微笑みの国の路上犬 (7)新たなレスキュー

微笑みの国の路上犬 (7)新たなレスキュー
(塀の向こう側の犬たち)

ハナを預けているトン先生が独立して自分の病院を開く計画があるという。12月開院をめざしている、と聞いていたのだが、予定を早め、11月第1週に現在の病院の株主としての投資を引き上げることになったらしい。そのため、病院にいるトン先生関係の犬(通常より安く面倒見ている)は、急遽、すべて移動させることになった。前日の夜になって知らされ、まったくタイらしいハプニングだ、と思った。ところがまだ新しい病院は開院していないので、ハナを含む子犬たちの駆け込み寺として、タリニーさんの家に保護されることになった。彼女は里親さがしの活動の結果、引き取り手のいない多頭の犬猫を自費で保護している。
『わが家ではケージいれたままにせず、庭を自由に走り回らせているのよ。ハナがつま先の麻痺のまま走り回り、腫れがひどくならぬよう十分注意をするけれど、了解してくれるかしら? もちろん無料で結構よ。』との電話。私も神経質になりすぎ、(ハナの足を保護しなくては)などと思っていたのであるが、これはハナにとっては最高のリハビリである。久々に外で自由に走り回る喜びを実感できるはずだ。
タリニーさんも近所からの苦情がでないように、犬が吠えて騒がないよう気を使っているようで、ハナがひどく吠える場合は、また保護する場所を考えないといけないかも、とメールしてきた。心配で電話すると、『ハナは私が家を去るときだけ後追い泣きをしたけど、それ以外はご機嫌でいい子にしているし、友達と楽しく遊んでいるわよ』との答えでホッとした。
しばらく仕事が忙しかったため、2週間してやっとハナに会いにタリニーさん宅を訪問することができた。
ハナを通じて友人になったKさんも同行してくださった。1度では覚えられぬほど何度も小さい枝道を曲り到着した。都心でありながら静かなエリアに彼女の職場と住居はあった。
門に掲げられた『ラボラトリー』の看板をみて驚く私に、彼女は『私はサイエンティストなの』と説明してくれた。ご自分の仕事である研究所を運営し、犬の費用もまかなっているそうである。大きな敷地にさまざまな種類の犬が仲良く雑居していた。ハナのように事故にあった障害犬、心無い人間に硫酸をかけられて片目や耳を失った犬などもいた。
はじめての訪問者の私たちを歓迎してくれたときはいっせいに吠えたが、そのあとは静かになる。ご近所に気を使いながらも、自然体で30匹以上もの犬とみごとに調和した生活を保つ彼女のスタイルには感動した。庭にはEM酵素をまいて匂いが出ないよう工夫しているそうだ。
久々にあったハナは背中の毛もきれいにはえそろっていた。タリニーさんが、テーピングしてくれた脚のつま先は地面にしっかり着地し、4つ脚できれいに立っていた。本当に楽しそうにたくさんの犬に揉みくちゃにされながら遊んでいる。犬の社会の上下のマナーもしっかり身についているようで安心した。3人で犬談義に花を咲かせ、楽しい時間をすごしタリニー宅をあとにした。ハナのリラックスした幸福そうな表情は、ハナの新しいマム タリニーさんとたくさんの仲間との生活がいかに素敵なものかを物語っている。


Kさんから、とある路上犬のことで気になる相談をうけた。
(ご本人の快諾をいただき一部抜粋)
『現在、私が非常に気にかけている犬2匹がいます。私の住まいの近所の高い塀で囲まれた空き地の中に入り込んだまま出られなくなった犬たちです。ついこの前までは3匹いました。トラ柄のタイガー、白のスノー、黒いのがオレオ、と勝手に名前をつけて呼んでいました。8月に黒い犬のオレオの具合がひどく悪くなり、なんとか皆の協力を得て外に出し、獣医まで連れていったものの、甲斐もなく病院で息をひきとりました。
その土地の前で長年、屋台を運営している方に聞くと、犬たちは子犬のころから5年以上は塀の中で生きたきたそうです。
子犬のころはまだ自由に金柵の隙間から出入りできたようですが、成長した今はそれも不可能なようです。
私はこの犬たちの存在を今年2月ぐらいに知りました。木が生い茂りゴミだらけの不衛生なところで,雨が降っても雨宿りできるところもない状況で長年生きてきたと思うと胸がつまります。屋台の人がようやく塀をよじ登って中に簡易テントを張ってくれましたが、大雨となるとこれも壊れてしまうかもしれません。
いろいろな方に相談したのですが、保護してシェルターにその2匹を入れることしないほうがよいと言われました。その土地の中にいるほうがまだ幸せだと言うのです。それでも、このまま何もしてあげられず、残る2匹も先に逝った犬のように死んでいくしかないのかと思うと、とても辛いです。』
Kさんは今年になり路上犬(チャチャ)を保護し、3匹目の飼い犬にしたばかり。自分だけでさらに2匹も助けるのは無理とあきらめかけているようだった。早速、私はKさんと落ち合い、その犬たちがどんな状態なのか自分の目で確かめに出かけた。

壁の間の鉄柵の間からのぞき込むと、2匹がいつも食べ物をくれるKさんをみて近寄ってきた。実際に見ると、皮膚病もないようだし、Kさんたちの援助で餌は食べているおかげ、一見するところ健康な野良犬という印象をうけた。ただ、雨をよける建物がなく潅木だけの空き地なので、雨季には過酷である。雨に濡れても死ぬとは思わないが、肺炎になったり、ねずみなどからの感染症が死の原因になる恐れもある。また近い将来この土地もビルの建設が着手され、そのときには壁からは解放されるであろうが、この犬たちは長年暮らした棲家を失い、路頭にさまよい交通事故にあう危険もある。
犬を保護する上で気になることはいろいろあった。いくら空き地とはいえ、施錠された壁と門で囲まれた人の土地に無断で入るのは法律に触れる恐れがあるのではないか? 合法的に地主に壁の一部を開放させるとか、仮設物の設置を許可させることできないかなど、あてもなく話し合った。

私は、Kさんに提案をした。
『工事がはじまる前に、なんとかできることをしませんか? とてもきれいな犬ですし、性格も温厚なら、自分たちのネットワークを駆使して、タイガーとスノーの老後のために、あの土地から開放してあげませんか?
現実の厳しさはともかく、私の考えですが…

・ まず、保護(捕獲)する。
・  犬の訓練所のような場所で毎日人から餌をもらい、他の犬とも慣れて、3ヶ月は保護して社会復帰をさせる。
・  社会復帰段階を経てからさらに3ヶ月ほど訓練が可能か検討する。
・  社会復帰の時期に血液検査や狂犬病の注射もすべてしてあげる。
・  その間に里親探しを手配する。
・  問題は予算確保。あずけるだけなら3000B/月で頼めるかもしれませんが、訓練は5000B/月*3ヶ月以上。
提案後に私は、我が家の犬を訓練してくれた犬の学校のポンさんに、この2匹のレスキューへの協力について相談してみた。
彼女は、事情を理解してくれ、費用はすべてこちら側で責任をもつという条件で基本的に承諾してくださった。
そこでKさんにそのことを伝え、きっと考え込んで不安になっているKさんを励ましたかった。

『レスキュー後に協力してくれる場所は見つかりました。ポンさんのところで犬をぞんざいに扱うことはしないと信じています。冷房もないけれど、寝屋は清潔だし、定期の獣医も出入りしていますから安心。庭に自然な池と庭もあり、掃除中は、芝生か木陰でお昼寝させてくれます。Kさん、自然体でいきましょうよ。助けたいのに助けないより、助けてみて駄目なほうがまださっぱりあきらめられる、でしょう!前向きで、よくなる、大丈夫!と信じて。駄目と思うと何もできませんもの。
まず、こんどの日曜日に訓練所のポンさんに会いにいきませんか? Kさんのお力になれることかどうか、とにかく自分達でもやれる、と思うことを報告します。』

Kさんから返事があった。
『塀の中のスノーとタイガーの件ですが、お話したとおりレスキューをすすめたいと思います。費用のほうは寄付金を募ろうと思っております。すでに申し出てくださった友人もいます。日曜日、訓練所の下見に連れて行って頂けませんか? 』

そしてKさんと私の、‘冒険的で無謀なドッグレスキュー’の計画が具体的に始まった。

(タイ N.Oさん) (続く)

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