動物孤児院 (88)小さな町のふつうの動物ホーム

小さな町の、ふつうの動物ホーム

先日、地元の動物ホームを見に行った。今年始めにNHKの「旅のチカラ」という番組で浅田美代子さんがベルリンの 動物ホームを紹介してくれたおかげもあって「ティア・ハイム(動物ホーム)」というものが日本にも少しずつ伝わりつつあるのではない かと思う。今は日本からベルリンの動物ホームを見に行くツアーもあるようだ。

私の住む町(フランクフルトから35キロほど離れた小都市)の動物ホームはベルリンのそれとは比べ物にならないくらい小規模で、ベルリンのようにデザイン的に優れているとか、公園のようだとか、何か特徴があるとかいうのでもなく、ごくふつうの動物ホームである。数年前に確か3億円ほどかけて建て直したので建物も施設も新しい。いずれにせよ、デザインがステキとか、お金をかけた、かけないは動物たちの幸せとは無関係であって、動物たちが新しいファミリーのもとに引き取られていくまでの間、健康管理がなされ、できるだけ寂しい思いをさせず、快適に過ごさせることができればそれでいいのだが。

犬にとって「敬愛する人(家族)と一緒にいること」に勝るものはない。前の飼い主から離れたショックから落ち込んでしまっている犬もいて、そういう犬はテレビや新聞で、「新しい飼い主を緊急に募集!」というふうに紹介される。

ドイツの動物ホームは住宅地域にはなく、線路脇とか工業地区にある場合がほとんどである。この町の動物ホームも (隣町のも)線路脇だ。そして、公娼のいるラブホテルの隣(!)。犬が多少うるさく吠えても苦情は出ないだろう(?)。 

収容されている犬たちは相変わらず大型犬や闘犬種が多かった。悲しそうな目でこちらを見ては差し出した私の手をペロペロ舐め、「ぼく(わたし)いい子だよ」をアピールする。しかし、人間とはうまくやっていくことができても、犬同士ではそうとは限らない。外に他の犬がチラッと見えただけで暴れまわる犬がいた。犬の名前や年齢、性格などが書かれた札に「引き取り可能」と書いてあっても、よっぽど力の強い人でなければ制御できないだろう。

「引き取りはまだできません」と書かれた札もあった。おなじみブルテリアである。「危険!おりの中に手を入れな いこと」と書いてある。闘犬種は規制が厳しくなった州があるため(州によっては飼うこともできない)、確かに前に比べたら頻繁に見かけることはなくなった。そもそもドイツで闘犬種を飼う人は大体似たり寄ったりである。いかにも恐ろしそうな犬を連れ歩いて自分の力を誇示したい。それが丸見えなのに本人たちは気づいていない。結局は、躾もできず、又、経済的に飼い続けることもできなくなって捨てる。
いい迷惑なのは犬たちである。獰猛になるよう、けしかけられ、暴力を受けて育てられた犬たちは捨てられた後、再教育に長い時間がかかり、家庭犬として合格の犬になったとしても、その恐ろしそうな姿のせいで引き取り希望者はなかなか現れない。

この動物ホームにも高い金網の柵に囲まれた訓練場がある。私が訪れたときは、ちょうどレトリバー系の犬と若いカップルが中にいた。引取るまで何度も動物ホームに通い、散歩に連れ出したり、時間を共に過ごしたりするためである。

また、引き取り先が決まるまで1頭ないし数頭を個人が自宅で預かっているケースも多い。結局はその方法が犬にとって最も幸せな動物ホームのありかたではないか、と私は思っているのだが。

ドイツの動物ホームを見学するたびに、日本の未来を考える。日本の「管理センター」が仮に、「殺処分のない動物ホーム」になったとしても、殺処分をなくしたらそれでOK、では決してない。病気の犬はまず治療する(ドイツの動物ホームには専属の獣医師がいることが多い)。かみつく犬をどうするか。野良犬だった犬を家庭犬にするには?虐待されていた犬は?大勢の訓練士が必要になるだろう。そして、引き取られた先の状況確認は?維持費は?(ドイツは寄付だけで運営)。

ドイツの動物ホームは引き取り希望者に決して、「引き取って下さってありがとうございます」ではない。引き取り希望者は自分たちに引き取るだけの資格が備わっていることを証明する必要がある。ドイツのデュースブルク市で、ある大型ペット・ショップがタブーを破り、ついに仔犬販売を始めたことは前に書いた通りだが、店で犬の販売をする目的は単にお金儲け。「犬を飼うことにどれほど本気なのか確かめることなく、買いたい人に売るのは間違っている」というのが、多くの反対意見のひとつになっている。
 

追記:

<前回書いたニュルンベルク動物ホームの仔犬たち:その後>

すべて新しいファミリーのもとに引き取られた。

トラック一杯の仔犬が見つかった


<今年1月から仔犬販売を始めたペット・ショップ:その後>

全ての動物保護団体、ドイツ犬協会、動物ホームがそのペット・ショップの仔犬販売を激しく非難しているにもかかわ らず、販売はまだ続いている。それだけでなく、9つの仔犬専用ショーケース室が増設中だ。売れた仔犬の数は期待していたより少なかっ たという報告があるが、それに関してオーナーは、「冬季は仔犬があまり多く産まれないからそれは当然のなりゆき。年に1000頭を目標にしている」と豪語している。3月までに60〜70頭売れたようなので、現在までおそらく100頭を超したと思われる。
近隣国のベルギーやポーランドでは市場で仔犬を売っていて、買うと段ボール箱に入れてくれるそうだ。ドイツ人はそ のことを前から指摘して非難していたが、「ペット・ショップで仔犬を売る行為は、市場で売るのと何ら変わりはない。ペット・ショップ での仔犬販売はドイツの恥だ」と嘆く人も多い。

タブー破り「ペットショップで子犬販売」!


ドイツのペットショップが仔犬販売(続)     
 

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