動物孤児院 (96)40トン大型トラック4台分の愛
40トン大型トラック4台分の愛
動物愛護を笑顔で話せない
ミディアムの仕事をしているポール・ミーク氏から、「天国のお父さんが、“あなたはいつも怒っているね”と言ってるよ」と言われてしまいました。本当にそうだな、とドキッ……。「でもそれにはわけがある」という気持ちがあります。日本国内の数県では殺処分トラックが今日も巡回しているわけだし、そのことさえ知らない獣医師が大勢いるし、日本中のペットショップは相変わらず子犬を陳列しているし(売れ残った子犬はどうしている?)、大型ペットショップは増え続けているし、怒らないではいられない。いや、怒りというより、むなしさ、悲しさのほうが強いかもしれない。
犬の記事を書くために情報集めしていると、あるある。もう世にも恐ろしい「ありえない!これが人間のすることか?」と叫んでしまうくらいの話が世界中ゴロゴロころがっています。
先週はタイからラオスに密輸される犬が25万頭というニュースが報道され、写真もありましたね。(日本でも数日前にインターネットのニュースにあったので、ご覧になられた方もいらっしゃるでしょう。ラオスではそれほど犬の肉が求められている?)トラックの荷台にぎゅうぎゅうに押し込められて、殺されるためにラオスまで連れて行かれるのです。「現代のアウシュビッツ」ですね。
どうすることもできない、救うことのできない悔しさ……、そういったネガティブなエネルギーの波にのまれてしまうような気になってきます。
ニセの動物ホームで金儲け
ヨーロッパの動物愛護に関して言えば、ルーマニアが汚点的存在としてあまりにも有名になってしまいました。「ルーマニアは犬の地獄」という表現を使う新聞もあります。犬を捕まえては撲殺していくマフィアが横行しているからです。撲殺された犬をずらりと道に並べた写真には、やせて骨と皮だけの犬もいるし、生後3ヵ月ほどの子犬もいました。
「犬の地獄」という汚名返上にはあと何年かかるかわかりません。ルーマニアでは、ニセの施設が次々とできて、犬を保護するふりをしてEUから援助金を受け取るのです。一頭につき250ユーロ(約3万円)出るそうです。250ユーロはルーマニアでは大金ですからね。EUの会議でその支給額を取り決めた役人は、お金が犬のためにきちんと使われると思うくらいウブなんでしょうか。ドイツでは動物ホームから犬を引き取る際、1頭250ユーロ支払わねばなりませんから、基準を同じとしたのでしょうか。
さて、ルーマニアでは何が起きているのかと言うと、マフィアの人間たちは犬を保護するふりをして殺しているのです。郊外の野原のあちこちで射殺された犬たちの耳には「避妊済み」のしるしがついています。前も書いたように、保護施設とされている場所で犬たちを殴り殺しているシーンは何度もテレビ放映されています。
NPO(非営利団体)と称する団体はどこまで信用できるか?
ドイツからルーマニアに寄付をする場合、ニセ保護グループにお金が行かないように見極めないと、とんでもないことになります。もちろん、全財産をなげうって犬を何十頭も集めて養うルーマニア人もいます。ドイツ、スイス、オーストリア、オランダなどに犬を次々に移送し続ける民間団体もできました。頼るは民間の本物の団体です。そういう現象を知るうちに、これは日本も将来気をつけないと、と思いました。
いつの日か日本で政府が殺処分をしないと決めた、とします。保護施設に給付金を出すというようなことになったら、どういった事態が予想されるでしょうか? ルーマニアのマフィアがしているように、数だけ集めて給付金を受け取り、えさ代や場所代を浮かすためにこっそり殺す「ニセ保護センター」が現れるかもしれません。
なぜ私がそこまで疑い深くなるかと言うと、日本の介護の実情を垣間見たからです。母の介護に10何年か係わってきて、介護制度の始まりから係わってきました。NPOなんか名乗って、「Non Profit Organization?どこがぁ?笑わせないで」状態の介護グループもありました。ちゃんとガッポリ稼いでいて、非営利だって? ボケの進んだ高齢者のところに出向いて、時間数を加え、働いたことにする。誰もチェックしないし、する方法もない。お金は政府から支給されるし、家族も世話される老人も気づかない。介護は「もうかる福祉」と言った人がいました。(でも、介護でもうけるのが悪いのじゃないです。内容がしっかりしていれば報酬もそれなりに高いっていうのは当然でしょう。)嘘の報告で簡単に政府をだませるというシステム自体が問題なのです。
話が老人介護になってきたので、軌道修正して動物保護へ戻ります。要するに、政府が何もわからないまま、犬猫のことなど選挙には無関係と思っている政治家がテキトーに決議すると、賄賂とお金儲けしか頭にない連中のやりたい放題のルーマニア的動物ホームが出現するだろう、ということを言いたかったのでした。犬はできるかぎりフォスターファミリーのもとで一般の人が2、3頭を限度に預かる方式をとって、新しい飼い主を探すという方法が犬のためにベストだと思っています。(ドイツにはティアハイムのほかにフォスターファミリー方式だけとるグループもあります。)
ラーブさんの笑顔と勇気
前回、タマラ・ラーブさんという女性(大型トラックの運転手)を紹介しました。ルーマニアの民間の保護施設にトラックを運転して行っては、ドイツとオーストリアから集めた物資と現金を手渡しています。政府が機能していない国では、現地で実際に保護している人たちに会って直接手渡す方法しかありません。
ラーブさんのやりかたは大成功でした。
「ドッグフードを寄付して!要らなくなった毛布やタオルを!」
それがどんな波紋を引き起こしたか。ドッグフードを寄付してって言うのは、募金よりも説得力がありました。ルーマニアの犬たちに「今」「切実に」必要な物とは何かを訴えるパワーを持っているからだと思います。
そして何よりも、「なぜ集めるのか」という問題意識が私たちの中に生まれる。食べ物がもらえない犬や猫がいる国がある、ということを知る。寒さの中でくるまる毛布もタオルもない国がある、ということを知る。
ラーブさんは最初、物資が十分に集まらなかったらどうしようと心配だったそうです。しかし、インターネットとフェイスブック、それにテレビでのインタビューが威力を発揮しました。またたく間に40トンのトラック1台ではとても運びきれない量が集まったのです。合計4台は必要になり、今度は「自分だけでは運べない、どうしよう」という新しい悩みが出て来ると、すぐに運送会社からあと3台の提供、3人のトラック運転手がボランティアを申し出てくれました。
それ以後も次々と問題が起きるのですが、不思議なくらい、すぐに解決してしまう。しかしその中でトウモロコシ粉の袋詰めは本当に大変だったみたい。トウモロコシ粉1400キロの寄付を受け、500キロは袋入りだからいいとして、900キロはばらだったので彼女は徹夜して25キロずつ袋に入れたのでした。(「これだけの量があれば相当な数の犬がお腹一杯食べられる」と、自分に言い聞かせながら詰めたそうです。)実は、彼女の住まいは私の家から車で7分の距離だとわかって、びっくりしています。これからは袋詰め、物品の整理、運搬の手伝い、何でもしますよ〜!
薬もたくさん集まり、ドイツに住むルーマニア人が説明書をドイツ語からルーマニア語に翻訳してくれたそうです。
出発当日の早朝、倉庫に預けていた物資をすべてトラックに積み込み、ウィーン経由でルーマニアへ。ウィーンでも物資が待っていたのです。そして、いよいよルーマニア入り。国境も問題なく通過でき、約束の場所では道路脇にルーマニアの男たちが犬小屋用に敷くためのワラを山積みにして待っていてくれたそうです。
ルーマニアでは動物愛護という観念がまだほとんどなさそうですが、希望の光がわずかですが見え隠れしています。ルーマニアで殺処分がなくなるまであと何十万頭、何百万頭の犬たちが犠牲になるのでしょうが、それでも、できることからする以外ありません。