小林信美の英国情報 (11)愛犬と行くヨークシャーの旅(3)

小林信美の英国情報 – 愛犬と行くヨークシャーの旅(3)

前回は北海に面した小さな町 Whitby の自称「ペット犬大歓迎」の B&B(ベッド・アンド・ブレックファストと呼ばれる英国版民宿)で、愛犬を置き去りにして外出をしないことという規則があったため、中華料理の総菜屋から食事を買い求め部屋で夕食をとらなければならなかったという所で終わった。

翌朝は、昨晩のことがあり、さらにぱっとしない朝食にがっかりした父と私は不満な気持ちのままB&Bをチェックアウトした。前述の通り、Whitby は北海に面している町だけあり、まだ9月末だというのにやや肌寒かった。この日はヨークシャームーアを西に向かって数十キロほども行かない所で宿泊する予定だったので時間は十分あった。そういうわけで、せっかくここまで来たのだからとマチルダと父と私は町の中を少し散策することにした。英国では夏休みを海岸で過ごすのが一般的になったのは1920〜30年代のことだというが、今では海辺の町はたいていの場合廃れてものさびしい感じのする所ばかりのように思える(*1)。さらに飛行機で2時間くらい行けば太陽のさんさんと降り注ぐスペインやギリシャに簡単に出かけられる今日、夏でもそれほど暖かくない英国内の海岸沿いの町にわざわざ出かける英国人はよほどの物好きでなければいないようである。それでも海岸の方に足を向けると、町はそのなまりからマンチェスターなどに近い北西部から訪れたらしいとわかる人たちでにぎわっていた。

マチルダ同伴の旅行でいつも苦労するのがオフリードで犬を散歩させられる場所を見つけることだ。その点、海岸ならば大丈夫だと思って行ってみると何とがっかり。シーズン中なので9月30日まで犬の散歩禁止という立て札が立てられているではないか(写真左)。ご覧の通り、海岸はほとんど人気がなく(写真右)、犬の散歩には持ってこいというような環境である。

これほどまでにも犬連れ観光客に冷たい所にぐずぐずしてはいられないと、海岸近くの道路沿いでマチルダに用を足させると、一路、ヨークシャームーアへと発つことにした。
(Whitbyの公衆便所の外にもこんなサインがあったほかに、犬はリードをつけてのサインも多く見られた。)

 

Whitbyはヨークシャームーアから少しはずれた所にあるので、15分もしないうちにいかにもムーアらしいという光景の所にぶつかったので、道路際に車を止めて景色を楽しむことにした(写真右)。


実は、この近くにムーアの自然を満喫できる蒸気機関車の旅を楽しめるノースヨークシャームーア鉄道が走っているので、時間のある人にはおススメである。ちなみに犬も乗車賃を支払えば可だそう。
自然のままのムーアは美しいものの、北海からの風が吹きぬけ、暖かい飲み物が欲しくなった私たちは、写真撮影が終わるとすぐに次の予定地の Helmsley に向かうことにした。ここもムーアの南端にあり、Whitbyからも数キロほどしか離れていないので、30分もしないうちに村の中心部から少し外れた 元貴族の大邸宅である Dunscombe Park(*2) に到着した(写真左)。

ここも前述の Castle Howard と同様、維持費がかさむので持ち主が観光客に邸宅を公開するようになったようである。しかし、こちらは Castle Howard よりも規模が小さく、そのせいかサービスもきめ細やかなような気がした。またビジターセンター内にある喫茶店(屋外の席は犬同席可)の食事もまずまずと言った所で、邸宅内の見学ができる他、敷地内の散歩コースもあり午後のひとときをのんびり過ごすのに最適な場所といえる。
残念なことに敷地内では羊が飼われているので, 犬はリードなしで散歩はできないのが玉にきずと言った所だろうか。

(写真左 : 林の向こうに邸宅が見える。写真下:敷地の中心部には羊などが飼われている)

 

さて、この晩泊ったのはAppleton-le-Moorsという小さな村で、Helmsleyから数キロ北海岸の方向に戻ったところにある。宿は村の唯一のパブの二階にあるムーアズ・インだ(写真左)。

室内の装飾は至って質素でこれといってコメントすることはない。サービスで室内に備えられているビスケットや紅茶、コーヒーも平均的なものばかり。ところが驚いたことに、田舎でぱっとしない場所にありながら宿のオーナーがパブの奥で経営しているレストランの料理がなかなかおいしいのである。さらに、パブ内では犬同伴可のテーブルがあり、夕食中、愛犬を部屋に置き去りにする必要なしと愛犬家にとってありがたい心づくしである。

宿周辺での犬の散歩に関しては、農地に囲まれているので田舎に慣れた犬でなければリードなしでの散歩はお勧めできない(英国では農家の家畜を追い回したりしただけで犬を銃殺してよいという法律がある)。

しかし、宿の庭を出るとすぐにパブリックフットパスという公共の散歩道があり、犬のおトイレにはそれほど困らない(写真下)。

前夜、おいしいごちそうをたくさんいただいた後だったが、翌朝の朝食も非常においしく、単純な私たち親子はそれだけでも非常に満足だった。もちろん、前述の通り食事の際愛犬を同伴できるというのは、犬のことを気にせずにゆっくり食事が楽しめるという点で非常に便利である。
そういうわけで、ムーアズ・インは愛犬家に非常におススメな宿ではあるのだが、残念なことにオーナーがすぐにでも隠居生活に入りたいということで、買い手が見つかり次第、パブと宿を売りに出したいと希望しているとのこと。次回、この地を訪れる時には今回のようなサービスは期待できないと思った方が無難なようである。

* 次回は、最終日、大聖堂でお馴染みのヨークでの宿泊の話題をお伝えする。

参考資料 :
(*1) 英国の海岸沿いの町の歴史
(*2) Dunscombe Park
(*3) Moors Inn

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