家族の肖像 – リボンと共に
愛犬にはいつまでも生きていて欲しい、そして可愛い目で甘えて欲しい。飼い主さんは誰もがそう願っています。永遠に別れがなければ良いと。愛犬を失うこと、それは大きな試練です。ここに愛犬との暮らしに終止符を打った、ある飼い主さんご夫妻の哀しみと愛の記録があります。リボン、G.R.の女の子です。彼女はご両親に愛され、そしてご両親を心から信頼し、両親に看取られながら星になりました。
安楽死を選択し、愛犬の死を見守った飼い主さんが語って下さいました。(LIVING WITH DOGS)
私はリボンに安楽死の選択をしました。楽(らく)にさせる方法が、これしか無かったからです。唯一、人間と違って、犬には、安楽死が認められているのです。
リボンは1年半の間に腫瘍をとる手術を10回行いました。でも再発を繰り返し、とうとう最後のほうは手術後、傷口もつかなくなりました。腫瘍をとらないと、腸や肛門、膀胱を腫瘍がふさいでしまうからです。
娘のように、かわいがってきたつもりです。でも、治らないガンとこれ以上戦って苦しませるより最期は犬として終わらせたいと思いました。人間とは違うのですから。苦しみの中から、リボンを救ってあげられた…これが、救いです。
リボンは最後の朝も(もう何日も)、痛み止めの薬を飲んでいた。うずくまってヒンヒン言いながら、転々と居場所を変えていた。痛みからなのか、じっとしていられかなったのだろう。薬を飲んで、しばらくすると落ち着く。
手術後だって、痛み止めの薬を飲んだことは無かったのに。
4月4日、苦しむリボンを見て、「覚悟は、出来てますか」院長先生は、夫の目をみつめて、そう言った。「えっ?」私は息を飲んだ。覚悟って? 覚悟って何?
幸いに、そのときは、治療の甲斐あって、辛さを緩和する事ができた。
4月18日
「散歩に行こう」と声をかけても、投げ出している足は動かず目だけ、こっちを向く。立ち上がるつもりは無いらしい。もう、リボンのお尻の外側にはみでてきた腫瘍は頭くらいの大きさになってぶらぶら、ぶらさがっている。お腹の中も陰部も、はっきりとわかる位に、ぼこぼこにふくらんでいる。明日か、明後日には、また、あの時のように苦しむ時が来るのは、目にみえている。
毎日、痛み止めを飲まないといられないくらいの痛みとはげしい出血と大きくなった腫瘍による違和感。食べても、モノが胃から下へおりないのか、吐く。
一度、苦しみはじめると、もし治療して、楽にさせられないとなるとこれ以上のあの苦しさの中で、選べる道が、ひとつだけ、安楽死なんてとても出来ない。
私と夫の腕の中で、少しでも穏やかな時間の中で逝かせてやりたい…そう決心した。その夜、病院に電話した。
翌朝、夫と一緒にリボンを車に乗せて、リボンの大好きだった散歩道をゆっくり走った。はじめは、後ろの席で横になっていたが、散歩道だと気がついたのかむっくりと起き上がって、窓から、ずっと外を眺めていた。
そして、4月20日、私と夫の腕の中で、リボンは深い眠りについた。眠ったまま、心臓の音が…消えた。
(2000/9/30)( 東京都 A.Wさん RIBON’S WORLD )
■安楽死の実際 – 飼い主はどうすべきか? (「ペットの死その時あなたは」鷲巣月美著より抜粋)
人の場合延命治療を拒否する尊厳死は認められていますが、薬物により患者を死亡させることは認められていません。しかし動物医療では時として安楽死に最後の救いを求めなければならないことがあります。
病気や事故で動物のクオリティー・オブ・ライフを保てなくなった時です。末期癌、その他の疾患でも、現在の動物医療では助けることの出来ない状態、呼吸困難、薬物でもコントロール出来ない痛みがある場合は安楽死は必要な選択でしょう。
安楽死を決定する要因
・癌と診断されて手術が不可能な部位にあったり、転移していたり、体力がなく積極的なアプローチが出来ない場合は対処療法を中心としたターミナルケアを行い病状が悪化したときの選択肢としての安楽死。
・飼い主が体力的、時間的、経済的に重病の動物を看護できないとき残念ながら安楽死を選択せざるを得ないことがあります。
ニューヨークの獣医師、バーナード・ハーシュホンは、安楽死を決断する際の6つの基準を以下のような質問形式で記しています。
1.現在の状態が快方に向かうことはなく、悪化するだけか? |
2.現在の状態では治療の余地がないか? |
3.動物は痛み、あるいは身体的な不自由さで苦しんでいるか? |
4.痛みや苦しみを緩和させることはできないか? |
5.もしも回復し、命を取りとめたとして、自分で食事をしたり排泄をしたりできるようになるか? |
6.命を取りとめたとしても、動物自身が生きることを楽しむことが出来ず、性格的にも激しく変わりそうか? |
6つのすべてが当てはまるのであれば、安楽死をさせるべきであると述べています。
3か4の答えがノーであれば自然死を待つことも可能であると、しかし、必要な世話をすることが出来るか、世話をすることで家族の生活を大きく脅かすことがないか、治療費を負担する経済力があるかと言ったことを良く考える必要があるとしています。
安楽死を行う場合に用いられる薬剤はペントバルビタールという注射麻酔薬です。安楽死には麻酔量を超える過剰な量を静脈内にゆっくりと投与します。麻酔量の投与がされた段階で動物の意識と痛覚は完全に失われ、それ以上の薬物が投与されると呼吸停止、続いて心停止が起こります。
この間、動物が動いたり、苦しがったりすることは絶対にありません。
安楽死を選択した飼い主さんには、最後は出来るだけ動物と一緒にいて欲しいと思います。長年生活を共にしてきた飼い主に抱かれながらあるいは頭を撫でられながら天国に行きたいと思っているのではないでしょうか。
その場にいないことで、ほんとに苦しまなかったのだろうか、本当に静かに眠るように逝ったのだろうかと気になるからです。
安楽死の選択の判断基準はありません。獣医師は専門家として現状を評価し見解を述べますが、最終的な決定は飼い主および家族にあります。
(2000/9/30)
(LIVING WITH DOGS)