動物孤児院 (85)タブー破り「ペットショップで子犬販売」!

動物孤児院 (85)タブー破り「ペットショップで子犬販売」!

新聞を開くと、愛くるしい長毛ダックスフントの子犬の大きなカラー写真が目に飛び込んできた。しかし、子犬の手前にある数字は何だ?799ユーロ?
「まさか!」
我が目を疑った。デュースブルクという町の、ある大型ペットショップが子犬を売り始めた、というニュースだったのだ。ドイツで生体販売が再開?—、ペットショップで子犬を売るなど、70年代のお話。現在ではタブー中のタブーではなかったか?

そのペットショップは数週間前から子犬販売の予告をしていたらしい。どの動物愛護団体も個人も猛反対を表明していたが、店主は何食わぬ顔で実行した。(爆弾を仕掛ける、という脅迫電話もかかったそうだ。)
ドイツでも30年ほど前までは子犬を2、3頭、店頭販売するペットショップがあるにはあった。(それでも数頭以上を置いている店はなかった。)
しかし、子犬へのストレスが大きく、病気にかかっていても店ではわかりにくい、健康面や性格形成に悪影響を及ぼす、トラウマを抱えた犬になりやすく、そのような子犬はしつけも難しいので結局は持て余して動物ホーム行きになることが少なくない、ブリーダーの姿が見えない売り方は金儲けだけが目的の繁殖屋を増やす根源になる、といった多くの理由で、どの店も犬猫の生体販売を止めたのだ。
店頭で販売する方式は、客を選ぶことができない、というのも大きな欠点なのだ。良心的なブリーダーは客を選ぶ。その後のコントロールもできる。動物ホームなど、引き取り先の抜き打ち検査さえするところがあるくらいだ。

ペットショップでの生体販売といえば、ウサギ、モルモット、ネズミ、小鳥、魚、爬虫類までという暗黙の了解があった。そして、これらの小動物の売り場は実に清潔で、その動物に適した環境が整っている。スペースも十分にとってあり、「まるで飼い方のお手本だな」と、いつも私は感心していた。

当日、1万人が押し寄せた
「子犬、大売出し」という広告を出したそのペットショップには、23頭の子犬を一目見ようと1日だけで1万人の人が押しかけた。1日にひとつのペットショップに行った人の数としてはドイツ新記録だそうだ。数年前ベルリン動物園で生まれて話題になった白熊の赤ちゃん「クヌート」見物並みの人出である。ここドイツで子犬がいかに珍しいかがこれでわかるだろう。日本のようにどこにでもペットショップがあって子犬がいつでもいるのと違い、ドイツの日常で本物の子犬を目にすることは本当に稀なのだ。私も、たまたま道で子犬を連れた人を見かけると立ち止まって、見せてもらう。(運よければ、ちょっとさわらせてくれたりもする。)

発売第1日目だった先週の土曜日、店の前には、「子犬販売反対」のプラカードやメガホンを手にした動物愛護団体も大勢集まった。
店主は、抗議する人たちが客から見えないように黒い天幕を張り巡らした。

849ユーロのワイヤーヘヤー・ダックスフントの子犬を得意げに抱いて店から出てきたのはエッセン出身のドイツ人男性である。「買い上げ客、第一号」としてインタビューが3つも4つも待ち受けていた。
「なぜ店で買うのか?」の問いに、
「ブリーダーのところに買いに行っても、子犬をすぐに受け取ることができないではないか」と男性は答えた。

この店主は年に1000頭の子犬が売れる見込みだと息巻いている。しかし、せっかくこれまで守られてきたモラルを「需要があるから」「売れるから」という理由で無視していいのか? 子犬を売れば大きな利益を得ることができることは、どのペットショップも知っているがそれを敢えてしないできたのだ。
「子犬をどこで仕入れるのか」も、メディアや愛護団体が知りたがっている。東ヨーロッパで性急に繁殖された子犬がヤミでドイツに運ばれ、売られているという事実がある。もちろん東ヨーロッパの繁殖屋たちだけを責めることはできない。買う人がドイツにいるから、どっちもどっちなのだ。

当然、どの愛護団体も怒りに怒っている。月曜日は200人集まって抗議した。
「我々は子犬販売を止めるまで、抗議し続ける」と言っている。今日、私も店主に抗議の手紙を送った。手紙はゴミ箱行きになるだろうが、それでも子犬販売を止めるまで何通でも送り続けるつもりだ。友人知人も手紙を送る、と言った。
そして、ここでドイツの政治家たちが規制に踏み出してくれることを大いに期待している。

文化人類学者マーガレット・ミードの名言をここでもう一度思い出そう。

Never doubt that a small group of thoughtful, committed, citizens can change the world. Indeed, it is the only thing that ever has. (Margaret Mead)

(良識あるわずかな人間の集まりが世の中を変えることができる、ということを信じよう。実際、世界を変えてきたのはそういう人たちだけなのだから。マーガレット・ミード)

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