動物孤児院 (91)Zippeiくんたちの死を「かわいそう」で終わらせてはならない

動物孤児院 (91)Zippeiくんたちの死を「かわいそう」で終わらせてはならない

熱中症で死なせるのは動物虐待

ネットでは「かわいそう」という声のほかに、「これは“立派な”虐待ではないか」と述べる人もいて、少し安心しました。
そうなのです、動物虐待です、少なくともドイツ、スイス、オランダ、オーストリアでは。「うっかり死なせてしまった」では済まない、“立派な”動物虐待という犯罪ですから、飼い主は当然、処罰の対象となるのです。

ドイツにおける過去の例をいくつか拾ってみました。
●ヴァイブリンゲンという町で、車内に犬を1時間半放置して熱中症で死なせた飼い主は3200ユーロ(約32万円)の罰金。
●フルダという都市では35度という暑い日に車内に残されている犬を通行人が発見して、警察を呼び、窓を壊したが死亡。飼い主は1500ユーロの罰金。
●気温33度の日、車内でぐったりしている犬を見つけた人が警察に通報した。窓は左右共7センチほど開いていた。警察は窓を壊して犬を病院に運んだが死亡。飼い主は告発された。(罰金額は不明)。

熱中症は夏だけとは限らない

シュトットガルトでは4月の暖かい日に、車内に残されていたジャーマン・シェパードが熱中症の寸前で喘いでいたところを通行人に発見され、警察によって救助されています。この飼い主は木陰に車を停めて出かけたのですが、車に戻ってきたら、木陰と思った場所に日が照っていたのです。飼い主は1600ユーロの罰金を支払わなければなりませんでした。これでおわかりのように、自分の犬だからといって熱中症で死なせるのは(たとえ犬が死ななかったとしても)飼い主は罰金を課せられるということです。多額の罰金を払った飼い主はおそらく二度と同じあやまちを犯すことはないと思います。愛犬を亡くした上に罰金まで支払わないとならないのですから。

車内は1時間で4度から5度上昇し、太陽が照っていれば30分で上昇するそうです。日差しの弱い日でも、外気温が20度前後しかなくても、そして曇りの日でも、飲み水を用意していても、そして窓を少し開けていても、犬が熱中症になるリスクが少なくなるわけではないそうです。「基本的に車に犬を残して出かけてはならない」と警察も愛護団体も言っています。

警察を呼んで窓を壊してもらう /その時間さえない時は窓を壊す

暖かい日、通りすがりに車内に残された犬を見つけたらどうしますか?
ドイツの愛護団体は一般にこう呼びかけています。
どうか無視しないでください、と。
「誰かが救助を呼ぶだろう」、「余計な世話だと文句を言われるかも」、「飼い主はすぐ戻ってくるに違いない」と自分自身に言い聞かせて通り過ぎてはならないのです。これは命にかかわる問題だから、です。
店やショッピングセンターの駐車場だったら、大急ぎで場内アナウンスをしてもらいます。飼い主がすぐに現れないようであれば警察に連絡します。

車内の犬が明らかに衰弱していて、緊急を要する状態だったら?
その時は窓を壊しても罪に問われることはありません。ただし、以上はドイツでの話です! 日本で同じことをしたら、どうなるのでしょうか? 「よくぞ窓を壊して私の犬を助けてくれた。感謝の言葉が見つからない」と、命の恩人としてお礼を言われるのならいいのですが。法律が犬の命を守っている国と、そうでない国の差がここにあります。

Zippeiくんたちの死を無駄にしたくない

「もうこんな番組はいらない」という怒りの意見をネットで多数見て、ちょっとホッとしたのですが、その声がテレビ番組制作者に届くことを願っています。第一、あんな分厚い毛皮を着たサモエドのような北国の犬が真夏に地方から地方に車で移動させられること自体、問題視されるべきでした。出演者は追悼式で泣き崩れたそうで、彼の悲しみは本物であると信じます。長時間一緒に時を過ごせば愛情も湧くでしょう。しかし、Zippeiくんたちを本当に愛していたのなら、これでタレント犬の番組はお終いにしませんか? 

Zippeiくんたちの死は「なかったこと」にして一刻も早く忘れてほしい、とでも言いたいのか、Zippeiくんたちの情報は跡形なく削除されてしまっているそうです。Zippeiくん兄弟のほかの5頭の犬種さえ明らかにされていません。(9頭も飼っている家の近所の人たちは飼い主が散歩している姿を見たことさえなかった、ということでしょうか?)

しかし、視聴者はこの事件をすぐに忘れて、「次はどんな犬が登場するのかな?」と期待するほど愚かではないと私は信じています。
Zippeiくんたちが私たちに残してくれた“プレゼント”は、熱中症の恐さを示してくれたことだけではなく、「犬を商売道具に利用するのはもういい加減にしないか」というメッセージではないでしょうか。
この事件が決して人々の脳裏から消えることなく、記憶の壁に焼きつくことを、また、犬の飼い方を見直し、テレビのタレント犬の扱いの実情を知り、日本には向かない犬種の知識を深めるきっかけとなることを、そして、動物虐待を厳しく取り締まる法律ができることを願っています。
以後、このような番組を楽しもうという気持ちが人々から離れ、「かわいい」が「かわいそうに」に変化したとしたら、Zippeiくんたちは仏教で言う「浮かばれる」ということになるのでは、と思います。

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