動物孤児院 (84)犬は家族、お金がなくても犬と一緒
犬は家族。お金がなくても犬と一緒
【生活扶助受給者は犬税も免除】
私の住む市では今度、犬税が値上がりする。
犬を飼う場合、ドイツでは年に一度、犬税を払うことになっている。額は市町村によって大きく異なるが、基本的に都会は高く、田舎は安い。ちなみに、ここヴィースバーデン市は比較的安い。郊外電車もバスも犬は無料で、犬にやさしい町と言える。犬税は過去25年間、一年につき76ユーロ(約9100円)だった。それが今度96ユーロ(約11500円)に値上げされることになった。月額にすれば毎月1.7ユーロ(約200円)の値上げであるし、25年も同額であったことを考慮すると、「犬税が払えなくなったから」とティアハイムに犬を連れてくることはない、という見方だ。
しかし、ライン河をはさんで隣接しているマインツ市は犬税が高い。近々、年額220ユーロ(約26000円)にする計画らしい。
犬税徴収のシステムも変わる。これまでは飼う犬の頭数が増えれば増えるほど支払額が高くなった。2頭飼う場合、1頭目より2頭目が高く、3頭目は2頭目よりさらに高い、というふうに。それが1頭につき96ユーロ、と均一化される。
ただし……、生活扶助を受けている人は申し出によって犬税も免除である。これまでは、生活扶助を受けていたら犬税も自動的に免除になっていたが、これからは申し出をして手続きをしなければならない。
「低所得者の人たちにとって、ペット動物、とくに犬は<唯一の家族>であるというケースが多い。そのような人たちの経済的負担を少なくするための措置です」と政治家は言う。
住む家も家族もなく、犬だけが家族というホームレスの人たちもいて、24時間犬と寄り添って暮らしている。毎日の食料を確保するので精一杯なのだから、犬税など問題外だ。その人たちは、ボランティアの人たちや自治体が準備する無料食堂で食事をすることができる。ホームレスの人たちの犬を無料で診る獣医もいる。ドッグフードがもらえるところもある。大きなペットショップには「寄付用ドッグフード専用箱」が置いてあって、買い物客は店で買ったり、寄付用にと家から持ってきたりしたドッグフードをそれに入れるのだ。
【生活扶助受給者には厳しいティアハイム】
生活扶助を受けている人たちが住む公共団地でも、犬を飼うことができる。そもそも低所得者専用の団地とはいっても犬が飼えない環境というわけではない。広々とした芝生の空間に4階建てのバルコニー付きのアパートが数棟。建物の間にはプラタナスやマロニエの大木が繁る。
犬の散歩中に口をきくようになった40代のシングルマザーは長年ジャーマン・シェパードを飼っていたが、去年老衰で亡くなった。そして数ヶ月後、純白のカナディアン・シェパードを連れて自転車で走っている彼女に出会った。
「ティアハイムから引き取ったの?」(ティアハイムにはそのような純血種もいる。)
「違うの。ブリーダーから買ったのよ」。
彼女は町で一番大きいティアハイムから犬を引き取るつもりで見に行ったのだが、低所得者の団地に住んでいるとわかると邪険に扱われ、ティアハイムで犬を探すことに嫌気が差したということだった。
似た話をずいぶん前に聞いたことがある。やはり隣村の低所得者の団地で、マルチーズを連れていた若い女性だ。連れていたマルチーズはブリーダーから買った、と言っていた。彼女もティアハイムで断られた一人である。「私がシングルマザーで、しかも低所得者用アパートに住んでいると言ったら、あなた向きの犬はいませんって言われたわ」と憤慨していたのを覚えている。ドイツのティアハイムは、「どうか引き取ってください」ではなく、「犬を飼う条件が揃っていればお譲りできます」の態度のところがほとんどだ。
(低所得者用の団地に純血種の犬が多いような気がするのがそのせいか?? ちなみに、この村の低所得者用の団地には、私が目撃した分だけでもナポリタン・マスティフ(!)、ドーベルマンピンシャー、フレンチブルドッグ、ボストンテリア、ロットワイラー、ヨークシャーテリア、チワワ、複数のダックスフントが住んでいる。)