動物孤児院 (11)観光客のボランティアによる犬の輸送
(11) 観光客のボランティアによる犬の輸送
スペインの離島、カナリー諸島では多くのドイツ人がバカンスを過ごします。ドイツの各地から4時間余りで行ける、このアフリカ沖の島々は常春の温暖な気候で、住み着いたドイツ人も少なくありません。そして、ドイツ人のいるところ、必ずあるのが、ドイツのパン屋さんと動物保護団体の動物孤児院でしょう。
保護された放浪犬、捨てられた子犬や子猫、島民に捕獲され、数日後か数時間後には殺処分の運命だった犬たちがドイツ人の主催する保護団体の職員によって命を救われ、島に数ヶ所ある動物孤児院に引き取られます。運営資金はドイツからの寄付です。雑誌や新聞、テレビなどのマスコミニケーションがパブリシティを広める役目をしていることは間違いありません。島にある数ヶ所の孤児院では、病気や事故に遭った犬を治療し、去勢不妊手術をして、伝染病の予防注射、そして駆虫をします。そして、一頭一頭写真付きの「出生証明書」を作成して、ドイツ行きの「パスポート」を用意するのです。
同時進行で、島からドイツに帰る観光客のボランティアを募ります。保護団体にボランティアをする意思を伝えると、動物孤児院に連絡が行き、孤児院サイドは今回ドイツに送り込む犬を選び、おめかしさせ(シャンプー、首輪とか)、運搬用のボックスに入れて、空港に運びます。狂犬病予防注射を済ませた証明書(つまり、これが犬のパスポートにあたります。)を忘れてはなりません。
空港では、ドイツに帰る観光客が待っています。ボックスに入った犬と予防注射証明書を受け取り、観光客は航空会社のカウンターにチェックイン。航空会社の配慮により、無料です。4時間のフライトの後、ドイツに到着。犬を受け取り、空港で待っていた保護団体の人に犬を渡して、ボランティアは終了です。
そうやってドイツにぞくぞくと犬が送られているのです。カナリー諸島だけでなく、スペイン本土、ポルトガル、ギリシャ、トルコ、そして、ハンガリーやルーマニアなどの東欧諸国からも送られて来ます。
これらの犬は、放浪生活や孤児院での共同生活を体験しているせいか、協調性があり、よい家庭犬になる、と評判です。
しかし、虐待されて病的なまでに臆病になった犬もいます。テレビで紹介する際、グレイハウンドのような大きな犬が職員の膝に頭を埋めたままだったり、カメラの前でうずくまってしまう犬がいるのですが、司会者が、「どうかあなたの愛を」と言うまでもなく、ハッピーエンドが約束されたも同然です。
(2003/05/05)
(小野千穂)