動物孤児院 (70)つながれた犬、檻の犬、屋根犬、放し飼いの犬
動物孤児院 (70)つながれた犬、檻の犬、屋根犬、放し飼いの犬
カナリー諸島の犬たち
休暇で2週間を過ごした西アフリカ沖のカナリー諸島(スペイン)のラ・パルマ島でも、たくさんの犬を見た。普通だったら、たくさん犬を見て嬉しいところだが、島では嬉しさよりも悲しさとやるせなさのほうが大で、このように、動物保護意識が低い土地に行くと絶対に心から休暇を楽しむことができなくなってしまい、「どうしたら改善できるか」ばっかり考えてしまう。深夜も、狭い檻に閉じ込められた犬やつながれた犬たちが何かに反応して一斉に吠え始めるから、そのたびに目が覚めて、寝ていても「どうしたら改善できるか……」と考え始める。
カナリー諸島の犬は圧倒的にポテンゴ系である。ポテンゴは日本では聞きなれない犬種かもしれないが、ドイツで、新しい飼い主を募集するテレビ番組を見ているとしょっちゅう耳にする犬種である。スペイン本土やカナリー諸島からドイツに送られてくるポテンゴ系がかなりいるのだ。グレイハウンドを3まわり小さくしたようなかたちで、顔も足も長く、鼻が肌色で、短毛。
ポテンゴ系はウサギ猟の猟犬だそうで、島のハンターはポテンゴを引き連れてウサギ狩に行く。そして、用がすんだら犬はそのまま山に置き去りにされ、野犬となってしまうケースが少なくないらしい。カナリー諸島で野犬化した犬を救うドイツ人保護家の活動をテレビで見たことがある。
夫が、「ここでは犬を散歩させている人を見かけないね」と言った。確かに、言われてみれば、犬と歩いている人は一度見かけただけで、それもリードなしだった。散歩というより、飼い主が畑に用があって、放し飼いの犬が彼のあとについて歩いていただけなのかもしれない。私たちが滞在した村は田舎で、人も犬も顔なじみだろうし、放し飼いでも人や他の犬を襲うような危険な犬はいないのだろう。
放し飼いにされている犬は見知らぬ人間(我々)が通ると、吠えて番犬の役目をしっかり果たしているが、噛み付くわけではないらしい。犬がけたたましく吠えた後、たいていは家から、家人が出てきて「オラー!」と挨拶をして、「犬はどうもしないよ」みたいなことを言う。
屋根犬(普通、小型犬)も結構多い。ブーゲンビリアが縁取る屋根から通行人にガンガン吠え立てる。興奮のあまり落ちたりしないのかなあ、とちょっと心配になる。
「犬を飼う」ために満たさねばならない条件が法律化されずに野放し状態になると、こうなるのだな、という例は日常茶飯事。つながれた犬を見ると胸が痛む。チェーンの長さは多くの場合1メートルぐらいだ。周囲の汚れから察すると、つながれたままなのだ。
「夜間だけ放す」人もいるだろう。(50年前の日本のように。私が子供のころ、日中はつないでおいて、夜間は放すという飼い方はむしろ普通だった。)10数頭も短いチェーンでつないで飼っている庭もあった。庭に柵を作って、庭で放し飼いにすればいいのに。
10頭以上のポテンゴをぎゅう詰めにした檻もあった。しかもその中の数頭は檻の中で更にチェーンでつながれていた。理解に苦しむ。
芝桜やゼラニウムがまぶしいほど咲いているのに、大西洋を臨む雄大な景色や花の美しさとこの犬たちのあわれさは、何て対照的なのだろう。
週末だけ立つ屋内の朝市に野菜を買いに行ったら、メッセージボードに犬2頭の写真入りのドイツ語張り紙が目に留まった。(犬関係の張り紙にはサッと目が行く。その市場は在住ドイツ人たちの情報交換場となっているらしい)。
「緊急募集。犬2頭、ドイツに連れて行けるかた探しています」とある。私たちは前から「犬の運び屋ボランティア」をしたいと思っていたから、すぐに電話をした。
しかし、相手方の都合で、実現しなかった。毎日携帯電話をONにして連絡を待っていたけれど返事がなく、航空会社には4日前までに犬連れかどうか連絡しないとならないことを知っていたので、ギリギリの日に再度電話をしたら、結局、人手が足りなくて航空会社にも連絡していないということで、計画はおじゃんになった。せっかくのチャンスだったのに残念である。あの日ドイツに行きそこなった犬たち、どうしているだろうか。