動物孤児院 (15)動物孤児院からチワワを迎えた友人

(15) 動物孤児院からチワワを迎えた友人

友人夫婦が、フランクフルトの郊外にある動物孤児院でボランティアをしている友達から「チワワの写真を見てほしい」とメールが送られてきたのは2週間前のこと。写真を見ると、動物孤児院でつけられた名前の「ミュッケ」(ドイツ語で「蚊」という意味)がぴったりと思うほど小さくて、灰色で、やせていて…。「蚊」というより、ほとんどネズミでしたが。

とにかく見に行くけど一緒にどう?と誘われてお供した私です。
周囲は畑と野原という環境にその動物孤児院はありました。人家から離れているので、大型犬がどれだけ吠えても大丈夫でしょう。案内人に連れられて、厳かにオリの外から初のご面会で緊張ぎみのわれわれでした。

オリにはチワワが2頭。目が真ん丸で愛くるしいトライカラーのロルフィーという子とミュッケがこちらを見て吠えます。「ロルフィーはもう決まっています」と案内人はすかさず一言。老人ホームで飼われることになったのだそうです。ミュッケはというと、3週間前フランクフルトの町をさまよっているところを警察に保護され、尋ね犬を申し出た飼い主もいなくて、ここに来たのはいいけれど、だれもふりむいてくれない。「ほんとにだれもほしいって言わなかったんですか」という私の問いに、「いや、だれも」という答えです。

お世辞にも見てくれがよくなくて、私の正直な第一印象は、「ネズミだ!」なのですから、仕方ありません。それが現実です。

案内人は友人夫婦にオリの中に誘導してミュッケとしばらく会話するよう勧めます。30分以上はそうしてオリの中で過ごしたでしょうか。(もう、いらないとは言えないでしょう、いや言わせない、という孤児院の作戦か…。)

手続きを済ませると、「明日お宅に連れて参ります」という言葉が待っていました。ミュッケの新しい環境と家を確認してからでないと譲ることはできないという規則でした。里親になった後も、抜き打ち検査と近所への聞き込み調査があるそうです。この徹底ぶりは、スゴイとしか言いようがない。日本でこんなこと果たして可能でしょうか。

そして翌日、午前11時にミュッケが連れられて来ました。家に入るなり、動物孤児院の男性はテラスを開け、生垣に隙間があるのを見て、「これは危険だなあ!」と言ったので、友人と私は顔を見合わせてつい笑ってしまいました。どこまでも犬の立場から考える人たちです。生垣の修理をしないとお渡しできません、と言われるかもと心配になりましたが、幸い、追求はされず、友人が書類を読んで同意のサインして、手数料に邦貨で2万円余り払うと、ミュッケは晴れてヴィッパーフュルト家の一員になったのでした。(半年以内にもとの飼い主が見つかった場合は返すということと、家の中で決してリードでつながないということに同意を求められました。)

ミュッケという名前はクッキーという新しい名前に変えられ、今では「クッキー!」と呼ぶと、友人の腕の中に飛び込んできます。ところどころ禿げていた灰色のつやのないロングコートもだいぶ生え揃ってきました。孤児院の人から、「紅花油をえさに混ぜると毛にいいですよ」と言ったので、私はオーガニックの紅花油を一本プレゼントしたところです。

ブラウンの小さな目とアンダーショットの顔がよく見ていると、「たまらなくかわいい」と、私も思います。禿げた頭と尻尾も個性的。

友人夫婦は毎日電話で、やれクッキーがミミズを掘り出してきてベッドに置いた、やれ蟻をつかまえて見せにくる、やれ朝の6時に足をかじりにくる、困ったネズミだ、手のかかるネズミだ、と騒いでいます。

(2003/08/09)
 

(小野千穂)

犬との暮らしのコミュニティー

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