動物孤児院 (13)やがてドイツから姿を消すピットブル系

(13) やがてドイツから姿を消すピットブル系

日本で、アメリカン・スタフォードシャーが複数の人々を襲って、裁判になっているらしいですが、これを機会に闘犬の飼育には規制が必要だとお役所が認識してくれたらいいのですが。それとも犬の種類の選択や、繁殖や、飼育の方法など個人の自由だ、と人々は主張するでしょうか。

ドイツの動物孤児院は闘犬種が多く持ち込まれ、中には収容している犬のほとんどがピットブル系という孤児院や、闘犬種だけ扱う孤児院まであります。それほど闘犬種は一時流行し、そして(当然の結果として)、人を襲い、ときには人が殺されるという事件が起きて、繁殖は禁止になりました。

今、ドイツの道で出会う闘犬種は、市町村の行うテストに合格した犬だけです。犬の近くで乳母車が倒れても無関心でいられるか(中から人形が転がり出る)、人がいきなり手を出したり驚かしても攻撃しないか、など、いろいろなシチュエーションを作り、犬を刺激して、それでも平静でいられるかどうかを調べるのです。これに合格しない犬というのは、ほかの犬を見たら即攻撃する、人間を襲う可能性が十分にあるわけです。

これまでの事故は、飼い主がちょっと油断した隙に逃げ出した犬が人や犬を襲うというものでした。人間が数人、犠牲にならないかぎり、行政が動かないのはドイツも同じです。攻撃性があるようだからという予想だけで繁殖を禁止することはできませんでした。

ドイツでは、逃げ出したピットブルが公園で遊んでいた少年を殺したその次の日に、「すべての闘犬種は去勢不妊の手術を受けさせること」、「散歩はリードから放してはならない」「口輪をつける」が緊急議会で決定しました。ただし、その後、去勢不妊が徹底し、攻撃性チェックのテストが実施されるようになってからは、危険な犬がいなくなったので、口輪の義務はなくなりました。

闘犬種の多くが動物孤児院に持ち込まれた理由は、飼い主の経済的理由もあります。犬税がほかの種類と比べ何倍も高くなったからです。(これは都市によって異なり、都会ではふつうの犬の10倍も高い町があります。)

それだけではなく、人々が闘犬種をあからさまに敬遠し始めたのです。犬や人を見ると「血が騒ぐ」という犬が闊歩していたら、子供を外に出すことさえできません。闘犬種やロットワイラーの飼い主は、新しくアパートを探すことさえ困難です。道を歩いていても、通行人は嫌な顔をしたり、闘犬種を飼うことを非難したりするそうです。闘犬種でもすべてが攻撃性が強いわけでもなく、人間にも他の犬にも、猫にもウサギにもただただやさしいだけの犬がいるのですが、ピットブルの強靭そうなあごと牙を前にすると、どんなに「どうもしませんよ」と言われても、怖いというのが正直なところ。

私の住む地区でもピットブルの雑種を散歩させている人がいます。最近会う闘犬種は確かに安全のようで、飼い主のおじさんは、「この犬、ものすごく臆病なんですよ」と言うのですが…。

では、ロットワイラーや、ドーベルマン・ピンシャーはどうなのか? という問題もあります。実際、ドイツでかみつき事故はピットブル系ではなく、ジャーマン・シェパードなのです。そして、他人を威嚇するための道具として、犬が使われるかぎり、人や犬を襲う犬は減らないのです。

野犬はまったくいないドイツで、ドーベルマン・ピンシャーとロットワイラー間の雑種が自然発生するわけがありません。だれかが、「もっと強い犬を」と望んで交配させた結果を、あちこちの動物孤児院で見ることができます。実際はそうでなくとも、見るからに獰猛そうな犬は、引き取り手がなかなか見つからず、3年も4年も、そして、もしかしたら最期の日まで、動物孤児院で過ごすことになるかもしれません。

「この犬はもう3年も動物孤児院で過ごしました。どうか、みなさん、この犬をあなたのファミリーの一員にしてあげてください」と、テレビの里親募集番組の司会者は言います。私もそんな犬を見るたびに、最高のファミリーが見つかるよう祈ります。

(2003/06/01) 

(小野千穂)犬との暮らしのコミュニティー

サブコンテンツ

カテゴリー

このページの先頭へ