動物孤児院 (74)スペインからドイツに送られてくる犬たち
スペインからドイツに送られてくる犬たち
「ポデンコ」は理想のファミリー・ドッグ
前回紹介した犬救出活動家のH夫人は、某国のレストランで食用になる寸前だった犬たちをフランクフルト空港でピックアップしてスイスの山奥の保護施設に送り届けるほかにも、ポデンコという犬種(第70話で紹介)の保護もしている。
毎月スペインのバレンシア地方にある、ドイツ人経営の保護施設から連れて来られるポデンコ数頭を、新しい飼い主が見つかるまで世話をするフォスター・ファミリーのもとに送るのだ。
スペインの犬事情を話し始めるとブレーキがきかなくなるH夫人。ショッキングな話ばかりなので、淹れてくれたせっかくのカプチーノも味がよくわからなくなる。どのような悪条件のもとで飼育されているか、猟犬として使った「使い捨てポテンゴ」がいかに残酷な方法で殺処分されているか、コーヒーどころか食欲まで失せてしまいそうだ。
H夫人が見せる世にも恐ろしい写真の数々から目をそむけてはならないことはわかっているが、「しばらくはこの光景にうなされることだろう」と心の中でつぶやく。バレンシアの保護グループが作成しているホームページは生々しい現場の写真が第1頁に出てくる。「ホームページを見るときは、強烈な写真があるから気をつけてね。食欲なくなるかもよ」とH夫人から言われたのだが、そのときは後の祭りで、すでに見た後だった。
「ポデンコ」はおとなしく温和なので、理想の家庭犬になるそうだ。H夫人の家には4頭もいるが、いるのがわからないくらい静かだ。私がコーヒーカップを手に座っていると、その中の1頭がそっと頭を私の膝に乗せてきた。クリーム色の頭にピンクの鼻。鳶色の目。うーん、かわいい!
日本では珍しい犬種とされているが、スペインの田舎に行けば本当にどこででも飼われている。ただし、まるで鶏を飼うように、という意味だ。大部分は畑の隅の掘っ立て小屋か、ウサギ小屋のような粗末な檻に、5、6頭かそれ以上の数が詰め込まれている。そこでは、犬は家族の一員でも親友でもなく、男たちの狩りの「道具」でしかないのだ。
その悲惨な光景を目の当たりにするたびに、スペイン人の親切さとのギャップに苦しむ私だ。ドイツ人は一般に不親切で無愛想で、決して愛想のいい国民ではないが、動物に対してはどうだろう。ドイツは殺処分がない、ペットショップもない、数少ない国のひとつだ。スペイン人は親切で、にこやかで、目が合うと挨拶するし、長く滞在しても居心地は非常にいい。だが、地方での犬の扱いを見るたびに私はガックリくる。
H夫人が関係しているバレンシアの保護施設には、殺されるはずだったポデンコが数百頭いて、ドイツに送られる日を順番待ちしている。
ハンティングのために「増やして、使って、殺す」悪循環を日常の当然として見なしている社会があるかぎり、ポデンコの受難は続いていくだろう。もっとも、日本でも同じことが続いている。
日本の犬たちも「増やされ、売られ、殺されて」いるのだ……。蛇口を止めないかぎり、殺処分はいつまでたってもゼロにはならないだろう。