【犬と暮らす家(12)】設計から儀式へ〜地鎮祭

【犬と暮らす家(12)】設計から儀式へ〜地鎮祭

結局前日までかかってしまった見積もり額と工務店との建築請負契約内容の調整。いろいろ課題も残りましたが、とりあえず晴れて地鎮祭を行なえる事を喜びたいと思いました。

地鎮祭までに建築請負契約を締結できなかったとしても何とでもなるのですが、見積額調整で四苦八苦していた間、早くこの難局を乗り越えたいという気持ちから、私の中で「地鎮祭=着工スタート」の日と決めていたのです。着工するという事は、工務店と建築請負契約を締結するという事ですから、全てがこの日をターゲットとして進んでいました。

今回家を建てるにあたり、建築に由来する儀式的なものはできるだけ経験していきたいと思っていました。少なくとも自分のコストダウンという理由だけではなく、建築に携わる不動産業界や工務店、大工、土木関係の方はそれらを無視する事が少ないはずで、逆に儀式を軽んずる人たちよりも、しきたりを無視しない文化を持って建築に携わっている職人さんに建ててもらいたいという事を漠然と思っていたからです。

地鎮祭の日を決めるためには、まず日取り調べる事からはじめます。5月以降で地鎮祭や建築で避けなければならない三隣亡の日をはずし、2009年5月21日(金)の大安を地鎮祭の日と定めました。神主さんについては新しい土地の周辺ではまったくわからないので、地元である工務店の方に紹介をお願いしました。

私達は準備として祭壇用の榊を近所の花屋で70〜80cmを2本と短いものを10本発注。結構な値段でした。ほかに捧げ物として「海のもの」が天然物の鯛と在庫分の海草、「山のもの」がオレンジとキウイ、「畑のもの」がゴーヤ、ナス、ニンジンなどを用意し、クーラーボックス内に保冷剤とともに入れました。あとは米や水や奉納と書かれた日本酒、神主さんにお渡しする初穂料なども用意します。これらは工務店やハウスメーカーが用意してくれる場合もあるようです。

梅雨に入り前日に大雨が降ったにもかかわらず、当日は朝からよい天気に恵まれました。奇しくも1年前の5月21日というのは、戸建てへの計画を立案した日です。あれからまる1年が経ってしまったのだと思う反面、これまでに色々あった事を回想してはその苦労の足跡を懐かしく振り返ります。

10時から開始予定ですが9時半に現地入りすると、既に基礎土木担当である和合土木の社長さんがこられていました。何でも土砂降りだった前日に来られて、敷地中央に竹を四方に配置する祭壇の用意をして下さったそうです。犬好きでもあるようで、くーもかわいがってもらいました。

まんべんなく日があたる明るい敷地の脇にブルーシートを敷き、クレートやカメラバックなど今回持ち込んだものを置いていると、まずこの土地を買うにあたりお世話になった不動産屋の紙屋さんが到着しました。

正直な所、不動産屋からみると私達は儲からない客だったと思います。一旦契約はしたものの任意売却物件の結果破棄となり、その後この土地を仲介していただくまでの約8ヶ月、膨大な時間を費やし、自らの休みも返上し、とにかく「仕事だから」という一言で済まない気配りをしていただきました。

実は紙屋さんはちょうど私の案件を抱えている最中に転職されたのですが、前の会社と現在の会社双方の信頼も厚く、私の土地が売買成立するまでは主担当として関わってくださいました。会社というよりも私たちは紙屋さんという人から土地の仲介をして頂いたようなものでした。

我が家にも愛犬のパグのピノコちゃんを連れてパートナーの方といらっしゃり、不動産の仲介だけ終わらず、今後においても不動産に関わる面ではアドバイスを頂けるプロの方と知り合えたという事を、素直に喜ばしく思います。

次に電気関係の工事をお願いする仲村電気の中村さん、そのあとすぐに施工を担当する和光建設の責任者である栗原さんが建築家の米村さんと一緒にやってこられ、色々と雑談や儀式のあとの建築請負契約など泥臭い話をしていると、本日の主役でもある地元の大きい神社の神主さんが到着されました。

神主さんは熊野神社の方で、忌砂(いみすな)と呼ばれる砂の山をつくり、その上に榊を1本差したり、鯛をはねているように紐で反らせたりと、細かい準備を誰にも手伝わせずに準備をされました。それだけで30分ほどかかったでしょうか。その後正装に着替えられ、おごそかに地鎮祭がはじまりました。

まず最初に地鎮祭についての手順や意味の説明を丁寧にしてくださりました。私としても事前に簡単にですが調べてきましたが、神主さんによってやり方もスタイルも違うようです。

最初に施主の名が呼ばれ、地鎮祭のはじまりの言葉が色々と延べられました。その後「おお〜」という声と共に土地の神様が降臨されます。静かな住宅地に響きわたり、近所の犬たちが吠えだしました。何事かと現場を覗かれた方なら、建築前の儀式をしている事が判った事でしょう。ただ最近はこれらの儀式をしていない所も多いと聞きます。いきなり土木工事をはじめるよりも、こういう事をしっかりするという事も近所にもよい印象を与えるのではないかとも思えました。

式の流れの中で、なるほどと思った部分は鍬入(くわいれ)の儀でした。最初に施主が鍬を持って、砂をもった山を「えい、えい、えい」と大きな声をあげて崩す、という行為をするのは聞いていたのですが、今回は神主さんはちゃんとその手順や意味を事前に説明してくださいました。手順としてはこんな流れでした。

1.鎌(かま)入れ:砂山に刺さっている榊を抜き、鎌で砂山を掘る(建築家)

2.鍬(くわ)入れ:砂山を鍬で崩す(施主)

3.鋤(すき)入れ:砂山を鋤で堀る(施工者)

そう、土地を開拓し、耕し、整備するというステップをそれぞれの任に沿って儀式の中で形を執り行うものでした。いつごろからこういう儀式が執り行われるようになったのでしょうか。歴史はそれほど古くはないのかもしれません。その後敷地を塩とお酒で清め、米をまいてこれからここに家を建てるという気分が盛り上がってきます。そして祭壇で私はこんな事をお願いしました。

・工事にかかわる方が無事故でありますように

・工事に関わる方全ての家族が幸せでありますように

・この土地でこれから暮らす私達は幸せでありますように

・この土地で暮らす私達の生活がよい事ばかり沢山起きますように

・家族全員が病気や怪我なき日々がおくれますように

・ご近所とも平穏で良好な関係が築けますように

時間をかけて、じっくりと祈ります。信仰とか宗教抜きに、純粋に我が家を建てるという事に対して願う本音でした。

およそ1時間かけて行なわれた地鎮祭。ないと聞いていた施主の挨拶や、米村さんや栗原さんもスピーチも、神主さんに促されてする事になり焦りましたが、とてもよい記念になりました。最後にお供物は全て神主さんが持っていかれ、最後に初穂料をお渡しして終了。これからこの土地に私達の家を建てるんだ。いよいよ基礎工事に入るんだ、という気持ちが高揚してきます。

地鎮祭を終えたあとこれからお世話になる近所のスーパーで皆の分のお昼を買い、米村さんの事務所へ移動。皆で雑談をしながら食事をしたあと、まず工事の内訳明細書という分厚い大量の書類についての説明を受けました。

どのような建材をいくらで何本使うとか、どの型番の設備を使うというのが一目瞭然です。例えばシステムバスなどは別紙として構成図があり、明細には一式と書かれており、IHクッキングヒーターやインターホンなどは型番まで記入されています。価格はその仕切額が表記されています。

仕入額が予想となるフローリングなどは基準となる金額が記載されていますが、最後の調整の結果、施主支給となったエアコンは空欄です。しかし配管分だけはへたにされては困るので、明細に含めてもらっています。

具体的に工事費用が見えてくる事が、透明性を物語っています。建築家に設計監理を頼む部分は別になりますが、設計監理がタダな訳がありません。ハウスメーカーであれば全て社内の部署でそれらが行なわれるので一式としてどこかに計上されるものです。それが不明瞭になっているか、きちんと何にいくらをかけているかが判るかという差が、お金を払う側として、施主として安心して頼む事に繋がります。

設計図が約100ページ、それとは別に建材の明細も100ページ以上あり、透明であるべき部分は透明な表記で、工数や工務店の取り分などはそれぞれおおまかな数字が記載されてました。

1ページずつ、この建材はここに使われ、これはこの部分で、というような説明を受けます。再確認する部分もありますが、基本的に大幅に変更が発生しなければ、ここに記載されている価格で工事が行なわれます。

例えば記載されている建材が欠品の場合は代替品にとってかわり、それが高価な場合は工務店側で吸収してもらいます。基本的に安めに設定しているものがほとんどなので、実際に安くなるという可能性よりも、高くなる可能性の方が高いと言えます。これについても随時建築家と工務店の間で調整の上、ベストな選択を施主に毎回確認をして、どうするかを決めます。施主の不利益になる事や確認が必要な部分について、勝手な仕様変更はしません。

これまで約1ヶ月にわたりコストダウンで目を皿のようにして建材をチェックしてきた分、あらためて確認する事は少ないものでした。構造計算の上で強度的に外せない部分については、これは正直施主の私が判断できる部分ではないので米村さんと構造設計を請負う建築事務所におまかせしています。

このようにおまかせする部分はおまかせし、それこそ重箱の隅を突つくようなチェックはしていません。全てをきっちりとチェックした訳ではありませんが、ある程度の信頼関係を保った状態での建築請負契約の締結は、家づくりでは工事をする側も依頼する側も大事なのではないでしょうか。

こうして儀式と契約は終わり、いよいよ地面を掘りはじめます。辛いコスト調整を越えて、晴れて楽しい家作りに突入です。

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