動物孤児院 (87)トラック一杯の仔犬が見つかった

トラック一杯の仔犬が見つかった

<今回も仔犬の話である>

ドイツのアウトバーン(高速道路)でのトラック抜き打ち検査で仔犬92頭が国境警察に発見されたのは2ヶ月前のことである。トラックはハンガリーからオランダに向う途中だった。ハンガリー人運転手は翌日、邦貨60万円ほどの罰金を支払わされて釈放されたそうだ。オランダのヤミ市場で一頭数百ユーロの値をつけて売りさばく予定だったらしい。
夜中にニュルンベルク動物ホームに警察からの連絡が入り、職員たちが受け取りに行った。天井までぎっしり重ねられたケージにぎゅうぎゅう詰めにされていた状態で発見された生後3週間ほどの仔犬たちは、飲み水も餌も与えられておらず、衰弱しきっていたという。職員たち、獣医たち、ボランティアの人たちが徹夜で救命活動を始めたが、プードルの仔犬1頭は助からなかった。

ところで、ニュルンベルク動物ホームは立派な最新設備が整い、治療室もあるし、仔犬専用「育児室」まである。「育児室」はニュルンベルクで有名なお菓子レープ・クーヘンの老舗の社長さんからの寄付、75万ユーロ(約8500万円)で増設された建物である。(ドイツではどの動物ホームもそうであるが、ここの維持費も勿論、すべて個人や遺産の寄付でまかなっている。)
新聞やインターネットで仔犬たちの保護のためのお金と毛布やタオルの寄付のお願いが流されたので、私たちも早速、こんなときのためにと保管していた古いバスタオルを数十枚、大きな段ボール箱にぎっしり詰めて送る。後でインターネットに、「十分に集まりましたのでもう送らないでください」という写真が掲載されていた。実に一部屋分、天井に届くバスタオルの山だった!

<恐ろしいパルボに感染していた>

最初の仔犬が死んだ原因が恐ろしいパルボウィルスであることは後に判明したが、当時はわからなかった。実は、多くの仔犬たちがその時点でパルボに感染していたのである。
このように多数の仔犬たちがいっぺんに動物ホームに連れて来られるのは初めてのことで、仔犬のニュースを聞いて、ホームの外にテントを張って泊り込む人さえ現れたそうだ。誰もが、検疫期間の2週間が終われば仔犬の引渡しが始まると思っていた。(予防接種の証明書なしにドイツ入国した動物は2週間の検疫期間がある。)
しかし、予防接種は到着後すぐに施したものの、すでにパルボに感染していたらしい仔犬たちは2週間を過ぎるころから次々に死に始め、結局は24頭も死んでしまった。これは寝食忘れて仔犬たちの命を救おうとしていた職員の人たちにとってはかなりショックな出来事だった。
68頭が生き延びた。もっとも、ハンガリーからオランダまで生後間もない仔犬たちがあのまま運搬されていたら、目的地に到着するころは半数以上が死んでいたはずだという。「ヤミで運搬される仔犬たちは、死刑宣告されたも同然なのだ。非常に残酷だ」と職員の人たちは嘆く。
今か今かと待ちわびていた引き取り希望者たちはホームを訪れたり、電話をかけ続けたりしたが、24頭も死んだことは何週間も知らされなかった。というのも、職員の人たちや獣医たちは仔犬たちの救命に専念していたのであり、仔犬たちは今日元気でも翌日は発病して死ぬかもしれないという状況にあったので引き取り募集の段階ではなかったのだった。


<8頭の仔犬に150人の引き取り希望者>

結局、仔犬たちは段階を追って、希望者を募ることになった。まずはイングリッシュ・ブルドッグの仔犬8頭。

当日、動物ホームの玄関には150人が並んだ。(火曜、木曜、土曜だけ。それも午後2時から4時の2時間だけ。)中には、「本物の仔犬を見てみたいから」、「写真に撮りたい」と、ただ一目見るために並んだ人もいたそうだ。(ドイツではいかに本物の仔犬を実際に見る機会がないか、である)。
仔犬をガラス越しに見た後は、まず書類に記入。書類選考である。質問は5頁にもわたる。住環境。借家に住んでいる場合、家主の許可があるか。長期の休暇の間、犬をどうするつもりか(ドイツ人は何週間もまとめて休暇を取る人が多い)、等々。未来の飼い主がどんな状況で犬を飼うつもりなのかを職員によくわかるように、できるだけ詳しく描写してほしいそうだ。
今回の希望者はニュルンベルク近郊に限っている。ホーム側が引き取り先を実際に訪問して見るため。そして、引渡し後も確認の家庭訪問をするためである。このように、訪問してからでないと引渡しをしないホームは多い。
最終段階の、個人面接の通知を受けた人は家族や連れ合いと一緒に「育児室」の中に入って、仔犬を観察することが許される。どの仔犬が自分に寄ってくるのか、相性がよさそうな子はどれか、そのとき決まる。「人が犬を選ぶのではなく、犬に人を選ばせるほうがいいのです。」とホーム長は言う。そして、最終的決断はホーム側がする。
今回の仔犬たちを引き取るためには1頭400ユーロ(約48000円)かかる。犬をホームから引き取る場合、普通は250ユーロかかり、去勢避妊がまだ済んでいない犬は120ユーロなので、今回は割高である。「『安いから買う』という人たちに来てほしくないから」とホーム側は明確な表現を使って、そういう人たちを拒否している。また、仔犬たちを保護する際、1ヶ月で2万ユーロも医療費にかかったからでもある。

晴れて第一号となったイングリッシュ・ブルドッグの仔犬は新しい家族に引き取られ、各種の雑誌や新聞に幸せそうな一家の写真が掲載された。

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