動物孤児院 (20)あなたが犬に生まれ変わるとしたら

(20) あなたが犬に生まれ変わるとしたら

この冬も、暗いドイツの冬を逃れて、タイに数週間滞在しました。どこにいても自然と犬たちに目がいく私。タイはプーケット島。そして、1年ぶりに会う人たち、同じレストラン、同じホテル、同じ犬たち。首輪もないし、ちょっと毛が抜けた部分もあるし、「野良犬なんだなあ」と同情したのは4年前。今年も同じ犬が同じココナッツの木の下で昼寝していました。未だ謎なんですが、道の、ど真ん中で寝ている犬もいます。レンタカーのジープをとばしながら、「前方犬が寝ている。スピード落として!」と夫に叫ぶ私でした。
島には犬がたくさんいます。飼われているのか野良なのか、よくわかりませんが、犬も人も、そのあたりのことはどうでもいいような気がします。要するに、食べ物に適当にありつけて、昼寝できて、人間にいじめられなければ犬暮らしは安泰なのですからね。
何を虐待と呼ぶかは、国によって違うようだとこの頃気づいてきました。日本ではつないで飼うことが当然と思っている人が多いけど、ドイツ人はそれを「虐待!」と呼びます。ドイツ人が日本に観光に来ないことを幸いと思わなければならない。「犬は玄関のベル代用」と、短い鎖につないで飼うギリシャや、ポルトガル、スペインにドイツ人が観光に行くと、真っ青になります。観光気分は吹っ飛んで、犬の救出作業にかかるツーリストもいます。挙句の果てに犬を譲ってもらってドイツに連れ帰って里親を探ったり、住み着いて、犬猫の孤児院を開いたり。ドイツ人が日本の飼い犬事情を(特に地方の飼い犬事情を)ドイツで公表した暁には、私はドイツの街をお面をかぶって歩かないとならないかもしれません。
あなたが犬に生まれ変わるとしたら…? ハスキーになってアラスカの氷原を走ってみたい、警察犬になるぞ、いやチワワになって高給取りモデルになる…?
いいえ、種類のことを申しているのではありません。犬に生まれるのならどの国がいいかっていう質問です。
私は…ドイツがいいです。私は別にドイツを愛している親独家ではないのですけど、ドイツは信頼しているご主人様に捨てられる確率が最も低い国だと思うから。捨てられても、殺処分の恐怖を味わわなくてもいいから。考えてもごらんなさい。日本の殺処分の現状を。一日一日、ケージが死へと近まり、絶望の数日間を過ごす気分を。私はそのことを考えただけで、吐き気を感じます。人間の恐ろしさ、残酷さ、身勝手さに。日本だけには生まれ変わらないほうがいいです。野良犬の存在を何となく見て見ぬふりしているアジアの近隣諸国のほうが、ましであるような気がしますよ。
タイの島でのらりくらりと過ごすのも悪くないでしょう。山岳部では食されることもあるらしいけど、同じ殺されるとしたら、動物管理センターで絶望と死の恐怖の数日間過ごすよりいいと思いませんか。
4年前初めてプーケット島に行って、浜辺のレストランで写真をとりまくった私たち。今年も同じ犬たちに会えました。

(2004/02/19)
 

(小野千穂)

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