくなった。
台北の友人の家から最寄りのそのバス停でバスを待つたびに、犬が気になってしかたない。観察すると、店に出入りする客を見上げて何だか物ほしそう。それから、モーターバイクが気に入らないらしく、道を通るバイクに吠えかかる。反対側の道路わきに何の用事があるのか知らないが、車が頻繁に走る道を渡りもする。あんなことしていたら今に車にはねられる。人間の私でさえ、道を渡るのに往生しているのに。台北の大通りで信号のないところを渡るのは並大抵のことではないのだ。
 友人は、その犬は店の犬だと思うと言った。いつも同じところにいるから。そうであってほしい。しかし、犬が餌を食べているところを見たことはなかった。

5年が過ぎた。犬はまだいる。台北を訪れるたびに、「もういないかも」と心配だったが、いつも同じ場所にいた。相変わらず、客を見上げたり、見上げなかったり、バイクを追いかけたり、きちんと左右を見て道を渡ったりしながら、何となくそこにいる。
そして、ついに決定的な瞬間を目撃した。そのコンビニ店で買い物をしていたら、犬が店内にいたのだ。店の人も客も、犬を追い払うわけでもなく、気に留めるわけでもなく…。

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