犬通プログラム第4回(最終)(DINGOセミナー)
第4回、「クリッカー(犬に効率的に行動を教える時に有効なツール)」
正直言いますと、この回だけは受講するのをやめようかとも思っていました。
理由は「クリッカー」というツールがどうしても好きになれなかったからです。
が、実に興味深い話でした。まさに目から鱗です。
クリッカーというのは、手のひらに収まるほどの小さな道具でカチッという音が出るようになっています。
このカチッという音を使ってトレーニングするわけですが、トレーニングのスタートはクリッカーをカチッと鳴らすとご褒美のおやつが出てくる、ひたすらこれを繰り返して犬に「カチッ=おやつ」を結びつけさせます。
まさに、パブロフの犬です。
音とご褒美が結びついた後、犬が何か行動をする(飼い主の望む方向への行動)→クリッカーを鳴らす→ご褒美が出ると進んでいきます。
具体的に言うと、例えば3m離れたところにあるコーンをぐるっと回って帰ってくるという動きを覚えさせようとしたとき、
・まずはコーンを見ただけでクリッカーを鳴らしてご褒美。
・次に、コーンに少しでも近寄ったらクリッカーを鳴らしてご褒美。
・コーンのすぐ近くまで行けたらクリッカーを鳴らしてご褒美。
・コーンの向こう側へ行けたらクリッカーを鳴らしてご褒美。
・コーンを回れたらクリッカーを鳴らしてご褒美。
・コーンを回って飼い主の所まで帰ってこられたらクリッカーを鳴らしてご褒美。
・そして、最期に“まわれ”などの言葉をその動きに重ねて完成。
と一連の行動を完成させていきます。
このとき、飼い主はなんのヒントも出しません。
すべてを犬に考えさせるのが重要です。
飼い主としては、ひたすらに犬の動きを見てクリッカーを鳴らしてご褒美を与える。
一切の声もかけません。ちょっと味気ないというか機械的とも見えるトレーニング方法です。
そんなイメージだったので、私としてはクリッカートレーニングは何度か試してみたものの、結局どうも好きになれずじまいでした。
ですが、話を聞くとクリッカートレーニングにはすばらしいところがたくさんあるようです。
一言で言えば、クリッカーとは「犬の考える力を引き出す道具」ということ。
・クリッカートレーニングの基本は一切のヒントや合図などを出さないこと。
その理由が「犬の自発的な行動を引き出し、考える力を養うため。」
普段一般的に私たちがよく行うトレーニングは「プロンプト」というものを利用することが多いようです。
「プロンプト」とは
・誘導
・ダーゲットの出現あるいは消滅
・環境や状況の変化
・身体的刺激
・立ち位置
・目線
・コマンド
等のことで、確かに私たちはこれらのものをふんだんに使ってトレーニングすることが多いと思います。
例えば、前述の3m離れたところにあるコーンをぐるっと回って帰ってくるという動きを教えるなら、
・最初はおやつで「誘導」しながらコーンをまわるという行動を教え
・そこに“まわれ”というような「コマンド」をかぶせていき
・「目線」や「指差し」などでヒントを与え
・できるようになったら徐々に最初のスタート地点の「立ち位置」をコーンから離して
・最期には3m先のコーンを“まわれ”のコマンドだけでぐるっと回って帰ってくるようにすると。
こう見れば同じ動きを教えるにしても、まったく教え方が異なるのがわかります。
クリッカートレーニングは「どうしたらご褒美がもらえるのだろう?」と犬が自ら頭を使って正解を探し出す、ゲームのようなトレーニングのようです。
とはいっても、実際やってみるとこの犬が考えている間、なにもヒントを出さずじっと待つ、というのが実に難しい。
特にうちの子のように今までヒント(あるいは正解)をあふれるほどに貰っていた犬の場合、わからなくなるとすぐに飼い主の目を見つめて「どうすればいいの?」と聞いてくるのですから。
今回このクリッカートレーニングを講師の先生の犬に登場してもらいデモを見せてもらったのですが、それはみごとに解り易いものでした。
このときの課題は「壁に立てかけてあるほうきを倒す」というものでした。(講師の先生の犬は大型犬ですので、危険はありません。念のため。)
クリッカートレーニングに慣れているこの子は、クリッカーを見ただけで「今日はなに?なに?」と正解を見つけ出しに行きます。
壁のほうきにちょっと近寄ったところで、クリッカーが鳴るともう「今日はこのほうきが怪しいな。」と目星をつけたようで、鼻や前足ではうきに対してアクションを仕掛けます。
その都度クリッカーが鳴ってご褒美。最期の「ほうきを倒す」まで数分もかかりませんでした。
実に見事です。
こうなると、クリッカートレーニングさえマスターすれば、どんなことでも簡単に教えられるような気さえしてくるのですが、ところがクリッカートレーニングには得意分野と苦手分野があるそうです。
基本的にクリッカートレーニングは「動きを教える」トレーニングを得意とするとのこと。
つまり、お座りという後ろの足を曲げてお尻を地面につけるという「動き」を教えるのは得意だけれども「お座りの姿勢を保っている」という状態の保持を教えるのは苦手だということ。
なぜならクリッカートレーニングは犬にとっては何かアクションを起こさないと、ご褒美は出ないからです。
お座りをしてご褒美がもらえた。なら次はどう動けばいいのだろう、もう一回ご褒美を貰うためにはもう一度立って座りなおせばいいのかな、となるのだそうです。
そして、考えてみれば私たちがが犬に望むことの中には意外に「状態の保持」が多いのに気がつきます。
伏せと言えば一般的には「伏せたままでいること。」を望みますし、お座りも待てももちろんそう。
脚即歩行も飼い主の足元についたままでいる状態の保持のことです。
おいでだって、飼い主の目の前まで来て止まっていなくては意味がありません。一瞬だけ手元まで来て「呼ばれたから来たよ。じゃあまた行ってくるね。」じゃ困ります。
もちろん、この「状態の保持」をクリッカーで教える方法もあるということで、お座りをしたらすぐにクリッカーではなくてクリッカーを鳴らすタイミングを少しずつ遅らせていくそうですが、犬が動く一瞬前をねらってクリッカーを鳴らすというのは聞いているだけてとても難しそうです。
とは言え、動きを教えるにはゲーム感覚で遊びのように取り組めば意外に楽しそうなクリッカートレーニング。
セミナーが終わるころには、前に使ったクリッカーはどこにしまったっけ?と考えていました。
「犬通セミナー」全4回のプログラムを全て受講して来ました。
D.I.N.G.O.側としては、これから犬を飼う人にぜひ受講してもらいたいセミナーとも位置づけているようですが、私としては犬と暮らしている人に受講してもらいたいセミナーと感じました。
犬と暮らしているからこそ、わいてくる疑問の答えもたくさんあって、あれはこういうことだったのか!とうなずけることがいっぱいです。
夏の暑い時期にかなり頭を使いましたが、とても実になるセミナーでした。
(2010/9/20)(東京都 Y.Mさん)