動物孤児院 (26)実験用ビーグル
(26) 実験用ビーグル
ある雑誌に犬の記事を書いている私は、実験用に使われるビーグル犬たちのことを調べているうちにすっかり心が重くなってしまった。私たちがゼッタイに知らない裏の世界だろう。製薬会社、化粧品会社の実験室で行われていることは。
彼らは、屋内のコンクリートの部屋に入れられている。ほとんどは各種の注射をされて、すぐにか、ある一定の期間を経て、解剖される。そのために、遺伝的に特に問題のないビーグルが繁殖されるようになったのだそうだ。
彼らの多くは、外の世界を全く知らないままに、この世を去るのだ。想像するだけで、苦しくなる。
しかし、わずかな光が見え始めた。12年ほど前から、ドイツ人の夫婦が実験に使われたビーグルを引き取る活動をしているのである。これまでに1350頭のビーグルを引き取って、ファミリーを見つけたというのだから、そのエネルギーはすごい。
この人たちは、現在7つの製薬会社と話をつけていて、実験に使わなくなったビーグルを引き取る。平均年齢は4歳から7歳。登録していた希望者に連絡がいく。即決してもらわず、考える時間として一晩おく。翌日も決心が変わっていなければ、ようやく「お見合い」が実現する。
新しいファミリーを選ぶ時は、本当に慎重だ。なにしろ、日の当たらないコンクリートの部屋しか知らない犬なのだ。生まれてから、散歩したこともないし、地面を歩いたこともないし、池も川も見たことがない。子供と遊んだこともないし、車の存在も、ほかの動物の匂いも、人間の愛も知らず、名前さえないのだ。知っているのは、コンクリートの部屋と、痛い注射と、恐怖だけ。
新しく引き取りたいという人たちに聞く。「覚悟はできていますね」と。
生まれて初めて外に連れ出されたビーグルたちは、初めて車というものに乗せられて、すっかりおじけづき、はじめ恐怖で震えているそうだ。そして、本来くいしんぼうのはずのビーグルなのに、何日もえさを食べないことがよくあるらしい。普通の犬が、大喜びで食べるはずの「犬用おやつ」にも、見向きもしない。
しかし、少しずつ外の世界のあらゆるものに好奇心を抱くようになり、3ヶ月もたてば、すっかり本来のビーグル犬になる。
だが、変わらないこともある。
それは、いつまでたっても、子犬の性格を持ちつづけることだ。それと、命を救ってくれた飼い主への愛と感謝に満ちたまなざし。それも変わらない。実験に使われたビーグル犬を引き取った人たちはみんな、これと同じ感想を述べている。
http://www.versuchstiere.de/ これはそのサイト。(ドイツ語)
これまでに引き取られていったラッキーなビーグルたちの写真とストーリーがある。里親になりたい人は登録できる。
(2004/12/10)
(小野千穂)