微笑みの国の路上犬 (17)洪水 – 被災犬の避難所

微笑みの国の路上犬 (17)洪水 – 被災犬の避難所

昨年のタイの大洪水は大変な被害でした。水が引いた後は、避難した住民が自宅に戻るために復旧を急がなければなりません。そして避難しているのは住民だけではなく飼われていた犬達もたくさんいました。あちらこちらに預けられた犬達が、次々と水に追われ最終的にカセサート大学のカンペンセンキャンパスにある避難所に集められたそうです。その数およそ1000匹。現在はまだ飼い主さんが迎えに来れないで残っている犬達が400匹いるそうです。そんな状況の中、バンコックのN・Oさんからボランティアに参加した記事が寄せられました。(2012/1/16)(LIVING WITH DOGS)



広域で甚大な被害をだしたタイの洪水も、2011年12月に入るとようやく収束の目処がたち、多くの被害地域が復旧段階にはいった。

友人のタリニーさん(Pic A Pet 4 Home主催)から連絡をもらい、12月中旬に犬の避難所へボランティアに出かけてきた。場所はバンコクの西、ナコンパトム県のカセサート大学カンペンセンキャンパスにある獣医学部が設置した犬のための避難所だ。

飼い主が洪水で避難して犬の世話ができないなど、無料で預かる保護所を緊急設置、ピーク時はおよそ1000匹が保護されていた。訪問時は、600匹が無事に飼い主に引き取られたあとで400匹ほどの犬たちが飼い主の迎えを待っている状態だった。

そこで、犬たちのお風呂、トリミング、ケージの清掃などのボランティア作業をする『Dog Cleaning Day』に参加。当日は、朝7時にバンコク都内のカセサート大学の動物病院に集合。主催のNPO団体TVSD(タイボランティア サーチ&レスキュードッグ)のドッグトレーナー、キアット氏のチームとタリニーさん関係のボランティア10名ほどでバンに乗り込み出発。

途中、長期洪水のエリア、バン・ブワトンへの分岐点あたりは、12月半ばでも幹線道路が洪水だった。1時間半ほど西に走ると田園地帯に景色が変わり、のどかな牧場の風景が目に映ると、そこは大学の獣医学部敷地内だった。
主催団体TVSD (http://thaivolunteersardog.wordpress.com/about-tvsd/)は、当日カセサート大学主催の地元フェスティバルで夕刻にドッグトレーニングショーを披露した。TVSDは民間のボランティアとしての探知救助犬の訓練をするタイ国では希少なNPOだ。個人の飼い犬でIRO (RHT-A) evaluation(国際救助犬試験)に合格した救助犬によりチームを組んでいる。トレーナーのキアット氏は、日本の救助犬団体との交流もあるそうで、山口県岩国市を訪問したことがある、とおっしゃっていた。

今回のDog Cleaning Dayの様子もFacebookにたくさんの写真がアップされている(文章タイ語)。

到着後、各方面から参加したボランティアの方々に、作業手順が説明される。飼い主のいる犬なので混同しないように、必ず自分の名前の札を連れ出した犬のケージにつけて、同じ場所に戻す、等々。

約200匹を対象にしたので、基本的に担当別に組にわけて流れ作業をする。犬をケージから連れ出して戻す担当、シャンプーする担当、拭いてドライヤーで乾かす担当、長毛トリミング担当にわけられた。

400匹に減っても、掃除が行き届かないのであろう、とにかく鼻が麻痺するほど臭いがひどかった。理由は、排水溝が犬舎でなく、平らな駐車場に組まれた柵で作られた大型ケージなので、水で排泄物をきれいに流せないのだ。

長くて2〜3ヶ月はここに置かれた犬たちのストレス、衛生状態がとても心配だ。


若い大学の獣医さんたちは毎日世話をしているので、犬の性格や情報を知っている。

当初このような犬の避難所はタマサート大学(ランシットキャンパス)に設置された。ところが、洪水が押し寄せ、タマサート大学内にあった人間の避難所も混乱のうちに移動する羽目になった。犬たちは、最終的にカセサート大学獣医学部(カンペンセンキャンパス)に避難先が落ち着いたのだが、その間、飼い主や保護者のデータを紛失した犬が数匹いたそうだ。

飼い主はたぶんこの犬がここに避難したことを知らないし、もう迎えに来ることができないかもしれない、と話していた。ほかにも預けるときに登録した先に連絡しても音信不通、飼い主さんの洪水後の生活の復旧ができず、このまま犬を迎えにきてもらえない恐れがあるケースもたくさんあるとのこと。その場合どうなるのか、と聞くと、『ここはあくまで洪水期間の緊急仮避難所ですから、時期がくれば地方自治体など行政管理の動物収容所へ移されます』という回答であった。

所有者・飼い主がいる、という前提なので、まだ音信不通や状況不明というだけでは、里親探しは積極的は行える状況でないのだ。収容所行きの悲惨な結末になる前に、なんとか1人でも多くの飼い主にメディアを通して『自分の犬を見捨てないで』と呼びかける対応が必要なのではないか…。このような現実から、  結局、今回の洪水で、民間レスキュー団体は、ますます多くの犬猫を抱え込み、政府からの支援もなく、限られた支援者からの寄付だけで苦しい運営状況になっている。

タイの動物収容所は日本のように殺処分しないが、そこにも闇はあるのだ。収容所にいけば、免疫のない飼い犬は感染症簡単に命を落とす。また、寒くなると需要が高まり、ラオス国境経由でベトナムへ食用に犬を違法輸出する数が増える。その一部は収容所からの横流しなのではないかと推測される。最近も1000匹もの犬を食用違法輸出するために輸送中のトラックが、ラオス国境の検問で摘発されるニュースが頻繁に流れている。

さて、政府の被災者への対応は、家に浸水した場合、1世帯で5,000B〜20,000B(約13,000〜50,000円)の支援金だけだ。飼えなくなった飼い犬たちへの支援策はない。なぜ政府はこの広い国土を利用して、多少の予算を捻出し、動物のサンクチュアリをつくれないのだろうか。この先、10年しか生きないかもしれない小さな命には、誰も責任をもたないのか。

カセサート大学でのボランティアは18時に終了したが、我が家に戻ると22時だった。すがすがしく疲れた身体とは裏腹に、避難所のワンコたちの現実を考えると心の中はやりきれない。

(2011/12/15)(タイ、N・Oさん)

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