動物孤児院 (93)老犬だからこそ引き取りたい

老犬だからこそ引き取りたい


動物保護施設で余生を過ごす老犬

日曜日の夕方、人気のテレビ番組「ファミリー募集」で最後に紹介されるのは「緊急募集中」の犬である。多くは10歳以上の高齢犬で、しかもジャーマン・シェパードや、セントバーナードのような大型犬だ。ドイツでは大型犬を公共団地でも飼っている人がいるくらいポピュラーである。しかし、大型犬が年を取り、飼い主が何らかの事情で手放さなければならなくなったとき、新しいファミリーを探すのは実に大変だ。
どの犬も突然、施設(ティアハイム)の小屋で暮らすことになればショックでガックリ来るだろうが、特に高齢犬の場合は動物保護施設(ティアハイム)の環境に慣れることができなくて餌を食べなくなり、生きる気力を失ったようになってしまうそうだ。
高齢の犬が動物保護施設に連れて来られる理由は大体において飼い主が入院することになったとか、老人ホームに入ることになったというケースが多い。ときには捨てられたらしい放浪犬もいる。(野良犬の存在がありえないドイツでは放浪している犬はすぐに保護される。)
ところで、犬も一緒に入居できる老人ホームも増えている。私の住む村に最近、寝たきりで認知症の人たち専門のホームができたが、夕方、散歩で通りかかると中から犬の吠え声が聞こえてくる日がある。今日も聞こえてきた。前にも書いたが、義父の入っていた老人ホームには大型のプードルが飼い主の老婦人と一緒に暮らしていた。職員が出勤で連れてくる猟犬種もいたし、ミックス小型犬も住んでいた。(どこからか猫もやってきた。)犬連れの訪問も自由にできたので、私は日中預かっている犬を連れて行ったが、お年寄りの人たちがケーキやクッキーをどんどん与えるのでコーヒータイムをはずして連れて行くことにしていた。

老犬ホームが必要という声もある

動物保護施設では高齢犬で引き取り手を探すのが困難だと明白であっても、健康であるかぎり、高齢だからという理由で安楽死をさせることはない。安楽死は犬が不治の病や重度の交通事故などでこれ以上生かせておくことは苦痛を増すだけで人道的でない、と判断されたときだけ行われる。
ただ、好んで老犬を引き取ろうとする人は少数派で、ふだんの生活で子犬を見る機会がほとんどないと言っていいこの国では、東欧からの密輸の子犬たちが保護されたとの情報が入るものなら、最寄りの施設は電話が鳴り止まないほどだ。そして若い犬はすぐに新しいファミリーが見つかるので、老犬かピットブルのような闘犬種が残されてしまう。
町の保護施設を見学したときも、13歳のジャーマン・シェパードがいた。小屋に掛けられた説明書には「食費と獣医にかかる費用は○○氏がスポンサーとなって出している」とあった。このように、引き取られる可能性の少ない犬のスポンサーになり、「その犬にかかる費用を払う」というシステムもある。
大型で高齢の犬でしかも持病があれば引き取られる確率はずっと少なくなる。そこで、老犬ホームが必要だという声も上がっている。実際、病気や年を取っているという理由で引き取られる可能性のない犬ばかりを何頭も引き取る個人もいる。


高齢犬だけを斡旋する保護施設

5歳以上の犬を斡旋する団体もあって、そこではドイツ各地で保護されている高齢犬をインターネットやローカル新聞などで紹介している。そして、3割ほどが保護施設ではなく、新しいファミリーが見つかるまで「預かり主」の家庭で暮らす。そのような犬は本当にラッキーだ。どんなに施設の建物が立派で床暖房が入っていて食べ物も十分にもらえ、毎日ボランティアが散歩に連れ出してくれるとしても、愛情と信頼のある家庭の中で過ごすのとは違うのだ。家庭に預けられているうちに社交性もつき、学習するチャンスも多い。

老犬を飼うメリットもある。それは・・・
・おとなしく、精神的に安定している犬が多い。
・世慣れしている。バスや電車に乗ることにも慣れており、社会性がついている犬が多い。仕事先にも連れて行っても問題のない可能性が高い。(ドイツの職場では犬の存在を認めるところが少なくない。)
・基本のコマンドがわかる犬が多い。
・トイレのしつけができている犬が多い。
・スペインやギリシャの田舎で、ずっと短い鎖でつながれていた犬や、檻に閉じ込められた状態から救出されて連れて来られた犬が、一旦愛情をかけてくれる飼い主に巡り合うと、両者の間に深い絆が築かれる。
・犬を初めて飼う人にとって老犬は扱いやすいことが多い。
・犬は年を取っても遊ぶことに喜びを見出すものだ。それに新しいことを学ぼうとする意欲が失せるわけではない。

近くの果樹園を歩いていて話し始めた老人は、自分は年寄りなので若い犬を飼って最後を看取る自信はないが高齢の犬ならば何とかなる、と15歳の黒いプードルを保護施設から引き取った。ベンチに腰掛けて通りかかった人をつかまえてはおしゃべりする新しいご主人様を、そのプードルは救世主様を崇めるかのような敬愛のまなざしで見上げる。「この子は、年は取っているが実はものすごく賢いんだ」という自慢話を私は何度聞かされたことだろう。

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