微笑みの国の路上犬 (9)病院の17日間

微笑みの国の路上犬 (9)病院の17日間
(塀の向こう側の犬たち)

タイガーとスノーを保護してから、Kさんはほとんど毎日病院のタイガーとスノーを訪ねてくれた。

(1週目)
3日後に血液検査の結果を報告された。『まず、タイガー、血液中にミクロフィラリアがいます。白血球の数値が19,100と高いです。スノーは血液中に寄生虫は見つからなかったものの、白血球が22,500とさらに高いです。2匹とも肺に問題ありとのことです。』
2匹の白血球の数値が高いのは、血液採取が病院到着直後で興奮さめやらぬ状態であった影響もあるかと思った。

外で何年も生活していたのに、スノーにミクロフィラリアがいないのは驚きだ。スノーはなんとか病院のスタッフの手により薬も飲めるが、タイガーは威嚇して噛み付いたそうだ。
2匹とも新しい世界を怖がっている様子だが、Kさんが触っても嫌がらないとのこと。そこで毎日、Kさんがレバーなどの彼らの好物を持っていき、薬とともに手で食べさせてみることにした。はじめは、少し食べただけであとはフンと横を向いてしまったそうだが、その後はKさんからは順調に薬も食べてくれるようになった。
はじめの数日間は、2匹の警戒した様子や表情に、救出した私達の心も非常に動揺したが、2匹の心が解けることを信じるしかなかった。タイガーはケージをあけると少しだけ部屋の中を歩くようになったが、スノーは壁との隙間にもぐりこんで、何時間もかくれたままの様子。相当、見知らぬ人間と世界を怖がっている。

まずタイガーにゆっくりと変化が見られた。Kさんからメールで報告をいただいた。
『今日はちょっと変化ありました。私が行くとタイガーはとっても嬉しそうに反応したので、ケージを開けたらお手をしましたよ。しかも右、左とかわりばんこに!私の手を舐めて、おまけに顔まで舐めようとしました。そして薬を飲ませてしばらく様子を見ていたら、今日は自らケージから出て室内を歩きました。ただし、隅のほうでコソコソとしていただけですが、20分ぐらいそのままにさせたら中央にまで来ました。そこで、リードをつけたらどうかと思ってリードを見せたらビックリして逃げました。リード=引っ張ってイヤなことされる、と思っているようです。リードはあせらないことにします。自分で出てきただけでもすごい進歩!』
私は、2匹にとってKさんが心を開く鍵になるに違いない、と確信した。
病院ではタイガーはかなり威嚇するようだ。今まで一緒に仲間として生活していたのに、タイガーがスノーのケージのそばに寄るとスノーはまるで見知らぬ犬を見るかのように歯をむいて唸ったそうだ。そんなスノーも、Kさんにはアイコンタクトをしてくれる進歩が見られるようになった。

(2週目)
1週間でポンさんの訓練所に移すには、まだ2匹の様子も安定せず、薬も必要なのでもう少し様子をみることにした。
『2匹が、すこしずつ心の緊張とショックから解き放たれていくようで嬉しいですね。よかったです。タイガーはKさんを心待ちにしているのね。オスって甘えんぼなところがあるでしょう。そういう反応がまた、可愛いですね。ポンさんには、訓練所に移すのは1週間後に延期と伝えて宜しいでしょうか。このまま順調にショックから立ち直れば、もっと広々とした環境で、規則正しく餌をももらい、他の犬との共同生活に慣れること=社会性の回復にむかうよう、やってみましょう。この先もすんなりはいかないかもしれませんが、私は、きっとあとでよかったな、と思えるはずと信じています。』
Kさんから返事があった。
『今日のタイガーは、ケージを開けたら私の手を舐め、そして顔もペロッっと舐めてくれた後に、室内に誰もいないことを確認してそっと出てきました。そしてうろうろしたりケージに入ったり。その間、スノーはタイガーを見て唸りました。
スノーはケージ越しに手を入れたら、クンクン匂いをかいで嫌がる様子はありませんでした。ケージを開けて体を撫でても、前のように力が入ってなくてリラックスしてました。私がタイガーをかまっている間は、始終それを見つめてました。タイガーがだいぶケージの外に慣れたので、明日はリードをつけてみようと思います。チョークチェーンを見ると脅えますので、ふつうのカラーをつけてみます。獣医がスノーの足の怪我も大丈夫というので、明日はスノーもケージの外に出してみます。この先、訓練所でも大変だとは思いますけど、後でよかったなと思えると信じます。』                                                      
そんなある日、タイガーがKさんに向かって唸ったという報告が届いた。
『先日はちょっと失敗。リードの練習の時にタイガーに唸られて私がびびってしまいました。それでも続ければよかったでしょうが、「噛まれたらどうしよう」という気持ちが先走ってしまって出来ませんでした。でも、今日はタイガーは非常におとなしくいい仔でしたよ。スタッフが室内にいても今日は少しケージから外に出てきました。それに、今日は全然引っ張らなかったのです。私のそばに来ましたので、その度によしよしと撫でてあげました。名前を呼んで(おいで)ってしてみたら尻尾振ってそばに来てくれました。これはただの1回きりでしたが、尻尾振ってそばにきてくれると嬉しいですね。
タイガーは私が来ると外に出られると思うのか、尻尾振ってケージをガリガリやりますので、とにかくタイガーが納得するまで歩かせてあげようと思います。
問題はスノー。一体どうしちゃったのでしょうか。病院の人も、(もう1週間以上もいるのにいまだに慣れないからどうしてだろう)って私に聞くのです。スノーはいまだに震えていました。』 

14日目に私とKさんは2匹を病院から、訓練所に移す時期についてやりとりした、
『毎日は会えなくなりますが、そろそろ犬の学校に入学させますか?Kさん以外の人ではまだ心を開かないと思いますが、思い切って。問題があれば、いつでも仮に病院に戻すことはできますよね。とくに、スノーは、あまり狭いところにうずくまってばかりいると、筋力・体力がどんどん落ちて関係ない病気がでないか心配です。ハナの例をみますと、バンナーの病院から放し飼いのトン先生のところに移して、どんどん足が丈夫になって立てるようになり元気になりました。』

『タイガー、今日は名前を呼ぶとちゃんと来るようになりました。リラックス度があがって今日は何回もケージから出たり入ったりしていました。スタッフのお兄さんが隣のケージの犬をチェックしていたその後ろ姿の匂いをかいだりして、ああ、こんなに慣れたのだと感心しましたよ。タイガー、入院中のチワワちゃんが大好きなんです。全部のケージにご挨拶にいったけど、チワワちゃんが一番好きみたいでまっさきに行くのです。立ち上がってチワワに顔をくっつける様子はすごく可愛くて、スタッフのお兄さんも笑ってました。でも大型はダメ。ダルメシアンには威嚇していましたし、ラブラドールには逆に威嚇されてケージに戻ってきました。私もこの狭いケージにこれ以上閉じ込めておくのは、かわいそうだと思っています。でも、正直言ってこんなになついてくれると離れがたいです・・・』
思った以上に長く病院で様子をみることになったが、17日目の日曜日に2匹をポンさんの訓練所へ移すことにした。

N.O & K.A (続く)

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