動物孤児院 (78)メディアの貢献
動物孤児院 (78)メディアの貢献
メディアの貢献:プーケット島(タイ)の犬猫保護にドイツから熱い応援
情報公開度が高ければ、動物愛護の意識も向上する
日曜日の夕方6時半、1時間のテレビ番組を私は毎週楽しみにしている。飼い主のない犬猫と、各種小動物(うさぎ、チンチラ、ねずみ、小鳥……)が次々に紹介されるのだ。
おまけに10分おきぐらいに「飼い方のこつ」や、「こんなに幸せになりました」の事後報告(これが最も幸せな気分にしてくれる)がある。それだけではない。どんなに小さなネズミもハムスターも快適に生きる権利があるということを、実にさりげなく説明するのだ。ドイツ人に意地悪されたり皮肉なことを言われたりして気が滅入っているときだって、この番組を見ればドイツ人に対する感情が一変して、「ドイツはやっぱりいい国だ」と思えてくる(苦笑)。ペット動物の殺処分がない、というのは何てすばらしいことなのだろう。
嬉しいことに、最近はテレビや雑誌で家畜動物の飼い方も話題にのぼることが多くなった。今では養鶏場の鶏は放し飼いで飼わなければならない。ホルモン剤の投薬はなく、気候のいい時期は広々とした牧場で放し飼いにされた牛。十分なスペースのもとで餌も自然のもので育てられた豚。そのような牛や豚の肉は高くても売れる。自然牧場の肉売り場は週末など並ばないと買えない。
堵殺用の家畜動物の運搬もチェックが厳しい。国外から狭いトラックに詰め込まれ、飲み水も与えられずに劣悪な状態で運ばれてくる実態が報道されてから、動物愛護団体や人々が道路で家畜運搬トラックを阻止して抗議したのはもう何年も前のことだ。詰め込まれて運搬された結果、立てなくなるほど衰弱した牛や羊。身動きのできない檻で育てられる鶏。表になかなか出ることのない事実がニュースやテレビの番組や雑誌で頻繁に取り上げられ、家畜動物たちの扱いを知って多くの人がショックを受けた。
報道されないかぎり、私たちは動物たちが裏でどんな扱いを受けているか決して知ることはできないのだ。犬猫飼い主募集の番組でも、犬猫を紹介するだけでなく、トランスペアレンシー(情報公開)を通して本当の動物愛護を茶の間に届けてくれる。
もう10年近く前のことなのだが、九州に住む友人が犬の殺処分の現場を見せるテレビ番組を制作した。地方の放送局で、短いフィルムではあったが、かなりの反響があった。しかし、そのような番組は非常に少ない。なぜなら、スポンサーや上司がいい顔をしないから。
私自身も九州のある民放の放送局に「飼い主募集」の番組を制作しないかと話を持ちかけたことがある。地元では著名なアナウンサーが犬好きで、ドイツのティアハイム(動物ホーム)を取材に行ってみたいという話になった。私はもちろん大歓迎だった。しかし、結局、上司もスポンサーもいい顔をしなかったそうで、お流れになった。(ドイツの飼い主募集の番組はテレビ局がスポンサーだ。)
グローバル規模の犬猫救済が可能な世の中に私たちは生きている
「ソイ・ドッグ」というタイの保護団体がある。
記事を読んでからメールを送ったら、オーストラリアのソイ・ドッグ協力者から返事が来た。オーストラリアでも日本と同じ問題(パピーミル、ペットショップ、殺処分)があるのだそうだ。
何千キロも離れたドイツに住んでいても、タイのプーケット島で野良犬の保護活動をしているイギリス人夫妻の話がたくさんの写真入りで犬雑誌の先月号に発表されれば、「協力しよう!」という人が世界中から出てくる。
雑誌を読んだドイツ人の友人が「私たちお金を集めて、まとめて寄付しましょう!」と言い出した。2日間で100ユーロ集まった。
「ソイ・ドッグ」ではイギリス人夫妻とタイの獣医さんや地元の協力者と共に毎日犬猫の命を救っている。隠居生活を楽しむつもりでプーケット島に渡ったのに、このイギリス人夫妻は、島の野良犬の多さに驚き、バンコックで始まった保護活動団体「ソイ・ドッグ」を引き継いで、プーケット島で運営することにしたのだ。(ソイ・ドッグとはタイ語で「路地の犬」という意味)。
「ソイ・ドッグ」では捕まえた犬や連れて来られた犬を避妊去勢(毎日20頭以上!)する。そして、予防注射、病気の治療、新しい飼い主募集。人に馴れていない犬は麻酔矢を使って捕まえるそうだ。今やアメリカ、西ヨーロッパ、オーストラリアにも支部があり、グローバル規模で集める寄付で賄うのである。
http://www.soidog.org/en/about-soi-dog
(英語、ドイツ語、フランス語、タイ語)
ところで、このイギリス人女性は去年、犬のレスキューのために沼地に入った際、原因不明の菌に両足を侵され、両足を切断しなければならなかった。そのような出来事も犬のレスキュー活動を諦める理由にはならず、今では車椅子で活動を続けているそうだ。
次回プーケット島に行くときは真っ先に「ソイ・ドッグ」を訪問するつもりである。
ドイツの犬雑誌で紹介されたこの記事は反響を呼び、編集部に問い合わせが来たらしく、今月号でも再び紹介され、ドイツでのコンタクト先が大きく記されていた。(プーケット島はドイツから遠いにもかかわらず、ホリディで数週間過ごすドイツ人や、年金生活するドイツ人が多い。)ドイツには「ソイ・ドッグ」の熱心なサポーターが多くいる、とオーストラリアの協力者が教えてくれた。情報ネットワークのなせる業だ。
日本の犬猫保護団体もこのように、世界中から協力者を得ることが可能だろうが、日本の場合はタイとは異なり、徘徊する野良犬の問題ではなく、多くの場合、飼い主が自主的に殺処分してもらうために管理センターに連れてくるのだから、かなり異質だ。しかも管理センターは自治体に属しているせいか、情報公開があまり期待できないのだろう。もっとも、政府機関が「あれは安楽死です」と国民に言っている現在、「実際は安楽死ではない」事実が報道されにくいのかもしれない。