動物孤児院 (73)老人ホームを犬たちが駆け回る
2010年9月11日 [小野千穂のドッグエッセイ]
老人ホームを犬たちが駆け回る
老人ホーム訪問犬
今年の春に義父が老人ホームに入ったので、ちょくちょく面会に行っている。犬のティミーも、もちろん(!)一緒である。連れて行かないと、「あれ、犬はどうしたの?」とみんなから聞かれるほど、ティミーはホームの人気者になった。 コーヒータイムだと、ホームの人たちがケーキをティミーに与えるのでちょっと困るのだが(ダイエット中)、双方ともおおいに楽しんでいるようだから、大目に見ることにした。それまで黙ってケーキを食べていた認知症のお年寄りたちが、ティミーを見るなりニコニコ顔になって、自分のケーキをひとつまみくれるのだ。昔飼っていた犬の話を始める人もいる。ティミーは誰にでも尻尾を振って寄っていくし、どうやら生まれつきの「ヒーリング犬」らしい。 |
老人ホーム通勤犬 ホームにも、職員の女性が毎日連れてくるアイリッシュセッターのミックス犬「グーフィー」がいる。ホームではセラピストとして実際に活躍しているエキスパート犬で、認知症の人たちのグループで一緒に遊ぶクラスを受け持っている。 カーニバルで職員の人たちがインディアンの格好をしたときはグーフィーも色とりどりにお化粧をされて、「インディアンの馬」の扮装をした。 飼い主である職員の部屋に昼寝用の寝床、廊下にも寝床のバスケットがあって、カエルやくまのヌイグルミがいくつも転がっている。そこだけ幼稚園みたいだ。ティミーはその玩具がほしくてたまらず、隙をうかがっている。 |
老人ホーム「入所犬」
入所している女性のお年寄りと一緒に「入所」している犬もいる。ココア色の大型プードルである。このプードルも、飼い主と同じくらい高齢なので何時間も歩き回る必要はないらしい。この老人ホームは中央駅の近くで街の中心地から近いが、高級住宅街の中にあって静かで、樹齢百年の大木が美しい並木道は歩道が広く散歩にはちょうどいい。飼い主の女性は歩行器を押して、犬をリードなしで散歩させる。
初めてこの老人ホームを見学に行ったとき、いきなり2頭の大型犬(グーフィーとプードル)が現れたのには驚いた。案内してくれていた職員が、「犬、だいじょうぶですか?」と私たちに尋ねた。去年亡くなった義母が一緒だったら……。義母はどんな小さな、おとなしい犬でも犬であるかぎり恐くて触ることができない人だったので、「この老人ホームは犬が廊下を走り回っているから絶対に入らない!」と言ったことだろう。ドイツで犬が苦手だと老人ホーム選びも大変だ。いい老人ホームほど犬や猫に寛大だから。
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