動物孤児院 (63)せいたいはんばい? 生体販売!
せいたいはんばい? 生体販売!
ドイツのペットショップでは犬猫の生体販売をしないが、昔からそうだったわけではない。25年ほど前まではデパートにペット売り場があって、ガラスケースの中で子犬が2、3匹寝ていた。「かわいい…、ほしい…」と私は街に出るたびに子犬を見に行ったものだ。たいていダックスフントか、コッカースパニエルだった。
ある日のことだ。いつものようにその階に足を運ぶと子犬のいたガラスケースはからっぽで、張り紙があった。今でもその手書きの張り紙をはっきりと覚えている。
「子犬の販売はしないことになりました」
売り場の人に訊ねると、子犬にストレスがかかるからという理由だった。当時の私は子犬のストレスということを考えたことがなかったので、そのようなことまで考慮するドイツ人に驚いた。
以来、ペットショップは犬猫の生体販売を止めた。
私が東京の知人(某出版社の編集者)にこのことを話すと、彼は「せいたいはんばい? 生体販売? なんですか、それ。すごい言葉ですね」と言った。確かに動物愛護関係に興味がない人はその言葉を見たり聞いたりする機会もないだろう。
☆ ☆ ☆
ドイツ人の意識は40年で大きく変わった。
ペットショップが生体販売を止めた時期からあと15年ばかり昔に遡ると(つまり40年ほど前のこと)、今日なら間違いなく警察沙汰になる販売方法がドイツにもあった。何百キロも離れたところに住むブリーダーへ電話するだけで、子犬を入手できたのだ。それも普通の郵便小包で。
まさか……、と思われるだろうが、実は証人が目の前にいる。夫の弟がそうやって子犬を買ったのである!
雑誌で子犬の広告を見た義理の弟はミュンスターランダーという猟犬がほしくて400キロ北の町のブリーダーに電話をした。数日後、小包が届いた。
「普通の小包だったんだよ。生き物が入っているというのに!」と夫は今でも、弟と一緒に小包を開けたときのショックを話す。この「生体販売」はもうすこしで「死体販売」になるところだったそうだ。子犬は人の顔を見るなり、バタリと倒れ、意識不明になってしまったのだ。極度の脱水症状に陥っていたはずだ。箱には空気穴は開けてあったが、水は入れてなかったそうだ。弟は急遽、獣医のところに走り、子犬は一命をとりとめた。今ではこんな話をドイツ人にしても冗談としか思わないだろう。ドイツ人の意識が少しずつ変化していって、ドイツはスイスやオーストリアと並ぶ、動物愛護の先進国のひとつになった。
日本の意識もきっと少しずつ変わっていくのだろう。しかし、変わるまでに、何頭の犬が殺処分にならなければならないのだろう? 日本のテレビや雑誌で、子犬がどのように増やされ、売られ、捨てられ、殺されるのか、もっともっと報道してほしい。「せいたいはんばい」、「さつしょぶん」という言葉に対し、「何それ?」という反応が一般であるかぎり、前進は望めない。
私たちにできること。
今日、すぐにできること。
それは、まず、「話題にすること」であると思う。