動物孤児院 (2)南の国から来た犬たち
(2) 南の国から来た犬たち
ドイツのテレビ局には、「動物の里親募集」番組がたくさんあり、毎日、どこかのチャンネルで、
「子供大好き。去勢済みで、今年5歳になるジャーマン・シェパード。もとの飼い主は、新しい引越し先で犬が飼えなくなりました」
「15歳のプードル雑種。目が見えませんが、生活に問題なし。飼い主は亡くなりました」…と聞こえてきます。私など、ドイツに初めて来たとき、このシステムに感心するあまり、ことごとく観ていましたが、実にたくさんあるので、とても観こなせません! そして、なぜ、こんな番組が日本にないのだろう、といつも思います。お金にならないから? スポンサーがつかないから? ドイツの「里親募集」番組はテレビ局からの愛のプレゼントです。スペイン、ポルトガル、ギリシャなどから連れて来られた犬も大勢紹介されます。「南国の犬」と呼ばれていますが、エキゾチック、ロマンチックな意味ではありません、この場合。
南ヨーロッパでは、犬が虐待されることが多く、捨てられた犬は野犬になって、野犬狩りで集められた犬たちは残酷な方法で殺処分されるのです。ここで言う「虐待」とは、狭い檻に入れて飼う、水や餌をろくに与えない、のほかに、つないで飼うことも入ります。私は日本の家で、つないで飼われている犬を見るたびに、「ドイツ人の保護団体が日本に取材に来たら、たいへんなことになるゾ・・・」と思ってしまいます。日本の市町村のキャンペーンに、「犬はつないで飼いましょう」などとあるのを見ると、道の遠さを感じます。あああ、どこから手をつけていいやら、の気分になります。(道は遠くとも、一歩ずつ前進するほかありませんが!)
私はよくスペインのカナリア諸島や、ギリシャの島を旅します。そして、現地の「動物孤児院」を訪ねることにしています。多くは、ドイツ人が個人で経営しており、現地の人たちが一緒になって犬猫の世話をしています。動物保護を必要と感じない人には、わざわざドイツからやってきて動物収容所を開くなんて、と否定的な現地の人も当然いるのですが、ドイツ人はめげないのです!
自国以外でも、捨てられた犬猫を救おうと必死になって、こういう動物孤児院を経営しているドイツ人を見ると、本当に頭が下がります。
ドイツ人観光客が立ち寄って犬を引き取ることもありますが、大部分はドイツへ送られます。そして、輸送には、なんと航空会社が協力してくれるのです。それには、現地からドイツに帰る乗客が空港で、「自分の犬」としてチェックインする必要があります。航空会社のサービスで、無料です。現地の空港では、ケージに入れられた犬と予防接種の証明書を持った係員が待っていて、ドイツに着いたら、犬のケージを受け取って、ドイツ側の動物孤児院の人に渡すだけ。こんなボランティアだってあるのです。飛行中の数時間だけ「飼い主」になるわけです。
スペインやポルトガルで野犬だった犬は、おとなしくて、ほかの犬との協調性もあり、人気の的です。虐待された犬は人間不信で、びくびくしていますが、そういう犬こそ、愛情豊かな人間に巡り会うと、すばらしい絆が出現するようです。私の周囲にも、マヨルカ島(地中海の小島)や、カナリア諸島出身の犬を飼っている人がいますが、かれらの愛と信頼関係は傍から見ていてもその深さが感じられます。
(2002/11/05)
(小野千穂)