働く犬と家庭犬

働く犬と家庭犬

セミナー「働く犬と家庭犬」の報告

講師は、日本盲導犬協会・神奈川訓練センター施設長の朴 善子氏です。

日本の家庭犬が社会に共存していくためには、働く犬がもっと注目され、働く犬の環境が整い、また、飼い主がしっかりマナーを持ち守ること、そして犬を理解する人が増えていくことが大切だと、皆さんもすでに充分に感じられていることと思います。今回盲導犬の育成のお話を通して、盲導犬が決して特別なものではないし、家庭犬を育てることと大きくかけ離れてはいないのだとも感じました。働く犬と家庭犬、その双方とも社会から理解を深めてもらえるようにしていきたいものです。

盲導犬の育成のための段階については特に子犬の社会化の時期には学ぶところがとても多かったです。盲導犬の育成を、飼い主の変更に伴った犬の成長過程とストレスという流れで伺いました。 

1.繁殖ボランティア

生まれた盲導犬候補犬にとって、最も犬の社会化に重要な場であり時期です。繁殖者は様々な体験の機会を子犬に与えます。たくさんの人に抱かれる体験、車の音やガソリンの匂いを体験させる、シャンプーを嫌がらないように体験させる等です。

2.パピーウォーカー

二ヶ月ころパピーウォーカーの元へ。 3ケ月までは月に2回のパピークラスに参加、その後は毎月1回のパピークラスでパピーウォーカーとの関係を深めていき、家庭犬として様々な体験を積んでいきます。性格的に問題がある犬はパピークラスで専門の訓練士のアドバイスを受け、その時点で対応していきます。

1.と2.の時期は家庭犬のしつけと全く同じだと思いました。シャンプーを嫌がらない犬にするためには? 車を嫌がらない犬にするには? など家庭犬のしつけに必要な部分です。人を恐がらないようにたくさんの人に抱いてもらったり、なでてもらったりと、子犬はたくさんの体験をしています。これから、犬を育てようとお考えになる方には、とてもわかりやすい子育て方法です。

3.訓練所での団体生活

1歳の時にパピーオォーカーから訓練所に入り、団体生活を学びます。それまでは、家庭犬と同様の生活をしていましたが、ここで家庭を放れ、盲導犬の訓練を受けます。すでにこの時期は社会化も終 わっており、あとは性格的に訓練性能があるかどうかでしょう。いつも側につきっきりの飼い主さんではなくなりますが、まだ1歳なので精神的なストレスは少ないようです。子犬は新しい環境にすぐになれるんですね。しかし、この訓練所での生活は、性格的に盲導犬になれるかなれないかが決まる大事な時です。

4.リジェクトウォーカー

盲導犬になれなかった犬をリジェクト犬と呼びます。日盲ではリジェクト犬を一般飼い主さんに売るようなことはないそうです。聴導犬や介助犬への転向、また繁殖犬となります。まれに、一般飼い主さんにわたることはあっても、盲導犬関係者のところに里子にでるそうです。財政的に苦しい一部盲導犬協会ではまれに一般飼い主へ譲渡している協会もあるかもしれません。

5.ユーザーさんという飼い主さん

盲導犬が仕事中という時間は一日1時間ないし2時間程度です。これは、視覚障害者が外出時に主に仕事をするからです。盲導犬が、たたかれたり、しっぽを踏まれてもじっとしてるなんてことは、全くのでたらめだそうです。いたみも感じるし、いやなことはいやと感じているからです。一般の家庭犬よりは我慢することを教えられているとは思いますが。(たばこを押しつけられるようなエピソードが本の中にありますがとんでもないことですね。)
盲導犬は、感情もストレスももちろん家庭犬と同様にあります。だからいつもいい子に出来るから、お散歩は簡単で良いとか、匂いなんて嗅がせない、というように、充分に遊びの時間を取っていない場合、お仕事中にわき見をしたり気が散ったりとなるそうです。

考えてみれば、当たり前のことですね。十分に飼い主さん(ユーザー)とのコミュニケーションがあるからこそ、仕事もしっかり出来るんですね。ユーザーさんが犬を愛し、好きであればまったく問題 はないと思いますが、嫌いな方がいたらかなり犬もストレスがあるのではと思いました。でもそういう方はユーザーにはならないかな?
2才〜10才までユーザーさんとの暮らしですから盲導犬の一生のうち一番長い期間、ユーザーさんと暮らします。日盲では10才でリタイアします。

6.リタイアウォーカー

盲導犬の一生の最後の飼い主です。ユーザーとの別れは盲導犬にとってはとてもつらく、悲しく、ストレスが大きい「飼い主」の交替です。リタイア犬の飼い主のボランティア候補は下記の順番だそうです。
 

1)ユーザー自身、余生もユーザーが面倒を見るケース
この場合、次の盲導犬は迎えず、星になった後で次の犬を迎えることが多いそうです。まれに次の盲導犬とリタイア 犬が一緒にいた場合、リタイア犬のストレスはかなりなものになるので2頭飼いは勧めないそうです。

2)ユーザーの親戚または知人の方のケース
リタイア犬が良く知っている方のところならばちょっと長い預かり状態ということで比較的犬にとってストレスは少なくスムースに交替できるそうです。

3)リタイア犬が育ったパピーウォーカーの元か繁殖ボランティアのケース
犬は終生飼い主を忘れませんから、パピーウォーカーの元 に帰れば嬉しいでしょうね。(でもパピーウォーカーは次の盲導犬育成のためのボランティアがありますからすべてのリタイア犬を引き取るのは無理でしょう。)

4)一般の方でリタイア犬を望む方
犬を愛し、一緒に暮らしたことがある方だったら幸せかもしれませんが、簡単に日盲ではOKとはならないようです。

一番大事なこと、リタイア犬にストレスを出来るだけ少なくして負担をかけないという犬へのやさしい思いやりからだ感じました。誰もがリタイア犬を引き取れるなんてことはないんですね。
また、北海道には盲導犬をリタイアした老犬ホームがあります。日盲では、盲導犬は家庭がありその中で暮らすことが一番の幸せと考え、家庭での引き取りを重要視しているそうです。 


一般の家庭犬の場合、飼い主の変更は2回です。繁殖者と飼い主さんですね。それに対して、盲導犬は、訓練所の期間を除いて、3回ないし4回、飼い主が変ります。
犬は人のために働くことが大好きです。その働きに応えた飼い主の愛情を注ぎたいですね。特にリタイアした犬の余生が幸せであって欲しいと感じました。(99/08/01)

(LIVING WITH DOGS)

 

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