動物孤児院 (94)生体販売ペットショップの1年後
生体販売ペットショップの1年後
子犬見たさに人が押し寄せた
デュイスブルクという中都市にある大型ペットショップが子犬の販売を始めてちょうど1年たった。覚えておられるだろうか。「ペットショップでの犬猫生体販売はタブー」とされていたドイツで、オーナーは大胆にもタブー破りをしたのだ。
昨年の1月、その店は子犬の店頭販売のために80万ユーロ(約9千万円)かけて、6百平方メートルもあるショーケース部屋を作ったのである。床暖房、買い物客の喧騒が中の子犬たちに聞こえないという防音ガラス張りの展示スペース、人間が病気を持ち込まないための消毒設備まで完備されている。
メディアは揃ってスキャンダルとして扱った。インタビュー番組や討論会のトピックに取り上げられ、ドイツ中の愛護団体と個人がインターネット上や手紙やデモンストレーションで抗議した。
特定の犬種を愛するが故に繁殖している本物のブリーダーならば買い手に不信感を抱けば売らないし、そもそも子犬を売りっぱなしにはしない。動物ホームの犬を引き取れば、その後のフォローも必須だ。店のパンフレットには、販売された子犬たちが飼い主のもとできちんと飼われているかのフォローをある愛護団体がすると書いてあったが、その愛護団体は存在していないことがテレビのキャスターに暴かれたりもした。
愛護団体は、「その店で子犬や子猫を買わないでください」と呼びかけた。大勢の人が子犬子猫を買うためでなく、見てみたい一心で「見物」に行った。前にもこの欄で書いたように、ふだんの生活で子犬や子猫を見るチャンスがほとんどないお国柄だ。本物の子犬や子猫を目の前で見たいと思う人が相当いるはずである。
それで結局、子犬の売れ行きはどうだったのか?
オーナーは、「1年で1000頭売ってみせる」と鼻息荒かったが、目標には達せず、400頭にとどまった。それでもオーナーは、「目標は2000頭だ。2014 年には実現させたい」と言っている。
ペットショップでの生体販売には、衝動買いや、家族の同意がないままに購入という問題がつきまとう。この店の発表では3頭が「返品」として戻ってきたそうだ。ある女性は、同居しているパートナーの同意なしで犬を衝動買いした。そのことでケンカ、そして彼は家を出て行く。ひとりでは犬を飼い続ける経済的余裕がないので「返品」。ジャックラッセルテリアの購入者は事故に遭って、犬の世話ができなくなった。ラブラドゥードル(ラブラドルとプードルのミックス)を買った人は犬の毛アレルギーが出たので飼えなくなった……。
子犬集めに苦労?
ドイツでは犬を繁殖するには犬種別のクラブ(同盟)に入らないと血統書を発行してもらえない。素人が勝手に繁殖した犬には血統書がないので、店は純血種として高額で売ることができない。それでこのペットショップのスタッフは5百キロから千キロも車を走らせて繁殖家を探して回るらしいが、彼らの条件をクリアする真剣な繁殖家は半分しかいない上に、「我々は<優秀な子犬だけを売る>のをモットーとしているため、生まれた子犬を調べて我々の目にかなう子犬は半分しかいない」などと言っている。
ドイツの犬種別クラブ(同盟)は、「店に売ったら、除名」と決断を下したので、真面目な繁殖家はこの店の勧誘に乗ることはないと思われる。金儲け目的でない繁殖家ならば店のスタッフの誘いには乗らないだろうが、それでもドイツ中に百人から2百人は、「産ませ、増やせ」の子犬サプライ繁殖屋が存在していることになる。
店としては、「偶然できちゃった」結果のミックス子犬も売り犬の候補に入れている。500ユーロ(約6万円)ぐらいで販売する計画だったそうだ。血統書付き子犬の平均価格の半分である。しかし、ドイツに野良犬はいないし(さまよっている犬は誰かがすぐに報告し、警察が保護する)、子犬の入った段ボール箱を発見するような<超ラッキーなできごと>はまず聞かない。そして、放し飼いにすることのないドイツでは、「偶然できちゃった」はありえないのだ。避妊去勢は常識化しているので、いつの間にか脱走したらしい我が家の犬のお腹がだんだん大きくなって……ということにはなりようがない。
知り合い同士で、「うちの犬とおたくの犬、交配させて子犬を生ませたいね」という話は出ることがある。私も小型犬を散歩させていて、同じ大きさの雌犬ミックスの飼い主から話を持ち出されたことはあるが、私の「この犬、去勢してます」の一言で話は終わり。
続けていくしかない不買運動
ドイツの動物ホームでは今日も大小各種の犬たちが新しいファミリーが現れるのを待っている。どのホームも満杯状態というのに、それでも近隣の国々から犬がどんどんドイツに連れて来られる。スペイン、ポルトガル、ギリシャなど、日本と同じく殺処分があるからだ。現地の人たちと協力し合って、あと数日で殺される運命の犬たちを救出するグループも数多い。
風光明媚な南ヨーロッパなど想像し難いかもしれないが、田舎に行けば行くほど動物愛護意識の低い人の率が高い。田舎はあんなに美しく、食べ物も美味しく、人々はフレンドリーなのに、動物の扱いと来たらとても動物愛護先進国とは呼べない。(このGAPは何だろう?)
東欧と来たら……、最悪の状態から抜け出していない。特にひどいのがルーマニアで、ブリジット・バルドー女史もカンカンに怒ったが、道は遠い。最近ではある収容所が1日に270頭撲殺した。ルーマニアは貧しく、日本のように近代的設備のお金はないからガスで窒息死させるのではなく、1頭ずつ小屋から引きずり出して殺す。(犬たちの叫び声が耳から離れない。)ドイツのチームが隠しカメラで撮影したのである。テレビのアナウンサーは、「みなさん、どうぞ目をそらさないでください」と言った。
私の住む村にはルーマニアから連れて来られた犬を飼っている人が少なくない。
ルーマニアの犬たちを救ってはドイツに連れて来る人たちがいるかと思えば、500キロも千キロも運転して店に並べる子犬の仕入れに全力を尽くす人たちもいるというわけか……。
ドイツの動物ホームでは今日も大小各種の犬たちが新しいファミリーが現れるのを待っている。どのホームも満杯状態というのに、それでも近隣の国々から犬がどんどんドイツに連れて来られる。スペイン、ポルトガル、ギリシャなど、日本と同じく殺処分があるからだ。現地の人たちと協力し合って、あと数日で殺される運命の犬たちを救出するグループも数多い。
風光明媚な南ヨーロッパなど想像し難いかもしれないが、田舎に行けば行くほど動物愛護意識の低い人の率が高い。田舎はあんなに美しく、食べ物も美味しく、人々はフレンドリーなのに、動物の扱いと来たらとても動物愛護先進国とは呼べない。(このGAPは何だろう?)
東欧と来たら……、最悪の状態から抜け出していない。特にひどいのがルーマニアで、ブリジット・バルドー女史もカンカンに怒ったが、道は遠い。最近ではある収容所が1日に270頭撲殺した。ルーマニアは貧しく、日本のように近代的設備のお金はないからガスで窒息死させるのではなく、1頭ずつ小屋から引きずり出して殺す。(犬たちの叫び声が耳から離れない。)ドイツのチームが隠しカメラで撮影したのである。テレビのアナウンサーは、「みなさん、どうぞ目をそらさないでください」と言った。
私の住む村にはルーマニアから連れて来られた犬を飼っている人が少なくない。
ルーマニアの犬たちを救ってはドイツに連れて来る人たちがいるかと思えば、500キロも千キロも運転して店に並べる子犬の仕入れに全力を尽くす人たちもいるというわけか……。
ホッとしたことがひとつある。ドイツに生体販売のペットショップが出来たとき、他のペットショップが、待ってましたとばかりに利潤の多い子犬子猫の生体販売を始めるかもしれないという恐れは杞憂に終わったことだ。インターネットでも多くの人がそのことを心配していた。
今後は買う人がどんどん減って、店側が子犬子猫販売は利益をもたらさないと認めてくれたらいいのだが。犬猫の店頭販売が再びゼロになったとき、ドイツの動物愛護意識はさらに一歩前進するのではないかと思う。