フォスターファミリー体験記 – Dundee(1)

放浪犬Dundeeのリトレーニング(1)

アメリカは日本の国土の24倍、人口は2.4倍、広くて人種も様々な国ですから、動物愛護が進んでいる?と言っても全米が足並みを揃えて進んでいるわけではありません。特に州によってその状況は異なります。オレゴン州は全米で、最も動物愛護運動が進んでいる州ですが、オレゴン州の中でも格差があります。オレゴン東部は農業牧畜業の多い田舎で、羊や牛を追う牧羊犬が多くいます。その飼い方も家庭犬として育てられている犬は室内が多いですが、牧羊犬の大部分が外飼いです。まあ、牛舎や羊小屋に寝、自然に近い状態で仕事をしているのでしょう。だからといって虐待を受けているわけはありませんが、去勢避妊やマイクロチップなどもまだまだ十分に普及していません。

そんな環境の下、Dundeeという雄犬は捨てられたか、迷子になったか、かなり放浪している期間が長かったと思われます。ある日、アニマルポリスによって保護され、里親探しをする団体に移送され、そしてポートランドのユキさんの元にやって来ました。

牧羊犬をリトレーニングすることの難しさはおおよそ想像できますが、それ以上に放浪記間が長かった事での難しさがあったようです。

ユキさんのDundeeのリトレーニングの経過が日記に記されています。もしもDundeeのような放浪期間が長い、また人を信じられない犬が保護された時の参考になればと思い、掲載させていただきます。

この日記はユキさんの苦労はもちろんですが、Dundeeの生い立ちが想像できます。
ユキさんはDundeeのリトレーニングをしたことで一層、保護犬への気持ちが高まったようです。既にご自宅には3頭の犬達がいますが、1頭でも多くの保護犬を温かい家庭に届けようと、熱い思いが伝わってきます。(2011/1/3)(LIVING WITH DOGS)


Dundee(1)

Dundeeが私のもとにやってきたのは9月2日でした。オレゴン州東部の田舎から5時間かけて連れて来られたとてもハンサムなオゥシーです。
私が3年近く前から犬猫のフォスターをしている組織Oregon Friends of Shelter Animalsに彼を引き取りに行き、車で家まで連れてきました。ところが車のハッチバックを開けた途端、Dundeeは車から飛び出し脱走を企てたのです!ちょうどそのとき家の中から見ていたうちの3匹が窓越しに吠え立てたので、Dundee は一瞬足を止め、私は彼のリードを踏ん付けて捕まえることができたのは幸いでした。
裏庭でHolly、Noah、Daisyの順に一匹ずつ対面させるとDundeeは短い尻尾を振って上手に挨拶できました。そして庭の端から端まで探索してマーキングです。早速トリートをあげようとしましたが、一旦リードを放してしまったDundeeは警戒心が強く手の届くところまで寄ってきません。でもこの時点では取り立てて心配はせず、夕食のころまでには懐いてくれるだろうと高をくくっていました。ところが食事のために家の中に入って来ないばかりか、デッキに置いた食器にも私が外にいる間は近づいてこないのです。 いままでフォスターした犬達の中でこんなに人間を恐れている犬はいませんでした。そして、こののち彼が二週間以上も外で暮らすことになるなどとは、そのときの私は想像すらしていませんでした。

翌日から、Dundeeの捕獲作戦?が始まりました。いくら9月はじめのよい気候とは言え、このまま外飼いにしておくわけにはいきません。きっと散歩の味をしめたら私に慣れてくれるだろうと思い、うちの3匹と一緒にトリートを投げてやるとだんだんに近づいてきたので、首輪をつかもうとしたところ、Dundeeは私の手に歯を当てました。傷つけるつもりではなく、これは彼の「捕まえられるのは嫌だ」という表現でした。
それでも私は諦めずに、今度は洗濯室のドアを開けたまま、うちの3匹にトリートをあげながら、Dundeeがトリートを食べに中に入ってくるのを辛抱強く待ちました。まずは片足を上がりかまちに乗せ、また庭に戻り、今度は両足、また一旦去って、という繰り返しでしたが、とうとう4つ足を皆部屋の中に入れたところで、私はカンフーさながら足でドアを蹴って閉めました!ついにDundeeは洗濯室の中に捕獲されたわけです。一旦捕まってしまうとDundeeはあまり抵抗しませんでした。

彼の身体をチェックしてみると、両耳の後ろに大きな瘡蓋でできた毛玉が張り付いています。また左後ろ足指の間が化膿しているようでしたがさすがにそれは触ることができませんでした。私はリードをつけて、DundeeをHollyと一緒に散歩に連れ出しました。彼はオドオドしながらもついてきて散歩を楽しんでいるように見えたので、これでもう大丈夫と思いまた庭に放すと、それっきりまた捕まえることができなくなりました。そればかりか、Dundeeは前にもまして私を警戒するようになってしまいました。
結局その後もDundeeを捕まえようと首輪に手をかけたときに2回噛まれました。数日後にもう一回、今度は家庭菜園の中に追い込んで捕獲成功し、散歩に行きましたが、Dundeeは私に慣れてくれませんでした。2回目に捕まえた時、後々首輪を捕まえるたびにまた噛まれることがないようにと20センチほどの赤いリードを彼の首輪につけたままにすることにしました。そして彼はこの赤いリードをお守りのようにずっとつけていることになりました。

そんなある日、また散歩に連れ出そうとしてDundeeを菜園の中に追い込んだまではよかったのですが、外へ出るゲートが完全に閉まっていないのに気づかず、Dundeeがあっという間に飛び出してしまったのです。捕まえられるのがあれほど嫌いなDundeeですから、トリートを見せたり追いかけたりすると警戒されてしまうことをこれまでの経験から知っている私は、とりあえずDundeeが一番心を許しているHollyと一緒に彼の逃げた方向に向って走りました。うちへ来てから2回Dundeeを散歩に連れていっていることが幸いしてDundeeはいつもの遊歩道の中に入って行きました。彼は久々の自由を満喫するようにピョンピョンと嬉しそうに走り回り、時々立ち止まって私とHollyを振り返ります。うちへ来て以来こんなにハッピーで活発なDundeeを見たのは始めてでした。結局私とHollyはDundeeを見つけては見失いを繰り返し、30分以上近所を走り回りました。そしてDundeeが私達を見て振り返るたびに、私は“Dundee, come on this way!”と言いながらHollyと逆方向に走り、とうとう家の近くまで辿りつくことができました。私は一か八かでHollyともども庭の中に駆け込みました。するとDundeeも一緒に追いかけて入ってきてたのです!よかった、Dundeeをまた迷い犬にしてしまうところでした。
主人も心配して車で近所を探しに行っていたので携帯に連絡し、Dundeeが帰ってきたことを知らせました。今回は私もかなりあわてましたが、心の奥ではDundeeはきっと帰ってくるという自信もあったのです。Dundeeはまだ私を警戒しているものの、彼はうちの庭は安全でここにいれば食事もきちんと与えられることをこの一週間で理解しているはずだから、庭のゲートを開けておけばきっといつか帰ってくるとは思っていたのです。でも車の事故だけは心配だったので、こうして事なきを得て私は胸をなでおろしました。
こんな事件があってからもDundeeはまだ近くに寄ってきてはくれませんでした。そしてあるとき私は今までのやりかたが間違っていたこと、彼を騙して捕まえる度に私は彼からの信頼を失っていたということに気づいたのです。いくら散歩に連れていってあげるという大義名分があっても、彼を騙していることは裏切りと同じことだと。
私はこのときからもう絶対に彼を捕まえようとはしまいと決心したのでした。何日かかってもいいからDundeeが自分から近づいてきてくれるまでは彼を自由にして、そのときが来るのをじっと待ってあげようと。
そう決心してみると、私の気持ちもとっても楽になりました。この仔にはこの仔のぺースがあり、それを尊重してあげるのが私のフォスターとしての役目だと思えるようになったのです。急いでアダプションに出す理由も必要性もないのだもの。今一番大切なのは、Dundeeに再び人間を信頼してもらうことだと。彼のほうも私のこの変化に気づいたのでしょうか、それからというもの事態は少しずつ改善していったのです。(2010/12/25)

 

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