動物孤児院 (71)「ビンゴ」は殺処分にならなかった

「ビンゴ」は殺処分にならなかった

   すべて飼い主の責任

 これは今年の5月にドイツのコットブスという町で起きた事件である。
ハスキーのミックス犬が生後8週間の赤ちゃんを噛み殺したという、数行の小さな記事を新聞で見つけた。両親が自宅の庭で、ほんのちょっと目を離した隙の出来事。書かれていたのはそれ程度で、本当に短い記事だったが、最後の行を読んだとき、私は心底驚いた。日本では絶対にありえない結末……「犬は動物ホームに送られた」とあったのだ。
 この事件についてもっと知りたいと思い、インターネットで検索すると、スキャンダルだけを扱うタブロイド誌だけが写真入りでこの事件を報道していた。題からして、「殺人ハスキーに10人の引き取り候補者が!」とセンセーショナルだ。タブロイドとはいっても、事件の背景は少しわかった。

両親がバーベキューしている最中、赤ちゃんからちょっと目を離した隙に飼い犬であるハスキーとジャーマンシェパードのミックス「ビンゴ」が乳母車の赤ちゃんを襲った。
夫婦は他にも2頭(ゴールデンレトリバー)飼っている。
夫婦が「ビンゴ」を動物ホームに送った。動物ホームでの餌代は夫婦が支払う。
「ビンゴ」は、動物ホームの25平方メートルの囲いの中に隔離された。「性格テスト」に合格して、凶暴な犬ではないことが証明された。
夫婦は赤子を放任した責任を問われ、取り調べを受けた。

そして、犬には10人の引き取り希望者が現れ、現在は、厳正に選ばれた新しい飼い主のもとで暮らしている。(ただし、新しい飼い主は特別の資格を持っている人に限られる。たとえば犬の行動療法の専門家など。)

ドイツでは、噛み付き事件を起こした犬が自動的に殺処分になるわけではない。「なぜその犬が人を襲ったのか、なぜ人を襲う犬になったのか」という部分を徹底的に調査するのだ。「犬の問題行動=飼い主の責任」という観点に立っている。

 
   そのような犬にしたのは誰?

 そして、私の周辺(日本での出来事)で起きた事件。
去年の夏、帰国したとき、友人の田舎の家に泊まりに行った。散歩していると、近所の大邸宅の庭園内を走るロットワイラーが見えた。「あと1頭、秋田犬がいるのよ」と犬を愛してやまない友人が言ったが、その話はそれまでだった。私はそのロットワイラーを見たとき、「恐そうな犬だなあ」と思ったことをはっきり覚えている。(ドイツでは州によって危険犬種と指定されている犬種で、普通には飼えない)。
実は2ヵ月後、その犬たちがお手伝いさんのお孫さんを噛み殺したのだ。インターネットのニュースを読んだとき、場所を見てすぐに「あの家!」とわかった。

 私はショックを受けたが、もっとショックを受けたのは日本の友人である。彼女は「悔しい」と言って泣いた。
実は、彼女自身の犬が、壊れた塀から出てきたその犬たちにいきなり襲われことがあったのだ。そのとき、彼女は「止め!」と冷静に声を出した。すると2頭の犬たちは言うことを聞いてくれたのだ。邸宅の飼い主に話を聞くと「しつけ」はしていないということだったが、確かに人の声が聞こえる犬たちで、しつけや訓練を通してもっとコミュニケーションをとればストレスも解消されていたはずだと彼女は言う。

それから彼女は邸宅に何度か足を運び、犬の責任ではないこと、飼育環境や管理責任の話、きちんとした訓練をする必要があることを飼い主に話した。
「私がもっとしつこく頼むべきだった。飼い主が自分の犬のことをもっとよく知り、管理責任を全うしていたならお手伝いさんのお孫さんも犬たちも殺されなくてすんだかもしれないのに。そう思うと悔しくて」と泣いた。

新聞に掲載された犬たちの写真は、極度の興奮状態のせいで涎を垂らしていたので、新聞記事には恰好の「獰猛な犬」のイメージだっただろう。
犬の飼い主は責任を問われることもなく、犬たちはもちろんすぐに殺処分され、事件は終結した。



ドイツでは、犬が起こした事件は*飼い主の責任*である。「犬が人やほかの犬を襲うようになるのは、飼い主が間違った飼い方をしたせい」と見なされる。

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