動物孤児院 (65)「地域犬と地域猫がいる町」(台湾編その2)

「地域犬と地域猫がいる町」(台湾編その2) 

コミュニティードッグ(地域犬)

 コンビニの前は井戸端会議所(?)のようで、テーブルと椅子が置いてあった。数人のお年寄りたちがそこでおしゃべりしている。
気になるのは店の前に寝そべっている3頭の中型犬だ。そういえば、入ってくる車をチェックするゲートのところにも白い犬が寝ていた。あれ? ここでは放し飼いOK?
「あの犬たちは、コミュニティードッグなの。予防注射も避妊去勢もしてあって登録済みだから、保健所から捕まえに来ないのよ」
 う〜ん、コミュニティードッグ!地域犬!(いいなあ、ここの人たちって、犬に寛大みたい……。私も住みたいな、ここに。)
そして、犬猫保護に関心がある人たちが目を光らせているので、ふだん見かけない犬が現れるとすぐに情報が行き交い、保護する。
 ドイツ人パトリシアはこのコミュニティー「花園新城」が気に入っている。台北の中心地から電車と車で合計40分もあれば到着する便利さなのに、排気ガスの匂いがする台北市内とは空気の質がまるで違う別世界である。
「20代の頃は台北市内でもよかったけど、もうだめ」と言う、現在40代のパトリシアだが、犬7頭も飼っていれば、それも超活発なコーギーから、熊サイズのコーカサス犬までいるとなれば、台北市内でマンションを見つけるのは大変だろう。 

台湾原産犬「土狗」

 散歩は3頭ずつ分けて行く。だから日に総計6回行くことになる。
マンションの玄関で出くわした人たちとはみな顔見知りで、パトリシアは笑顔で一言二言、会話を交わした。おばあさんがコーカサス犬の頭を「よしよし」と撫でていった。私の目には、このマンションに住んでいる人たちは犬の多頭飼いに寛大であるように映った。
「7頭も飼っているからね。迷惑がられないように、けっこう気を遣っているのよ」と彼女はウインクした。

アパートの玄関を出た地点から緑が溢れていて、散歩道に入ればバナナや椰子の木や広葉樹が繁るトンネルで、ジャングルの中にいる気分だ。リードから放しても遠くに行かない犬たちだけ、放して自由に走り回らせる。
 彼女が絶対にリードから放さない子もいる。台湾原産種で、「台湾土狗」と呼ばれる猟犬種である。山で罠に脚をはさまれて動けず餓死寸前だったそうだ。
「この子は長いこと家庭内野良だったのよ。最近やっと人間を信用できるようになったの」というパトリシアの言葉を裏付けるように、他の犬たちと違って、まだ、「びくびく、おどおど」が取れていない。私が急に動くとすばやく距離を置く。しかし、またそっと寄ってくるところが何とも愛おしい。


台湾原産種の「台湾土狗」。
ドイツにジャーマンシェパード系の雑種が多いように、日本に柴犬系の雑種が多いように、台湾では台湾土狗系が多い。

ついでに地域猫の話を少し

 このコミュニティーには地域猫もいる。餌と水は電柱や木に固定されたブリキ箱の中に置くようになっている。犬に荒らされないよう、地面から1メートル50センチほど上にある空中食堂である。住民は猫食堂と呼んでいる。その箱が作られた当時は、ひとつひとつにナントカ飯店と名前がついていたそうだが、文字と絵はもう見えなくなっている(猫たちには飯店の名前など、どうでもいいだろう)。
中はきれいに掃除され、新しい水と餌箱が入っていた。中で寝る猫もいるそうだ。夜中にこっそり餌を与えに行く私の日本の友人たちが聞いたら、「羨ましい!」と言うに違いない。

 

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