動物孤児院 (64)犬を救う台湾在住のドイツ人(台湾編その1)

犬を救う台湾在住のドイツ人 (台湾編その1)

 犬の食料買出しに付き合う

 パトリシアはスーパーマーケットの魚売り場に行くと、迷わず秋刀魚(サンマ)を袋に入れ始めた。ピカピカと光って新鮮そのもの。焼いて食べたらすごく美味しいだろう。10匹も入った袋はずっしり重い。
「なぜ秋刀魚なの?」
「値段を見てよ」
―――了解。一匹5元。邦貨にすれば15円ほど。
 次は肉売り場へ。背がすらりと高く、栗色の髪を後ろにまとめたこのドイツ人パトリシアと売り場の人たちは顔なじみのようだ。彼女は台湾に住んで20年、中国語を流暢に話す。売り場の男性は、彼女が現れるとすぐに奥のほうから、くず肉入りの特大ビニール袋を持ってきた。
「私、もともとスーパーマーケットって好きじゃないの」と言いながら、豚のレバー1キロと、青梗菜の大袋をカートに入れ、足早にレジに向かう。知らない人が見たら、この外国人はどんなレストランを経営しているのだろう、と思うかもしれない。
合計7百元だった(約2千円)。これがパトリシアの「子供たち」7頭の3、4日分食料である。火曜と金曜、こうして犬たちの食料を仕入れる。
「これだけは煮て与えるけど、ほかのは生のまま与えるのよ」と、パトリシアは豚のレバーを指差した。え? ということは、秋刀魚も青梗菜も生だということだ! 私はこれから会う犬たちが秋刀魚と青梗菜をバリバリと噛み砕くダイナミックな姿を想像して胸騒ぎがした……。
 

 幸せになった犬たち

 パトリシアの家は山の頂上にあった。最終駅で電車を降りて、亜熱帯の緑濃い植物に覆われた山道を運転すること十五分。台北が真下に見えて壮観だ。
途中、近所に住む台湾人親子と出くわした。その人たちも犬や猫を救うグループの仲間で、たった今拾ってきた犬を見せてくれた。盲目の老犬だった。「この子、本当におとなしくていい子よ」と言いながら。
 さて、覚悟はしていたが、ドアを開けると、たちまち私は犬たちの下敷きになった。「静かに!」「おすわり!」とパトリシアが犬たちにコマンドを与えても誰も言うことをきかない。犬たちは来客に興奮して、歓迎のキスをしなければ、と私を押し倒す。なにしろ、小型から60キロ以上もある超大型(ロシアのコーカサス・シープドッグ)までそろった犬が7頭も攻めてくれば立ってなどいられない! パトリシアはコマンドをあきらめたらしく、笑いながらバルコニーに出てタバコを吸い始めた。(助けて〜!)
 



超大型犬のコーカサス・シープドッグを台湾で繁殖する人がいるそうだ。「寒い国の、そしてこんなに大きな犬を増やして売る人がいるのよ」と、パトリシア。山に捨てられていた。骨と皮だけだった。毛もすべて抜け落ちていて、犬種さえわからなかった。立ち上がることもできないほど衰弱していたが、獣医師が鍼治療をすると3回で立てるようになった。パトリシアは鍼灸の威力に驚いたそうだ。

 違法になった罠

 パトリシアの犬たちは、動物保護グループに救われたラッキーな犬たちだ。山に捨てられ、餓死寸前で立ち上がることさえできなかった犬、畑の周辺に置かれた鉄の罠に足を挟まれて死を待つだけだった犬、悪徳ブリーダーに子犬を産ませるためだけに養われ、用がなくなって捨てられた犬…と、地獄を見た子ばかりである。
 鉄の罠は、イタリア人が足を挟まれた事件をメディアが大きく報道した結果、使用禁止になったのだが、未だに違法の罠があるそうだ。あるときは、犬たちとの散歩中に2頭が罠に足を挟まれ、慌てた友人までもが足を挟まれて大変だったという。結局、一本の大木を囲んで合計9個も仕掛けてあったそうだ。「そのときの傷よ」とパトリシアは犬たちの足を持ち上げて見せた。
台湾では動物保護に理解を示す人が多くなってきたそうだ。寄付金も多く集まり、中には仲介料の何パーセントかを必ず寄付してくれる不動産業者もいるそうだ。彼女は台湾の仲間たちと、「罠を仕掛けるのは違法」を特集した小冊子を作って配ったり、救助した犬の新しい飼い主探しもしている。
 

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