動物孤児院 (90)Zippeiくんたちの死を悼んで
動物孤児院 (90)Zippeiくんたちの死を悼んで
熱中症で犬を死なせるということ
テレビ番組で有名だったらしいサモエドが熱中症で死んだというニュースをインターネットで読んだ時、怒りをどこにぶつけていいかわからなかった。過失とは言え、もし人間ならば過失致死罪だろう。うっかりしていました、では済まない。単純な疑問が次々に湧いてきた。
途中でエアコンが止まったのであればその原因は?
車種は?
なぜ公表しないのか?
飲み水はあったのか?
声帯が切られていたというのは事実なのか? (声帯を手術で取るのはEUでは禁止。)
1時間から1時間半もの間、9頭もの犬を、しかも氷雪に耐える毛皮を持つサモエドのような犬を、真夏、車内に残しておく、ということにテレビ局の人たちはなんとも思わないのか?
駐車場で誰も犬たちが車内にいることを目撃しなかったのか?
駐車場は木陰だったのか? 建物の中の駐車場だったのか?
この犬たちは単なる商売道具ではなかったのか、という疑問は出ないのか?
犬をこんなふうに金儲けのために利用するのはもう止めようではないか、という世論はないのか? (ファミリーに飼われている犬を出演させるのとは違う)。飼い主と共に旅する、というコンセプトではなく、出演者は犬の飼い主ではない。娯楽番組のために多頭飼いされている犬を利用することに出演者は疑問を持たないのか? 犬にとって飼い主でもない人間と動き回ることはストレスにならないのか?
テレビ局は次に何という犬種を商売道具にしようとしているのか?
たった5分(のつもり)だったのに!
夏、湿度が低いせいで日本のような暑さにならないドイツでも、窓を閉めれば車内の温度は急激に上昇する。そのようなことは車を運転する大人であれば常識以前のことだろう。
5分ほどのつもりで犬を車に残して買い物を済ませて戻ってきたら車のまわりは人だかりができていた、という話を友人から聞いた。「暑い日でもなかったし、窓を10センチほど開けていたので問題ない」と思ったそうである。「たった5分だったんだよ!」とその人は通行人の反応に驚いていた。
犬を飼っているドイツの友人と近所を散歩していたときも、同じことが起きた。その日は、真夏ではなかったが、歩けば少し汗ばむかな、という程度。それでも、路上駐車している車にシーズー犬が2頭残されているのを発見した彼女は、「飼い主はどこにいるの? 車内の温度はどんどん上がるのよ!犬たちに飲み水も用意してないじゃない!」と車の中をのぞきこみながら大声を出した。道の反対側にいた通行人も「なにごと?」という感じで寄ってきた。
そこに向こうから走ってくる女性が見えた。「7分もたってないのに」女性はブーブー文句を言いながら運転席に乗り込んだ。
駅の構内につながれていた犬を人々が取り囲み、「どうしたらいいか、警察に連れていこうか、ティアハイムに直接連れていこうか」と相談していたら、トイレに行っていた飼い主が大慌てで戻ってきた、という話もある。
ドイツを始めとする西ヨーロッパの人たちは大体こんな反応を示す。1時間も犬を車内に閉じ込める、しかも真夏に、ということは考えられない。この涼しいヨーロッパでさえ、ありえない。そして、真夏に、ある程度の時間がたっても飼い主が現れない場合は、通報を受けた当局 の人間によって窓ガラスが破られることになる。
犬を長時間ひとりにすることもタブー
もっとも車内に限らず、犬を家に置いたまま外出ということでさえ時間制限がある。これは暗黙の了解だ。毎日外で8時間働いていて、つまり通勤時間を含めて合計9時間ほど犬を家に残したまま、というのが外部に知れたら大変なことになる。その大変なことをしていた日本女性がいたことを事後報告として聞いた。
この日本女性は日本からドイツに派遣されて1年滞在したが、日本から愛犬のチワワを連れてきていた。犬はアパートに残して毎日仕 事に行っていたそうだ。9時間近くも犬を家で留守番させていることが周囲に気づかれていたら、大変なことになっただろう。
ティアハイムの動物たちに新しいファミリーを探す番組でも、「この犬はひとりにできません」、「この犬は3時間までならひとりで過ごせます」などといった条件をはっきりさせる。普通、犬は3時間までなら留守番させてもいいようだ。それ以上になれば、誰かに頼んで見に行ってもらったり、散歩に連れ出してもらったりする。定期的に散歩させていないと近所で「犬を飼っているのに散歩もさせてない」と噂され、当局に通告される可能性が高い。
犬の散歩中に出会う犬連れの間でその手の噂が始まる。私も何度聞いたことだろう。
「団地のA棟3階で、先週の日曜日、ドーベルマン・ピンシャーがバルコニーに出されていて3時間もそのままだった。又そういうことがあったら警察に連絡しようと思っている。」と言った人がいた。
「角のアメリカ人の家にはウェスティーがいるけど、昼間は誰もいなくて犬が吠え続けている」と言った老婦人はその家を訪ね、結局、犬の散歩を申し出て毎日数回犬を外に連れ出すことになった。
ドーベルマンのほうはその後、ほったらかしの噂を聞かない。